プロローグ
「悪いとは思うが君の進学先はここ以外には存在しない」
目の前に立つ若い教師がちっとも悪いと思ってなさそうな顔で言った。
「進学先が有るというだけでもありがたいことです」
僕もちっともありがたいと思ってない顔で応えた。
「形としては推薦入学ということになる。手続きは全てこちらで済ませる。君は今日帰宅し次第荷物を纏めて明日の朝5時に正門前に来るだけでいい」
何が「だけでいい」だ。それしかできないだろ。もし逃げ出すような素振りでも見せればどんな目に遭わされるのかは想像に難くない。
「分かりました」
騒いだところで特に何か良いことが起こるわけでもないし素直に頷いておく。
「連絡は以上だ。帰宅して荷物の整理に取りかかってくれ。ああそれと、長い間家に帰れないことになる。家族との別れを済ませておけよ」
確かに進学先を思えば必要なことだ。永い別れになるかもしれないわけだし。
「お気遣いありがとうございます。失礼します」
先程と同じちっともありがたいと思ってない顔でそれだけ言ってさっさと進路指導室から出ていく。最早丁寧に振る舞う必要もないので振り返らず背を向けたまま適当にドアを閉めた。
「チッ。人殺しめ」
ドアを閉めるとき何か聞こえたような気がしたがきっとおそらく多分ドアの音だろう。校舎が古いから色々とおかしくなっているのだ。そうに違いない。