第15話 疑問
「だ・か・ら本当の話だって言ってるだろ!!」
「だ・か・らありえないって言ってるでしょ!!」
もう何回このやり取りをしただろうか。
家出少女は俺と同じくデオンへ向かうつもりらしい。
“旅は1人より2人の方が安全”というところで意見が一致した家出少年と家出少女は一緒に旅をすることになった。
「私のことはジャスミンって呼んで」
彼女は露骨に目をそらして、そう名乗った。
おい、なんで目をそらした――
なんとなくだが、偽名っぽい感じがする。
「私、デオンにいる兄にどうしても会いに行きたくて飛び出してきたの」
ジャスミンは綺麗な瞳をまっすぐこちらへ向けて話す。
どうやら旅の動機の方は本当らしい。
順番的に次は俺が自己紹介するわけだが――
「僕の名前は黒田優斗です。異世界から来ました」
こう紹介されて納得する人などいるはずがない。
案の定嘘つき呼ばわりされて冒頭の状況に至るわけだ。
「別に素性を隠したいならそれでもいいわ」
「でも、しょうもない作り話はやめてくれない?」
俺がからかって適当な嘘を並べていると思い込んでいるのだろう。
ジャスミンは自分が偽名を使っていることを棚に上げて、激しく追及する。
「ほら、これ見てみろよ!」
俺もムキになってリュックからボロボロになった資料集を取り出す。
砂漠でスコップとして活躍してくれた森川の日本史資料集だ。
「ここ、日本って書いてるでしょうが!!」
「俺はこの日本っていう異世界から来たの!!」
ここだけ切り取ると俺は完全にイカレ野郎だ。
「この国にはここまでの印刷技術はないだろ」
勝ち誇ったように言い放つ。
Q.E.D. 証明終了だ――
「う~ん」
ジャスミンはまだ半信半疑といった感じで資料集を見ている。
「だめ、やっぱり信じられないわ」
「なんでだよ、ちゃんと証拠もあるじゃねーか」
「どこが信じられないか、ちゃんと根拠を出して言えよ」
つい、イラっとしてキツイ言い方をしてしまう。
ジャスミンはついに黙り込んでしまった。
非常に気まずい空気が二人の間を流れている。
ごめん、言い過ぎたよ――
そう謝ろうとした時、しばらく黙っていたジャスミンが口を開く。
「やっぱり、あなたの話には不可解な点があるわ」
「まずは、どうやって日本とかいう異世界からこのエルドラド大陸へ来たのか」
「そしてなぜ貴方がこちらの言葉を理解して話せるのか……」
なぜ言葉を話せるか――?
1つ目の疑問は確かに俺にとっても不可解な点だ。
どんな原理で俺がこの異世界へ飛ばされたかはわからないままだ。
しかし、2つ目の意味が分からない。
「俺だって義務教育はちゃんと受けてるし、日本語なんて……」
そう口にしてからようやくジャスミンが言いたいことに気付く。
そういえば、なんで日本語が通じてるんだ――!?
竜人族のスティオと初めて会った時の衝撃を思い出す。
あの時はトカゲが言葉を話せる驚きにすべて持ってかれていた。
しかし、この世界の人間が日本語を話していることこそ、一番驚くべきポイントだったのだ。
日本から比較的近い国である中国や韓国でさえも、それぞれ異なる言語を使う。
もちろん、語源などのルーツなどで共通点はあるだろうが、完成形としての言語は全くの別物だ。
「例えば竜人族の中には、確かに人間の言葉を理解できる者がいるわ」
「けれど、彼らの母語は竜人族語なの」
「人間の言葉は商いを円滑に進めるために習得したものよ」
「つまり……」
「つまり、こう言いたいんだろ……」
「同じエルドラド大陸内でさえ様々な言語体系があるにも関わらず、空間的に断絶している異世界人が同じ言語を使ってるのはおかしい」
「そういうこと」
異世界系の物語では当然のように日本語が通じていることも多い。
しかし、異世界で日本語が通じるということは異常なのだ。
もしかして、ジャスミンってかなり頭いい――?
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今回のフラグは後の方で回収されるので、気長にお待ちください。
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