9.遠路
人間側のお話です。下方に挿絵あります。
湿った土を蹴立てて、二頭の馬が駆けていく。
およそ道ともよべない、獣道。よくみれば、雑草の下に僅かに煉瓦が覗く。
数十年前までは「街道」のひとつとして機能していた道であった。
元々、そう利用者の多い道ではない。近隣の村がなくなり、自然と森に覆われてたまに行商人が利用する程度になっていた。その行商人も、魔物の被害が多発するにつれ通らなくなった。そんな経緯から、現在この「街道」を利用する者は皆無になっている。
そんな、足跡はおろか道の境目すらあやふやな森の中を、二頭はかなりのスピードで駆けていく。
確かな道が見えているような、或いは何かに追われているような、確固たる蹄の音。
規則正しい音から僅かに遅れて、茂みを走る複数の音がある。
馬のモノとは明らかに違う荒い息遣い。
合間に低い唸り声が混じる。
と、先を行く葦毛の馬に、横合いから黒い影が飛び出した。
現れたのは、漆黒の毛皮の狼の倍はあろうかという巨大な四足獣だ。大きく裂けた口腔には鋭利な牙がずらりと並ぶ。
巧みな手綱さばきで獣との衝突は逃れたが、速度はどうしても緩む。
その一瞬の隙を獣は見逃さず、すかさず馬に躍りかかる。
鋭い牙が馬の首筋に吸い込まれ、―――鮮血が散った。
けれど断末魔の悲鳴を上げて地に斃れたのは、馬ではなく黒い獣の方。
馬上から振り下ろされた一閃が獣を切り裂いたのだ。
滴る血の糸を引いたまま、獣の最期を目で追うことすらせず、馬上の人物は剣を閃かせる。
背後から飛び掛ってきた別の獣を一刀の元に切り伏せ、流れるような動きで剣を振るう。
流れる金色の髪、しなやかに翻る外套はみるみる真紅に染め上げられる。
翡翠の双眸に鋭い光を宿して戦うのは、魔法剣士の肩書きを持つ、メリル・ファガード。
「魔法剣士」と呼ばれてはいたが、実戦において彼女が魔法を使うことはそう多くない。彼女の本分は剣士であり、魔法はあくまでも補助的なものにすぎなかった。ゆえにその技量は本来の「魔法剣士」に遠く及ぶものではなく、それは彼女自身もよく分かっていた。
けれど剣士としての彼女は、国内でも屈指の技量と力を誇る。一時は「勇者」の最有力候補とまで囁かれていた。
―――スノウ・シュネーが現れるまでは。
「メリル!」
子供特有の高い声がメリルの鼓膜を打った。
メリルの、血に酔ったような鋭い眼光が束の間緩む。声の方を確認することなく、メリルは上体を馬上に屈めた。つい先ほどまでメリルの体があった場所を、風が鋭く切り裂いていく。
断末魔の悲鳴を上げて、黒い影が二つ、茂みに突っ込んだ。
再び上体を起こして剣を揮う。手綱を取りながら茂みを一瞥すると、そこには矢が2本ずつ、計4本の矢が茂みから突き出して震えている。
フレイの、矢。
次々と絶え間なく襲いかかってくる獣を切り伏せながら、メリルは後方に視線を向ける。
メリルから数メートル離れた馬上に、小柄な姿がある。
栗色の髪に栗色の瞳、まだ12歳になったばかりの少年、フレイ・マルセナ。
幼い顔に厳しい表情を浮かべ、矢を放つ。弓につがえられた4本の矢は、恐るべきスピードで標的へと吸い込まれていく。
大部分の獣はメリルが引き受けているとはいえ、その度胸と技量には目を瞠るものがある。
勇者の「仲間」であるその腕は伊達ではない。
勇者選抜のために行われたトーナメント。並み居る強豪を押しのけ、上位に入ったものだけが勇者の「仲間」として同行を許される。
フレイは、弓部門の優勝者だ。
普段は年相応に振る舞うフレイだが、いざ戦闘となると人が変わったようになる。メリルですら時折、彼がまだ12歳だという現実を失念しそうになるのだ。
メリルはそんなフレイからふと視線を外し、彼方の空を仰いだ。
緑陰から覗く空は薄く青い。
迫る牙と爪を易々と弾きながら、メリルはフレイに呼びかける。
「先へ!」
フレイがメリルを一瞥する。
その視線をとらえて、メリルは馬の腹を蹴る。
後も見ず、馬を走らせる。追いすがる獣の爪が外套を引き裂いたが、メリルは振り返らぬまま馬を走らせた。抜き身の剣を構えた姿勢で、手綱を操ることだけに専念する。
ここで時間を取られるわけにはいかない。
メリルの脳裏にあったのは「急がねば」という焦燥だけ。
フレイの心中も同じだろうことは、距離をあけずして追ってくる蹄の音が表している。
二人は王都に向かっていた。
魔物の「城」の存在と、新たに手に入れた情報を報告するべく。
そして、捕えられているであろう「勇者」の救出のために。
そのために援軍を、とメリルはフレイを説き伏せた。
カディスを発つ数日前のことだ。
スノウを助けに行かないの、とフレイはメリルに問うてきた。
怪我の治りきらない体で、新調したばかりの弓を携えて。
メリルは「援軍を頼もう」と提案した。二人きりで救出など到底できないと判断したためだった。
フレイは渋っていたが「長と戦うには」と重ねたメリルの言葉に、結局は折れた。血気盛んな年頃とはいえ、魔物の「長」の恐怖は身にしみたものらしかった。
そうして、メリルとフレイは王都へ馬を飛ばすことにしたのだ。
そう、きっとフレイは信じているのだろう―――
メリルは思う。
「勇者を救出するための援軍」というメリルの言葉を、信じているのだろう。
だが、メリルは自分の言葉を少しも信じていなかった。
救出などできる筈もない。
相手は魔物。乗り込んできた「勇者」を魔物が生かしておくとは到底思えなかった。
生きていて欲しい、とは思う。どんな形であれ、生きて再会したいと。
けれどそう願う気持ちと、行動を判断する理性は別物だ。
きっと勇者は生きてはいない。
例え生きていたとしても救出は難しい。
一度は乗り込んだ城だからできるかもしれない、と以前なら思っただろう。
けれど、今のメリルにはとてもそうは思えなかった。
乗り込み、脱出できたことは「奇跡」。
或いは、すべてが仕組まれていたのでは、とメリルは思うようになっていた。
フレイには内緒で、「城」に向かったあの日から。
「城」から脱出を果たして3日目の朝。
メリルは、再び魔物の城を訪れていた。
当然ながら受けた傷はまだ癒えていない。手足には包帯を巻いたまま武器だけを新調し、単身城へと向かった。
城は依然としてそこに聳えていた。
何もかもが3日前と変わらない。城のすぐ手前まで「魔物」の類を全く見かけないことも、重厚な門の前に陣取る「門番」すらも、すべてが3日前と――メリルたちが乗り込む前と変わりなかった。
以前のメリルなら、そのすべてに衝撃を受けていただろう。
けれど、魔物の「真実」を垣間見た今のメリルは、当然の現実と受け止めることができた。
樹木の陰に身を潜めながら、メリルはそっと前方を伺う。
そこには漆黒のごつごつとした岩でできた重厚な門。一枚岩を大きくくり抜くような形で、巨大な観音開きの門が据え付けられている。恐らく木製と思われる門は、鋭い突起物がついた鎖が幾重にも巻かれている。
そしてその門の前には「門番」が陣取っている。
額に巨大な角をもつ、狼を思わせる二頭の獣。滅多に対峙することのない「厄介」な部類に挙げられる魔物の一種だ。知能は狼とほぼ同程度だが、その力は狼より遥かに勝る。一頭で狼10頭分だというのだから、人間にとっては脅威意外の何者でもない。
つい3日前に、メリルはその2頭を屠った。
当然ながら、そこに寝そべっている魔物は同じ種類の別個体である。それは勿論メリルにも分かっていたが。
思わずため息が漏れた。
ここには一体どれだけの魔物がいるというのか。
滅多に見ない種類の魔物が「替え」のきく門番として鎮座する城。
踏み込んだ時、これまで出くわしたことのない、見たこともない魔物と戦った。どこをみても知らない魔物ばかりで、今まで信じてきた魔物の情報など氷山の一角にすぎないことを知った。
『これが真実』
胸の内でメリルは呟く。
以前からうすうすと感じてはいた。
『人間はあまりにも無知すぎる』
勇者頼みの人間側。勇者の仲間となってみて初めて、勇者が得られる情報があまりにも少ないということに気付いた。
魔物討伐を生業とする賞金稼ぎと、その情報量は大差ない。むしろ実戦を重ねている分、彼らの方が詳しいくらいだ。
だから勇者は――記憶を失う前のスノウは、積極的に彼らと情報交換をしていた。この城の情報とて、賞金稼ぎの一人がもたらしたものだ。
だがそれらにも限界がある。
魔王どころか魔王の城すら、どこにも見当たらない。もたらされる情報はおよそ統率や組織を感じさせるものとは程遠い、端的にいうならば獣害に近い類のものばかり。
『人間を守るために戦う。魔王も倒す。けれど…魔王は存在するのか?』
スノウが漏らしていた言葉が蘇り、メリルは少し目を細める。
誰もが先の見えない戦いだとわかっていた。
勇者に賛同した仲間たちの内にも、メリルの内にも、それは重い澱となって残っていた。
いつ終わるとも知れない、見えない相手との戦い。
せめて魔王の手がかりでもあれば。
そんな矢先だった。
勇者が記憶を失ってしまった。
自分が勇者であったことも、魔王を倒すという情熱も、彼のすべての記憶と共に失われた。
まるで別人のように振舞うスノウに、メリルは苛立った。
どうして「今」記憶を失ってしまったの、と。
不安定に揺れる自分の拠り所が、揺るぎなく強い「勇者」だった。戦う意味を失いかけている自分に、確固たる自信を与えてくれるのが「自信に満ち溢れた憧れの勇者」だったのだ。
急に年齢相応に…否それ以上に幼く頼りなくなってしまった勇者は、メリルの拠り所には到底ならない。それどころかメリルが強くあらねばならなかった。
かつての勇者のように。
けれど自身がそれほど強くないことは、メリルはよくわかっていた。己の内に疑問を抱えて、それでも尚揺るぎなく立っていられるだけの強さは、ない。
だから、記憶を失ったスノウの苦悩や疑問に気付かないふりをした。
あなたは強い勇者だったのだ、と言い聞かせて、勇者を信奉するひとりになろうとした。
『たった3人だけど…行くの?』
耳の奥で、渋るスノウの声がこだまする。
数日前、メリルが「城」に向かおうと提案した時のことだ。
多くの仲間が、記憶を失い「平凡な青年」となったスノウを見限って、去って行った。
カディスの宿に残ったのは、フレイとメリルだけ。
魔物の巣食う、未知の「城」にたった3人で乗り込むこと。それはどう考えても狂気の沙汰だった。
渋るのは当然で、馬鹿なことと一笑に付されてもおかしくない。
冷静に――今になればわかる。
だがあの時のメリルにはどうしてもいかねば、という強迫観念にも似た感情があった。例えこの身が斃れても、いかなければと。
記憶を失う前のスノウが探り当てた情報。それを生かさねばいけないと、そう堅く思っていた。
けれどスノウは違った。
『強い魔物がいると聞いたよ。俺達だけで…大丈夫かな?』
それは控えめな拒絶。
メリルにもわかっていた。わかっていたが、あえて知らぬふりをして「大丈夫」と言った。
頭の片隅で少しも大丈夫ではないと知っていたけれど。
『そう、なら…行こうか』
そう言って困ったような笑みを浮かべたスノウを、メリルは腹立たしい思いで見つめた。
記憶を失う前のスノウに心酔していたから尚、別人のように気弱になってしまったスノウを許せなかった。
なんの意味もない憤り。
その憤りに駆られるようにして、半ば強引にスノウを連れて魔物の城へと向かった。
しかし結果は惨敗。
メリルとフレイは撤退。勇者は、帰らない。
「私は…」
見捨ててしまった。
吐息とともに、震える声が唇から漏れるのが、なんとも滑稽だった。
ぶれる感情。自分が泣きたいのか、叫びたいのか、もう分からない。
脳裏に浮かぶのはあの瞬間。
現れた魔物の長を間近に、恐怖した。
あんなに強い存在がいることなど、想像もしなかった。まるで人間のような姿で強大な力を易々と揮う、魔物。
今まで相手にしてきた魔物が、単なる雑魚にすぎないということを痛感した。自分では―――否、自分たちでは勝てないと、悟ってしまった。
逃げなければ。
頭にあったのはそればかりだった。だから焦って魔法を発動させてしまった。
勇者がいないと気付いたのは、安全圏に転移してからのこと。
けれど「勇者」という犠牲を払って逃げ戻ってみれば、魔物たちは変わらず街を襲っていた。
メリルたちが乗り込んだ、まさにその瞬間にも。
魔物たちは何の痛痒も感じていないかのように、その後も変わらず街を襲い、人々と戦う。
自分たちは、一体何をしたのだろう?
胸の中に去来する虚しさ。失った代償の大きさと、日々重くなる罪悪感に苛まれ、メリルはこうして再び城に来ていた。
何かを変えるためではない。
人のため、誰かのためではなく、メリル自身のために。
勇者に辛く当たり、見捨ててしまった自分が許せない。だからせめての贖罪に、死を選ぼうとしている。名誉ある死を選ぼうとしている。
単なる甘えだと分かっていたが、もうこうするより他にどうしていいかわからなかった。
ぐ、と剣の柄を握る。
恐怖に揺れる心を叱咤して、立ち上がろうとした。
その時、不意に門が内側から開いた。
重い音をたてて開く門の向こうには、おびただしい数の魔物がいる。
それぞれに列をなし、明らかに統率の取れた動きをしていた。
門が開ききるや否や、先頭の魔物が勢い良く飛び出す。四足歩行の、門番であろう魔物よりふたまわりほど大きな魔物。首を左右に振り、嬉々として飛び出して行く。後に続く魔物も同様に。
メリルはごくりと息を飲んだ。
これはチャンスだ。この隙にうまく城内に入れたら、と思う。
「おい、」
途端に、びんと響く声がして、メリルはびくりと体を強張らせた。
一層体を低くして、茂みの間から門を伺う。
「今日はあんまり暴れるなって言ってあるのか?」
声はまだ若い。
見れば門の傍に、華奢な人影がある。異国風のデザインの黒っぽい上下を纏った、黒い髪の青年。
こんなところに人間が?
疑問に思いつつ伺っていると、青年の横合いから彼より一回りは大きな男が現れた。剥き出しの上半身は筋骨逞しく、一目でその強さがわかる。しかしその頭部は狼のそれであり、僅かに開いた口からは鋭い牙が覗いていた。
男は、牙のずらりと並んだ口を開くと、思わずメリルが己の耳を疑うほどに流暢な人語を話しだした。
「はい、そのように伝えております。騒擾を起こす程度、食事はほどほどにしろと。」
男の言葉に、青年は軽く頷く。
「うん…まぁ、問題ないだろう。後は奴らが我を失わない所で引き上げさせろ。応援を呼ばれない程度に、適度に、だ。」
逞しい肩を軽く叩き、青年は笑う。
ふとメリルは気付いた。
僅かに差した陽光。その中で、青年の髪は深い青に煌いている。黒いと思った頭髪は、濃い青…濃紺の色であった。
人間には持ち得ないその色。
それが意味することは、彼もまた魔物の一人であるということ。
メリルの脳裏に、数日前に対峙した「長」の姿が蘇る。
緋色の髪に真紅の目。背に広がる漆黒の翼。圧倒的な存在感と、強大な力の存在を感じさせる相手。けれど思い返せば返すほど、およそメリルの抱く「魔物」のイメージからはかけ離れた存在であった。
髪や目の色、そして翼さえなければ、その姿は一見するとごく普通の人間のようにも見えた。それどころか、人としてもその姿は強さとは縁のなさそうなもので。
それが魔物の世界の常識なのだとすれば、目の前で話す青年も侮れる相手ではないということだ。
「しかし…解せません。何故です?人間どもなど食い尽くしてしまえば良いのでは?」
鼻に深い皺を刻んで男が首を振る。
不満げなその言葉に、青年は軽く首を傾げて言った。
「じゃあお前は一晩で世界中の人間を殺しつくせるか?」
「一晩で?それは無理かと」
「だろ?そういうことだよ」
「…?」
「人間なんてうじゃうじゃいるだろ。ひとつふたつ街を滅ぼしていい気になっても、下手に危機感煽って大軍投入されちゃこっちも困るのさ。…今は兵力が惜しい」
青年は、言って悔しそうに表情を歪める。
「まぁ近いうちにお許しが出るだろ。そうなったら暴れたいだけ暴れな」
男にそう言い残すと、青年は踵を返して城の中に戻っていった。
男はしばらくその姿を見送っていたようだったが、やがて巨大な一頭の背に飛び乗ると、魔物の大軍に紛れていずこかに走り去っていった。
再び重い音ともに門が締まる。
その様をメリルは呆然と見つめていた。先ほどのやりとりが脳裏にこびりついて離れなかった。
「粗方片付いたかな?」
フレイが首を傾げて言う。
辺りには獣の屍が累々としている。
一度は引き離したものの、なおも獣はしつこく食い下がり、仕方なく応戦することになったメリルとフレイである。
焦燥に突き動かされ、メリルは鬼神の如き戦いぶり見せ、フレイも百発百中のすさまじい集中力を発揮した。
その甲斐あって、今やそこら中に獣の屍が積み重なっている状態だ。
「ひと段落はついたみたいね。…しばらくは襲ってこないでしょう」
メリルは血の匂いに顔を顰めながら、剣を鞘に収める。
応戦の途中、不利とみた数頭の獣が逃げ去るのをメリルは見ていた。
これだけの犠牲を出せば、さすがに追っては来まい。
森の中の打ち捨てられた街道。通行人が皆無とはいえ、たかだか食糧ひとつにそこまでの力を裂きはしないだろう。
「ならいいけど…次の町に着くまでに矢が足りなくなったら困るもの」
言って、フレイは空になった矢筒に補充する。
「心配いらないわ。この森を抜けた先に街があった筈よ。」
「よかった、とにかく急ごう。もう野宿は嫌だよ」
ここ4日程、野宿が続いていた。一刻も早く、という気持ちに駆りたてられ、夜を徹して駆けることもあった。
幾度も経験してきたことだったが、さすがに疲労がピークにきていることはメリルも自覚している。剣を揮う己の腕が、いつもより重く感じられていた。
「ええ、急ぎましょう。」
頬についた血を拭って、メリルは森の奥を見つめた。
鬱蒼とした森には、既に夕闇の気配が訪れている。野宿を免れるには、闇に沈む前に森を抜ける必要がある。
「…急がなきゃ、」
まだ半分しかきていないのだ、とメリルは胸中で呟く。
二人の目指す王都は、あまりに遠い。