番外編 赤いヘアピン
さて、宿を出る時に俺がなんて言ったか覚えているだろうか?
“なんかお土産をかってくるよ”そう言ったのだ。
さて、私の手元にはジャスミンから貰った金貨を服と散髪に使って銀貨12枚ほどになったのだが、これで十分なお土産を買えちゃうのだ。
しかし、ジャスミンから貰ったお金でジャスミンへお土産を買ったところで何になるだろうか?
せっかくなら自分で稼いだお金でお土産を買ってやりたいじゃないか――!!
ある程度の元手がある状態で、楽に金を稼ぐ方法と聞いて何か思い当たりませんか?
そうギャンブルですね。
俺は吸い込まれるように賭場へと入っていった。
賭場で行われていたのは、丁半博打という種類の博打だ。
二つのサイコロを振って、その和が奇数か偶数かを当てるゲームだ。
実力が絡まない分、素人でも大勝の可能性がある。
そんな丁半博打を続けること、約30分……
これが大勝しているのだ――!!
負けは小さく、勝ちは大きく、そんな張り方をして気付けば金貨5枚に銀貨10枚だ。
調子に乗った俺はどんどんと掛け金を大きくしていく。
しかし、急に負けが込んできた。
ギャンブルにおいて持ち金を増やすのは時間がかかるが、失うのは一瞬だ。
気が付くと俺は一文無しになっていた。
どんな顔して帰ればいいんだろう――
自分のしくじりを思い返して、とぼとぼと帰りながら絶望する。
ふとポケットに手を突っ込むと、手の先に何か固いものが当たった。
銀貨だ――!!
一文無しだと思ったが、実はまだ銀貨1枚だけポケットの中に残っていたのだ。
流石にもうギャンブルは懲り懲りなので、銀貨1枚で買えるお土産を探すことにした。
怒られる心の準備をしてから、ゆっくりと部屋のドアを開ける。
「あら、ずいぶんと綺麗になったじゃない」
ジャスミンが笑顔で出迎えてくれる。
清潔な服に着替えて、髪を短く刈り揃えた俺は別人のように見えただろう。
「あ、ああ……うん」
俺はモジモジとしながら返事をする。
心の中で、どうやって今の状況を説明しようか考えている。
ジャスミンは俺の様子を見て、何かを察したらしい。
「ちなみに、お金ってどれくらい残ってる?」
ジャスミンは恐る恐るといった感じで俺に尋ねた。
「一文無しです……」
「ぜ、全部つかっちゃったの!?」
ジャスミンは驚いて目をまん丸にして、文字通り開いた口が塞がらない状態だ。
「ちゃんとお土産は買ってきたから……」
「ジャスミンの金髪に似合うかなと思って」
俺はジャスミンの方へ恐る恐る両手を差し出す。
掌の上には、赤いヘアピンがちんまりと乗っている。
正直、拳骨の一発は覚悟していた――完全に俺が悪いのだから仕方ない。
しかし、ジャスミンはそこまで怒ってはいないらしく、なんなら微笑みさえ浮かべている。
「ありがとう」
そう一言だけ言うと、まだ夕方なのに背中を向けて眠ってしまった。
それを見て俺は安堵のため息を漏らす。
ヘアピンに銀貨1枚は少し勿体ないと思ったが、お土産はヘアピンで正解だったみたいだ。
銀貨1枚で鉄拳制裁を回避できたと思えば儲けものだ。
ジャスミンの頬が窓から差し込む西日のせいだろうか、赤く染まっている気がした。




