第16話 文無し男
「ジャスミン、そろそろ休憩しよう」
俺はゼェゼェと息を切らしながら頼んだ。
「さっき休憩したばっかりじゃない」
少し先行しているジャスミンは振り返って応える。
“さっき”って4時間前くらいのことだろ――
誤解しないでほしいが、俺が軟弱なんじゃない。
ジャスミンが超人なのだ。
俺の荷物も背負っているにもかかわらず、足取りは手ぶらの俺より軽やかだ。
「た、頼む……」
ほとんど絞り出すような声で懇願する。
「はいはい、休憩ね」
ジャスミンがやれやれと言った表情で駆け寄ってくる。
「お水をお出ししますわ」
わざと慇懃な態度で水筒をこちらへよこす。
「頑張れば今夜は宿で泊まれそうよ」
地図で道を確認していたジャスミンは、笑顔を作って俺に語りかける。
「マジで!?」
もう野宿が日常になっている俺にとって、宿という言葉ほど心躍るものはない。
「元気が出たみたいだし、もう出発しましょうか」
ジャスミンはそう言うとニッコリと笑った。
やられた――
結局、貴重な休憩時間はボッシュートされてしまった。
ジャスミンは嘘をついてはいなかった。
俺たちは日暮れまでに大きな町へと入った。
や、宿に泊まれる――
そう思えば疲れなんて忘れて、どんどんと前に進める。
「あっ――」
あることを思い出し、コツコツと積み上げた希望の塔は夢幻のように消え去った。
「急にどうしたの?」
「俺、そういえば一文無しなんだ」
「あきれた……」
「よく今までやってこれたわね」
絶望だ――
ちなみに町での野宿は人の目がある分、精神的ダメージがプラスされる。
「あなたの分も払ってあげるわよ」
ジャスミンがぽつりと呟いた。
「へ!?」
「宿代、あなたの分も払ってあげるわよ」
「お金持ってんの!?」
「当たり前でしょ」
「どこの世界に無一文で家出するバカがいるのよ!!!」
どうやら本当にあきれ返ってしまったようだ。
異世界にいます――
そう心の中で答えて、俺はジャスミンに礼を言いった。
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