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第11話 親友との別れ

「うん、こりゃ完全に撒いたで」

盗賊を撃退してから1日経つが、背後を尾行されている気配はないらしい。

スティオは満面の笑みを浮かべている。


「スティオ、あの盗賊はどうなったんだろうな?」


「まあ、今頃干からびて死んでるやろうな」


「……スティオに助けられた俺ってめちゃくちゃ運がよかったんだな」


「クロダ、これだけは覚えとけよ」


「砂漠は弱肉強食の厳しい世界や」


「お前は盗賊を撃退する知恵をもってたから生き残った」

「そして俺はそんなクロダを拾うという運を持ってたから生き残ったんや」

そう言うスティオの顔はどこか悲しげだ。

厳しい言葉とは裏腹に、どこかで盗賊たちに同情しているようだ。


「優しいやつなんだな」

スティオには聞こえないくらいの小声でつぶやく。




砂丘を超えて2日が経った。

まばらだが、青々とした植物が目に付くようになってきた。

そろそろボルボ砂漠を抜けようとしているのだ。


「なあスティオ、ボルボ砂漠を抜けたらどこに出るんだ?」


「ゾアン王国やな」

「明日くらいには人間族が暮らす村につくんちゃうやろか」


「王国ってことはお姫様とか王子様とかがいるんだよな!?」


「クロダ、あんまり期待せん方がええで」

「なんせ森に囲まれた辺鄙(へんぴ)な土地やからな」

砂漠出身の竜人族にだけは言われたくない、ゾアン国民もそう思っているだろう。


「へぇ~」

「なんか特産品とか有名な産業とかあるの?」


「う~ん、木材と……奴隷やな」


おい待て、今とんでもないことを言わなかったか――!?

「ど、奴隷!?」


「特に獣人族の奴隷は高値で取引されとるな」

「どこの国も戦争続きやから暫く需要は高いままやろな~」

スティオはケロリとした顔をして、そう言った。


スティオとの生活ですっかり平和ボケして忘れていた。

ここは異世界なのだ。

元の世界だってつい最近までは人が所有物として取引されていた。

異世界で奴隷制度が当然のように受け入れられても、別に不思議じゃない。


なんか異世界に来たっていうよりタイムスリップしたみたいだな――

むしろ元の世界とこの世界との共通点があまりにも多過ぎるような気がする。

これも単なる偶然なのだろうか?




スティオの言う通り翌日の昼にはゾアン王国の村についた。

道に沿うようにして、石と木を組み合わせて作られた民家が立ち並んでいる。

民家の周りには畑が広がっており、男たちが額に汗をながしながら畑仕事をしている。

衣服は布に体を通す穴をあけただけといった感じの粗末な作りで、土で汚れてボロボロだ。

どれも資料集で見た中世ヨーロッパの風景にそっくりだ。


スティオとの旅は人間のいる村につくまでという約束だ。

いよいよ別れの時が近づいてきている。


「クロダ、村についたけどこれからどうするつもりや?」

「いっしょに行商人をやるっていう選択肢もあるぞ」


スティオとの旅がこれからも続けばどれだけいいだろう。

スティオの提案はとても魅力的に感じる。


しかし、この世界のことをもっと知りたい自分がいる

好奇心と友情を秤にかけるが、すぐに結論を出せない


「もう少し、この世界のことを知りたい……」

思い切って声に出して言ってしまった。


「そうか……」

「俺ら竜人族はゾアン王国よりも先には進めないんや」

「クロダとはここでお別れやな!」

スティオはそう答えると、すこし寂しそうに笑った。



「この道をずっと南へ行くとデゴラという国に出るはずや」

「そしてデゴラからさらに西へ向かうとデオンというエルドラド大陸で最大の都市に出る」

「デオンならクロダが知りたい情報がきっとあると思うで」

スティオは地図を広げて丁寧に道順を教えてくれる。

挿絵(By みてみん)


「デオンだね、わかった……」


俺とスティオは固い握手をして別れた。

スティオの固い手を握った時、またいつか再開できるような気がした。


俺とスティオはお互いが見えなくなるまで、ずっと、ずっと手を振っていた。

スティオが遠くなるにつれて、どんどんと視界がにじんでくる。

砂漠では一滴も出なかった涙が、溢れ出て止まらなかった。

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