第10話 盗賊
さて、俺とスティオの生き残りをかけた作戦が始まろうとしている。
まずは荷馬車にある価値の低い貨物と酒、干し肉などを捨てて身軽になる。
そして日が傾いてきたところで野営準備をして夜を待つ。
「ほんまにうまくいくんかね~」
そう呟くスティオは図体の割に小心者らしく、ずっとソワソワしている。
さっき握手を交わした時の、あの意気込みはどうした――!?
「死ぬ気で頑張って、成功させましょう」
俺は何度もこうやってスティオを励ましてやっている。
「せやな!」
「ほな、そろそろ行くか」
スティオはようやく覚悟が決まったらしく、勇ましく立ち上がった。
二人はそっと野営地を抜け出すと、抜き足差し足で来た道を引き返す。
つまり、俺たちは盗賊のいる方向へ向かっているのである。
“逃亡と見せかけての奇襲”それが俺の提案した作戦だ。
野営地から2kmほど進むと、なにやら騒がしい声が聞こえてきた。
「いや~それにしても奴ら気が利きますね~」
「おうよ、酒だけでなくつまみの干し肉も落っことしてくれるんだからな」
「いっそのこと女も落としてってくれれば良かったス」
「「「ガハハハハ!!!」」」
3人の山賊が焚火を囲んで、ベロベロに酔っぱらっている。
彼らの周りには空になった酒のボトルと食い散らかした干し肉などが転がっている。
作戦通りだ――!!
心の中でガッツ・ポーズをする。
「ふん、奴ら油断しきってやがるぜ」
スティオが鼻を鳴らして、耳元でささやく。
油断するのも無理はない、こちらは積荷を捨てて逃亡アピールをしているのだ。
奇襲をかけてくるなんて夢にも思うまい。
酒と干し肉を落としたのも、もちろん作戦の一つだ。
勝利を確信して勝ち誇っているところに酒と干し肉があれば、ちょっとした前祝いをしたくなってしまうものだ。
スティオが盗賊たちから少し離れたところを指さしている。
指さす方を見てみると、3頭の馬がつながれている。
ナイス――!!
俺は親指を上に立てて、スティオに返事をする。
俺とスティオは足音を忍ばせてこっそりと馬の方へ向かった。
盗賊たちは俺たちに全く気が付かないまま、酒宴を続けて盛り上がっている。
「どうだ、乗れそうか?」
スティオが声をひそめながら尋ねる。
「正直、わからないです……」
「でも、やってみます!!」
スティオはウィンクをして応えると、軽々と馬にまたがってみせた。
俺も負けてはいられない。
馬にしがみつくようにしながら、なんとか馬にまたがってみせる。
「あぶみはちゃんと踏むこと」
「手綱を離さないこと」
「そして馬にとっての優しい主人でいること」
スティオが教えてくれた乗馬のコツを頭の中で復唱する。
「それじゃあ、やりましょう!!」
俺がそういうと、スティオはうなずいて応える。
スティオは少し申し訳なさそうな顔をしながら、俺たちが乗らなかった馬の尻を思いっきり蹴り上げた。
「ビィーーーーーーーン」
馬はすごい悲鳴を上げて逃げ去っていく。
「あっ、馬泥棒だ!!!」
泥酔状態の盗賊たちも馬の悲鳴でさすがにこちらに気付いた。
「野郎、ぶっ殺してやる!!!」
盗賊は凄んでこちらへ駆けてくるが、酔っているので足がもつれてすぐコケてしまう。
「酒とつまみの代金は馬でもらってくで!!」
スティオは山賊たちに捨て台詞を吐くと、すぐ駆け出して行った。
俺も馬の腹をあぶみで優しく叩いて出発する。
馬はこちらの意図を察してくれたらしい、徐々に加速していってやがて風を切るようにして走るようになった。
思ったより揺れるので、振り落とされないようにするだけで精一杯だ。
「見ろよ、もう夜が明けるぜ」
先行していたはずのスティオがいつの間にか並走している。
風景を眺める余裕なんて本当はないが、恐る恐る目線を上げてみる。
綺麗だ――!!
そう思わずにはいられない。
目の前には太陽に照らされて黄金色に輝く砂漠の姿があった。
潮が満ちていくように、太陽は大地を黄金色に染め上げていく。
暗く冷たい夜の面影はもうどこにもない。
「スティオ、俺たちやり遂げたぜ……!!」
感動のあまり、俺はスティオの方を向いて叫んだ。
スティオはポカンと口を開けてこちらを見ている。
「クロダ、お前自分のこと“俺”っていうんだな」
「あ、思わず」
「さては俺に気を使ってたんやろ~」
「胸張って堂々としてろよ。今晩クロダはそれだけのことをしたんや」
「おう――!」
馬上の上から眺める景色は少し高く、いつもとは世界が違って見えた。
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