34.対峙
暗がりで獣の猛る声が響いている。
それはひとつふたつと数え得るものではなく、幾つもの群れがそれぞれ唸りあっているような獰猛な合唱である。辛うじて互いが見える程度の明るさの中、爛々と輝く灯りが不気味に光る。
エルが治める城の最下層、城門と幾つかの障壁に隔てられた深部。
夜行性の魔物が占めるこの空間は、今頃はその大半が眠りに誘われる時分だ。常ならば、どこか長閑な空気が漂っている筈である。
だが、今やそこは酷い興奮と熱気に包まれている。
魔物たちが一様に睨み据えるのは、正門のある方向だ。
深部ともなれば、城門の様子は殆どわからない。夜が明けたとはいえ差し込む陽光は弱く、全てを把握できるほどの明るさはない。そのため城壁のあちこちに松明が掲げられてはいたが、さほど効果は得られていなかった。
夜行性の魔物に至っては、ある程度は見えているものの、光の淡さ故に全体的に靄がかっているような状態である。結局、時折聞こえる剣戟の音や断末魔の叫びなどから状況を推測するしかなかった。
無意識の仕草と唸り声が、彼らの中に燻る感情を表していたが、それでも彼らは臨戦態勢を崩すことなく従順に出番を待っていた。その逸る興奮と闘志を抑え込んでいるのは、『命令』という鎖だ。
彼らの指揮官、そのまた上に連なる命令系統に対する信頼が、彼らを従順な兵士にしている。
そしてその指揮官たちは、遥か上層から全体を見下ろしていた。
松明の影がちらちらと壁で踊る様を眺めながら、エルはふと首を傾げる。
「外の様子はどうなってる?」
エルは、スノウの予想していた通り、幹部たちの階層にいた。アイシャやスイなどの四天王が普段過ごす場所より、幾らか下った階層だ。
その階層の中心に大きく穿たれた穴の傍にエルは佇んでいる。
最下層から上層まで続く吹き抜けは、全体の様子を見渡すのに便利だ。ちなみに、エルが現在の場所に移動したことも、下層の状況がよくわかるからというのが大きな理由である。
下からの熱風に緋色の髪が炎のように揺らめく。額にかかったそれを長い指で掻き上げて、傍らの側近へ視線を向ける。
「ノルが指揮を執っています。城門の前で膠着状態とのことですが」
結構持ってますね、と困惑気味に答えたのはアイシャだ。
ノル、というのはアイシャの副官である。体格の良い偉丈夫で、アイシャと並ぶと兄弟――もっと言えば大人と子供のように映る。副官はアイシャの方が格好がつきそうだ、とはエルのあんまりな弁だ。勿論、それはあくまでも人型の外見上のことなのだが。
その副官の指揮能力をアイシャは買っている。そのためアイシャの予想では、城門に押し掛けた王国軍などあっというまに蹴散らしてしまうだろうと思っていたのだ。
ところが意外に人間がしぶとい。魔法のサポートがあるからとはいえ、城門から引き離す程度はできてもいい筈だというのがアイシャの言葉の理由である。
その疑問に答えたのは、窓辺に陣取っているスイだった。
「対抗武器を幾つか使用しているようです。魔獣程度ならば、そこそこ有用でしょう」
回廊に穿たれた窓から遠くを眺め、言う。少し細めた金色の双眸は、遥か下の様子を捉えているようである。
「対抗武器……というと猫尾草あたりか」
首を傾げるエルに、スイは緩く首を振る。
「それもありますが……聖剣に似た類の武器もあるようです。勇者のもつそれとは比べ物にならないようですが」
ただの武器にしては受けるダメージが大きいようだとスイ。
それにエルは納得したように頷いて、再び下層に視線を戻す。
特に動揺している様子は見られない。それは幹部たちも同じであるらしく、暢気に「だからか」などと呟いている。
王国軍の渾身の対抗武器は、残念なことに彼らにとってはそう目新しいものではなかった。
これまで人間が対魔物用として揮ってきたものの中で、最たるものが勇者の持つ『聖剣』である。古くから最終兵器扱いされてきたそれは、人々の間では『聖なる力が宿る特別な剣』と認識されてきた。
だが、その実態は少し異なる。
それを知るのは聖剣に携わるごく一部の人間だけであり、極秘事項とされていた。
だからこそ逆に、魔物の方が下手な一般市民より多くを知っていたりする。
理由は簡単だ。
己に降りかかる火の粉は、誰だってよく検分するものである。やたら強力な武器があれば、何とかしてその仕組みを解き明かし、対抗策を講じるのが普通だ。
その為、長い歴史の中で魔物――――中でも貴族と言われる者たちは、聖剣の情報をかなりの細部まで得ていた。使われている素材からその産出場所、鍛冶屋に至るまで。
そして、『聖剣』が誰でも使用可能であり、条件がそろえば量産すら可能であることも。
王国軍が使用しているのは『聖剣』の劣化版だと幹部たちはあたりをつけている。本物であれば個々の使い手の差異はあれ、進軍の勢いはこんなものではないだろう。
「スイ、勇者はどこだ?」
スイは暫くの沈黙の後、目を細めて眼下の森を透かし見る。
「森の中に固まった集団があります。その中にいるようですね」
言って指差す先には、緑陰に紛れてちらほらと覗く兵士の甲冑。スイの言葉に、窓近くまで寄って行ったアイシャが、示された先を伸び上がって眺めた。
眉間に皺を寄せ、唸る。
「兵士がいるのはなんとなくわかるけど……固まった集団? それ自体が見えねえ」
アイシャの目では、森の中を過る甲冑の輝きしか見えない。正門付近も視界に入りはするのだが、逆光のせいもあって城の影になり余計見えづらい。そこに集団があるのか、今現在戦況がどうなっているのか、そのあたりはごちゃごちゃとしていて判別できるようなものではなかった。
「天幕のようなものを張っている横に。まぁ、貴方の目では無理でしょうね」
スイが冷淡に言う。
その瞳孔は針よりも細くなり、見つめる先にはしっかりと天幕と勇者たちの姿が写っているのだろう。
言われたアイシャは剣呑な眼差しをスイに投げる。
個々の特性の違いは理解しているが、気に障るものは気に障る。
「悪かったな。大体それが分かってるんだったら、オレらにも『見える』ようにしろよ」
鋭い歯を覗かせて噛みつくように言えば、スイは僅かに柳眉を上げる。
アイシャは水盤を使え、と言いたいのだ。
そうすればスイのような特性を持たないアイシャや他の幹部たちも、状況をその目で見ることができる。遥か遠い街を映せと言うわけではない。城のすぐ傍なのだからスイの魔力を持ってすれば容易いはず、というのがアイシャの胸の内である。
そんなアイシャの意図に気付かないとは思えなかったが、スイは見当違いの言葉を返した。
「貴方の視力までどうこうはできません。だからわかるように説明していますが……これで分からないのならば貴方の理解力の問題かと」
「……口であそこに天幕が、とか言われてわかるかっつーの。こちとら見えねぇんだよ」
「それだけでも位置は把握できるでしょう。第一、見えたところで貴方に何ができますか」
「そっくりそのまま返すぜ。お前だって見えてるだけだろ」
「情報収集にはなります。ここで騒ぐだけの貴方よりは役に立つはずです」
「なんだと。誰が騒ぐだけだって」
「聞こえませんでしたか、ご自慢の聴力はどうされたのです?」
ここまでくると、元々の主題はどこへやら。最早ただの言い争いである。
坂を転がり落ちるように低次元な口論になっていくのを、幹部たちは慣れた様子で無視する。
戸惑っているのは伝令役の魔物や各自の部下たちであった。
なかなか近くにまみえることなどない四天王。中でも、一、二を争う実力者の二人が子供じみた口論をしている。それだけでもなにやら落ち着かないというのに、立場的にはそう変わらない他の幹部たちはそれを止めも諫めもしない。別段とばっちりを恐れてのことではないのは、彼らの呆れたような表情からも明らかだ。
そして、城内の誰もが畏怖と尊敬を込めて仰ぐ城主もまた、完全に無視していた。
誰もエル自らが諌めるとは想像してもいないが、戦の最中である。側近二人の喧しさに、いつエルの堪忍袋の緒が切れてもおかしくない。エルが案外気が長いことを幹部は知っていたが、当然ながら接点の殆どない魔物たちは知る由もなく。ひたすらにエルの顔色を伺って怯えている。
そんな周囲の空気を全く気にする素振りもなく、エルは相変わらず下層へと視線を向けている。
正門の方で幾らか動きがあるものの、大きな変化はない。
傷ついた魔物が後退し、背後に控える次の魔物と入れ替わる。
城内からどっと溢れだす気配がないところをみると、王国軍の方も似たり寄ったりの状況だろう。
そろそろ決定的な攻撃をするべきかと考えを巡らせているところで、不意に下層の空気が揺らいだ。
「スイ」
エルの声に、側近二人は揃って口を噤んだ。
さっとそれまでの一切を切り捨て、スイはエルの傍に近づいた。下層の最奥、松明の灯りのみのそこを目を細めて見やり、言う。
「新手のようです。数は多くないようですが」
その言葉に呼応するように、下層がざわめいた。
混乱と戸惑いが漣のように広がっていく。その発信源は正門のちょうど反対側、魔物たちの犇めく最奥だ。
魔物の群れが潮が引くように割れた。その中心を怒涛の勢いで進んでいくのは幾つもの小柄な姿だ。その数、十数名。すっぽりと被った暗色の布でその姿はわかりにくい。だが、松明の灯りに照らされて踊る影は、はっきりとした人型をしている。
剣戟と怒号と絶叫。混乱はあっという間に倍以上に膨れ上がる。正門のあたりまではまだ波及していないようだが、眼下では既にちょっとしたパニックが起きていた。
「どうだ」
アイシャが虚空に向けて尋ねる。その視線の先には、空中で翼をはためかせている有翼の魔物がいる。
スイの言葉を聞くや否や、アイシャは控えていた部下を偵察に行かせた。
侵入場所の見当はあらかじめついている。門の類はすべて封鎖されており、それぞれに見張りと警備の兵がいる。そうおいそれと侵入されるとは思えず、可能性があるならば一箇所しかない。
ほんの瞬き程の間に下層から戻ってきた魔物は、喘ぎながらも答える。力強い翼を誇ってはいても、これだけの時間で往復するのはさすがに骨が折れたようだ。
「はい、東の通用門から侵入した模様です」
「カメリアはいましたか」
その部下の報告に被せるようにして、スイが重ねて問いかけた。
「い、いえ。カメリア様のお姿は拝見しておりません。通用門からの扉が開いていたのを上から確認しただけでしたので……」
詳しくはみていないのだと恐縮する魔物へ、スイは軽く頷いた。
「そうですか。すみませんアイシャ、邪魔をしましたね」
「いや、オレもちょっと気になってたからな。……下がっていいぞ、ご苦労だった」
スイに短く返した後、アイシャは部下に合図をして下がらせる。
「カメリアから報告は来てないのか?」
「ええ。あれだけ派手な侵入であれば、その前に報告があってもおかしくないのですが」
この騒ぎで手間取っているのかもしれない、と案じる様子だ。
「まぁ、カメリアのことだから大丈夫だろ」
それはアイシャの本心だ。スイの副官であるカメリアは結構な実力者だ。スイに及ばないと副官の身に甘んじているが、正直アイシャは彼女に敵う気がしない。勿論、魔法分野において、という意味で。
「それにしても……予想通りでしたね」
アイシャがそう声をかけると、エルは視線だけを寄越して頷く。
「そうだな。何かしら動くとは思っていたが、侵入の手引きとはな……」
エルは得心が行かない様子である。
恐らく人間側と通じているわけではない、とエルは踏んでいた。
相手――――ヴァスーラは高い矜持を備えている。人間を駒として見てはいても、取引相手とみなすことはあり得ない。
警備の手薄さという絶好の機会を、この程度の介入で済ませるのは納得がいかなかった。
これまでどおり表面上は出てこないつもりなのだろうか。
ヴァスーラの対応を見る限り、その可能性は高そうではある。一族の他の目もあるためそうおおっぴらに手を出すことはできないだろう。何よりヴァスーラの性格を思えば、本気で自ら潰すつもりなら正面から盛大に乗り込んできそうなものだ。
エルは溜息をついて、眼下に視線を遣る。
「蛇の捕獲はカメリアに任せるとして、さて、あれをどうするかな」
吹き抜けから見下ろす下層では、幾つもの人影が犇めいている。人間も魔物も入り乱れての戦闘は、けれども数の上では魔物が圧倒的に優位であった。
下層とはいえ、ただの雑兵ばかりではない。アイシャやスイのような下級貴族こそ参戦してはいないが、不完全ながらも人に近い外観を持つ魔人もいる。力の面では人間を遙かに凌駕する魔物だ。侵入者が何者であれ、制圧はそう難しいことではないだろう。
だが、その目測は暫くの観察で裏切られる。
侵入者たちが恐ろしく強いのだ。
正確には、二十人にも満たない人間達のごく一部が。
特に先陣をゆく数名の強さは目を見張るものがあった。
剣士と思われる数名が揮う切っ先は、紙よりも容易く魔物を切り裂いていく。その背後からは援護する形で次々と矢が繰り出され、正確無比な弓矢が魔物の急所を捉える。魔法の壁が攻撃を弾き、輝く杖から飛び出す光球に魔物の集団が吹き飛ばされた。ただの引っかき傷ひとつ与えられず、魔物が次々と切り伏せられていく様は、一種壮観ですらあった。
身体能力の差を補ってなお、余りあるほどの技量の持ち主たちである。
「あーあ、混乱しちまってまぁ……」
アイシャの呆れたような言葉の通り、力では人間に勝る筈の魔物たちが予想外の展開と強敵に浮き足立っている。
もちろんその混乱こそが侵入者の狙いであることは間違いない。
「仕方ねぇ。エル様、ちょっと片付けてきても?」
言葉の割にうきうきと言うアイシャに、エルは考える素振りを見せた。
アイシャが戦いたがっていることはわかっていた。元々魔物は争いごとが大好物である。特に血の気が多いアイシャなどは、ふんぞり返って指示をするよりも自ら先陣を切りたいタイプだ。
確かに、アイシャが参戦すれば、結果は火をみるより明らかだ。たかだか二十人もいない兵士など、アイシャの敵ではない。眼下の敵はどうやらただの兵士ではなさそうだが、それでもアイシャが苦戦を強いられるとは思えなかった。何分、相手は脆弱なヒトなのだから。
魔物側の被害を抑えるには、アイシャの参戦は有効だろう。
エルは再度視線を下方に向ける。
浮き足立つ魔物の中にも、ちらほらと状況を把握しだした者も見て取れる。侵入者の強さは人間にしては驚くべきものだが、それも時間の問題だと思われた。これだけの数だ。ただ闇雲に戦っていては体力を消耗するだけである。アイシャが介入するまでもなく、勝敗は決する筈だ。
それがわからないほど愚かでもないはず、とエルは赤い双眸を僅かに細める。
とすれば彼らにはそれなりの勝算があるのだろう。恐らくは、エルの首を狙うだけの勝算が。エルの姿形もこの城の様子も知らない彼らにどのような勝算が、と思考を巡らせ、ふとその先陣の兵士に目が行く。
全員が全員、同じ色の外套と目深に下ろしたフードでその容貌は判然としない。だが、ただの兵士とは思えないその戦いぶりは。
「……勇者は、正面の方だったな?」
視線を外さないまま問いを投げれば、スイの応えがある。
「ええ、まだ参戦はしていないようですが……」
あちらに、と示したらしい先は城外の森の中。緑陰に兵士の一団と天幕が見える。その天幕の横に、確かに兵士たちとは違う旅装の姿がいくつか見えるのだとスイが言う。
「そうか」
エルはひとつ頷く。
唇が笑みを象る。獰猛なそれに、アイシャとスイが目を見張る。今の今まで冷静な表情を崩さなかったエルである。それほどまでに何が興味をひいたのかと、戸惑う部下を顧みることなく、エルは楽しそうな含み笑いを漏らした。
「仕方ない、行くか」
言って、周囲の返事も待たずにエルはひらりと上層から身を踊らせた。その背に広がるのは漆黒の翼だ。強大な力を秘めた皮膜の翼が、風を受けて広がった。
「エル様!」
「ちょ……何で貴方が行くんですか!」
動揺も露わな部下の声を背に、エルは騒動の渦中に身を投じた。
★★★
轟、と強風が吹き付けて、思わずクロスは目を庇った。
剣戟の音がつかの間止み、反比例するように周囲のどよめきが大きくなる。その大半が魔物の間からあがったことに気づいて、クロスは新手かと唇を噛んだ。
背後の兵士たちに動揺が広がるのへ、目を庇いながらクロスが怒鳴る。
「怯むな!」
風が止み、剣を構え正面を見据える。
魔物で犇めいていた前方にぽかりと空間ができていた。彼らが遠巻きにするただ中に、先ほどまではなかった細い人影が佇んでいる。
漆黒の衣服を纏った細身のシルエット。風に翻るのは人には持ち得ない赤い髪。
そして、その背に広がるのは漆黒の翼だ。
クロスの心臓が、大きく脈打つ。
「まさか……」
思わず息を呑む。
真紅の双眸がゆっくりとこちらを向いた。
「……っ」
ぞくり、と肌が粟立つのを感じる。
「……勇者か」
唇をに、と歪めて相手が笑った。薄い唇の間から覗くのは鋭い牙だ。
「お前が、長か」
クロスは低く問う。確認するまでもないことだった。メリルたちから聞いた特徴と一致する、『人に似た』魔物。
何より他の魔物とは違う圧倒的な存在感が、ただならぬ相手だと伝えている。こうして目の前にいるだけだというのに体中から汗が噴き出す。体の奥から突き上げてくる衝動が、本能的な恐怖だと悟るのにそう時間はかからなかった。
クロスの背後で、メリルが息を呑むのが聞こえた。メリルにしてみれば、悪夢の再来だろう。
魔物の長はクロスの言葉には応えず、腰から大剣を抜き放った。
「お前たち、手出しはするな。これは俺の獲物だ」
周囲に鋭い視線を走らせ、言う。その言葉に、周囲の魔物が一様に後退した。そして影のように長の背後に降り立った二つの影もまた、静かに後退する。
「ほどほどになさってください」
そう囁くのは水色の髪をした、こちらも『人に似た』魔物だ。
メリルの話にはなかった相手だと思いつつ、クロスは剣をきつく握り締める。
冷たい汗が、こめかみを伝う。
相手は強敵だ。間違いなく。
静かに深呼吸をして、胸のうちに呟く。『必ず倒す』。それはメリルたちとかわした約束だ。必ず、勇者の仇を取り人々に平和を。
生きて帰れるだろうか、とちらりと脳裏をよぎった。
クロスは唇を引き結び、目の前の敵を睨み据えた。
――――否、生きて帰るのだ。