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クソ学校クソ迷宮クソ仲間  作者: 雨入り四光
3/7

まさしく勇者

 ガイダンスはすぐに終わった。まあやることがお座なりなお祝いの言葉を言うのと教師の自己紹介と簡単な注意事項の確認だけで配布物もないから早く終わるのは当然か。


 そして早速迷宮(ダンジョン)に連れてこられた。


 迷宮の外観は全て共通で、10階建てのビルくらいの高さのいかにも何かありそうな古めかしい塔になっていて屋上部分に入口がある。


 迷宮の中は階層構造になっていて、下の層に下の層にとどんどん降りていく形で続いている。どこまで深いのかは明らかになっていない。表に出ている記録では最高到達階層は地下60階だったはず。


 まあそんなことは今重要じゃない。今重要なのは普通に暮らしてたら入ってくる程度の浅い知識しか持ってない状態で今から迷宮に潜らないといけないってことだ。


 しかも装備はホームセンターで安く売ってそうな細い角材とペラペラのジャージのみでだ。推薦入学組に余計なコストをかけたくないという学校の意思がひしひしと伝わってくる。


 いくら、いくら今回の目標が迷宮の地上9階への到達とはいえ、あまりにもあんまりだ。地上10階がチュートリアル中のチュートリアルで素手のゴブリン――中学生で殴り勝てる程度の運動能力――しか出ないとは言っても、この装備はないでしょうよ。


 今なら昔のRPGの主人公達の気持ちを分かってやれる気がする。きっと「これでどないせぇっちゅうねん!」と思ったに違いない。彼ら彼女らもコスト削減の犠牲になっていたのだろうな。


「よし。行け」


 角材を配り終えたうちの担任から無慈悲なゴーサインが下る。


 行けと言われて「はい行きます!」と突っ込めるような場所じゃあないけど行くしかない。どうせ自分から行かなければ蹴り込まれるだけだろうし。僕は例え絶世の美女にだろうと蹴られたくはない。


 周りの人々も後ろから放たれるプレッシャーに背中を押されて続々と迷宮の中に入っていく。


 なかには自分から意気揚々と駆け込んでいく奴らもいるけど、多分あいつらと明日会うことはないな。ゲームとかライトノベルとかと現実を混同してんじゃなかろうか。


 迷宮にはゲームのような都合のいい復活システムなんて実装されてない。迷宮の中で死んでも所持金が半分になることもどうぐの大半が無くなっていることもないが目が覚めることもない。


 覚悟を持って入って行かなければいけないのだ。



 ※※※



 迷宮の中に入ると突然洞窟になっているとかそういうことはなく、中も外観通りの古びた塔という感じになっている。


 入ってすぐに道がいくつかに別れていて、太い道、細い道、真っ直ぐな道、曲がりくねった道と様々だ。


 迷宮の塔の部分――地上1階から地上10階まで――はいわばチュートリアルの役割を担っており、最低限の、ほんっとうに最低最小限の知識を迷宮に挑もうという者たちに叩き込んでくれる。ただし危険性に対する配慮など一切無いスーパースパルタ教育だけど。


 そして今いる地上10階は初めの階層ということもあり地上1~9階と比較しても親切な造りで、どの道を選んでも遠回りになることはあっても行き止まりは無い。


 かといってどの道を選んでもいいというわけではない。最悪がないだけでその次は普通にあるし、逆に最善もある。


 迷宮地図(マップ)があればどの道を選べばいいかなんてこのくらい浅くて隅々まで探索されつくした階層なら簡単に分かるのだが、例によって例の如く僕たちにはそんな物は配布されてない。つまりは自分なりの考えだけで道を選ばないといけないわけだ。


 僕は細くて比較的直線的な道のなかから生徒が多く入っていくものを選ぶ。


 細い道を選ぶのは囲まれるリスクを下げるため。直線的な道は逃げるときには振り切り難いが奇襲されるリスクは曲がりくねった死角の多い道より低い。生徒が多ければでてくるモンスターを殲滅しておいてくれることに期待できるしそうでなくても囮には使えるかもしれない。


 周りの気配や物音に注意して感覚を研ぎ澄ましながら極力足音を消しながら歩く。


 本当は何人かでまとまって一緒に進めると良かったのだけど、僕が近づくとなぜかみんな慌てて離れていってしまうので独りで歩いている。これはこれで足音消して警戒しながら歩くなら良かったのかもしれない。


 ソロソロと歩いていると曲がり角の向こうから何かがやって来る気配と物音がした。曲がり角から出てきたところを奇襲できるように曲がり角に隠れるように立ち、頼りない細い角材(メインウエポン)を振りかぶって息を殺す。


 じっと待つ僕の前にヌッと緑色の肌の小学四年生くらいのヒト型が現れた。ゴブリンだ。同じ学生ではないことを確認したと同時に脳天目掛けて角材を思いっきり振り下ろす。


「ギェッ!」


 見た目通りの頼りなさで普通に角材は折れ飛んだけどそんなことには構っていられない。ふらついて倒れ伏したゴブリンの頭に追撃のサッカーボールキックをきめる。


「~~~!!」


 これが本当の声にならない叫びというやつか。ゴブリンは一度もがくように動いた後、ぐったりとして動かなくなった。そしてスゥっと迷宮に吸い込まれるように消えていき、小さな石ころが1つだけ残った。


 モンスターは死ぬと体の一部を遺して消える。どのくらい遺していくのかはまちまちだが、必ず魔石は遺して逝く。


「おおっ。ゴブリンのにしては大きいんじゃないかな? これは運がいい」


 ゴブリンの遺した魔石を拾うと思わず声が漏れた。ゴブリンの魔石は大体普通は小指の爪程度の大きさだがこれは親指の爪くらいある。


 このくらいのサイズだとコンビニで10個1セットで1080円(税込)で売ってるから買い取り価格は推薦組補正も込みで……20円かな。普通のゴブリンサイズは値がつかないことを思えばかなり当たりだ。


 幸先がいい。このまま順調に今日の目標が達成できるとうれしい。

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