第1話 夢の中では
空は高く、一陣の風が吹いて草原が波打つ。
ピクニックにはうってつけの牧歌的な風景だ。
こんなところでゴロリと昼寝をしたら、どれだけ気持ちのいいことだろう。
しかし、この平和そのものの風景はやがて血濡れた戦場へと姿を変える。
「ほ、報告します!!!」
「全部隊の陣形が整いました!!」
いかにも新兵らしい青年が頬を紅潮させて報告する。
背後には数万の兵が整列している。
しかし、目の前にいる敵の兵数は自軍の1.5倍はあるだろう。
この兵数差を覆しての勝利はすべて自分の指揮にかかっている。
「報告ご苦労、自分の部隊に戻ってこう伝えてくれ」
「この戦、既に勝利は確約されていると」
静かに、それでいて威厳のある声でそう答える。
新兵は目をキラキラと輝かせて敬礼をすると、自分の部隊へ駆けて行った。
もちろん不安がないわけではない。
この作戦に致命的な欠陥はないか、作戦が成功したとしてこの戦力差を覆せるのか。
しかし、今になって考えたところでどうしようもない。自分を信じて全力で戦うしかない。
「進め――!!!」
そう宣言すると銅鑼の音が草原に鳴り響き、数万の兵が一斉に前進する。
兵士たちは銅鑼の音でリズムを取りながら、歩幅をそろえて進んでいる。
一糸乱れぬその姿は草原を這う一匹のムカデのようだ。
数十メートルほど進んだところで、敵の魔法攻撃が雨にように降り注いできた。
だれか兵が倒れると、後ろの兵が空いた穴を埋めるので、戦列は全く乱れていない。
「戦列さえ乱さなければ、敵の魔法など恐れるに足りない」
「この戦、必ず勝つぞ」
自軍を鼓舞するために、声の限りを尽くしてそう叫ぶ。
「「「オオオォォォ!!!!!!!!!!!!!」」」
数万の雄叫びが重なり合って空気がビリビリと震える。
魔法攻撃を受けても軍の士気は全く下がらないままだ。
敵まで数十メートルの距離まできた。
ここまでは作戦通りに進んでいる。
人生にやり直しなんて存在しない。
そう思うと馬の手綱を握る手に力がこもる。