第七話 アジト特定
新章は「脱出編」です。
また、新たな仲間がこの話で出てきます。
ヨゾラとキリアは島にあるアジトへ、ジャレットとガルグの首を持って帰還した。
そしてそれをフィレアに報告し、任務完了となった。
と、そこに現れた一人の男。
ライドでもゾルでもない、筋骨隆々とした、赤い髪の大男だった。
「おー、フィレア、今帰ったぞー。」
気さくにボスであるフィレア(しかも呼び捨て及びタメ口で)話しかけたこの男の正体とは。
「ああ、バミューダ、お疲れさん。……そっちの守備はどうだ? 何か掴めたか?」
バミューダ、と呼ばれた男はフィレアの問いかけにこう答えた。
「……実はな、フィレア。……やべー事態になりそうだ。……どうやら……『ゲバラ』の拠点が帝国軍内で特定されちまったらしい。」
途端、気難しい顔になったバミューダ。
表情から見ても、相当マズイ事が起きようとしていた。
これを聞いたフィレアはライド、ゾルを含む全員を呼び集めた。
「………っていうわけだ。」
バミューダは帝国軍に潜伏していた、正真正銘の「ゲバラ」の一員だ。
帝国軍に属する事が出来るあたり、相当の武力の持ち主といえよう。
その帝国軍から得た情報なのだ、まず間違いない。
「……よりによってウチにも足がついちまったって事だよな……」
ゾルが訝しげに呟いた。
「まさか……私たちがヘマやった、って訳じゃない……よね………?」
キリアはヨゾラの顔を見た。
おそらく自分たちが手間取ったせいか、とでも思っているのだろうが。
「………ともあれ……逃げなくちゃいけねえよなー……帝国軍が来る日時が……三日後だとするんなら早急に脱出しねえと。」
ライドも危機感を覚えている。
ヨゾラがいるとはいえ、バミューダのスパイ行為がバレてしまえばバミューダも失いかねない。
バミューダだけは前もって帝国軍に潜入させておくにしろ、慎重に行動しなければいけない。
頭を悩ませているし、逃亡先の確保もしなければいけない、という課題もあった。
「そうなると逃げ先の確保だがな……問題として。……ヨゾラ、案はないか?」
フィレアに話を振られたヨゾラは少し考えて黙った。
と、立ち上がり、何故かキッチンへ向かっていったのだった。
「お、オイ?? ヨゾラ??」
フィレアが突然の行動に戸惑いを見せた。
ヨゾラは食器棚から何故かパフェの容器を6人分取り出した。
氷の入った箱から生クリームだったり、コーンフレークだったり……を取り出してパフェを作っていったのだった。
数分かけて完成したパフェをお盆に乗せて持っていくヨゾラ。
「……オイ、ヨゾラ。何のつもりだ? 甘いもの食ってる場合じゃないんだよ。」
ゾルが珍しくイライラしているかのような声を発する。
ヨゾラは意図を淡々と説明した。
「みんなピリピリしすぎだ。……状況が状況だけに気持ちも分かるがな。……だがまずはこれでも食って頭を働かせるぞ。」
……と、パフェとスプーンをテーブルに並べていったヨゾラなのだった。
戸惑うのも無理はないゲバラのメンバーだったが、なんだかんだで舌鼓を打っていたのであった。
「まあ……案が無かったわけじゃないんだ。だが、リラックスしなければ頭も回らないだろう。」
パフェを食べ終えた後、ヨゾラは茶を飲みながらそう話す。
「ま、確かにね。ヨゾラの言う通りだと思う。」
ライドも意図がわかったのか、同調した。
「……それで? 案、というのは? ヨゾラ。」
フィレアが一気に本題に戻した。
「荷物は全部置いておこう。脱出にはまず、それが絶対条件になる。」
そしてヨゾラはこう続けた。
「私が治めている『エディア』で匿おう。『ゲバラ』のみんなを、な。……ああ、大丈夫だ。私の部下には事情は話しておく。私の部下は物分かりのいい奴が多いからな。エディアを今後は拠点にする、それが私の案だ。」
「へえ……なるほどな、そう来るか。……だけど遠くねえか? この島からエディアまでは半日はかかるぞ?」
ある程度肯定はしていたバミューダではあったが、遠すぎることに懸念はある。
だが、ヨゾラはそこら辺は気にしていない。
「むしろ遠い時間も距離も……行方を眩ませるには丁度いいスパイスになる。だが……そのためには殿は絶対必要になるからな。」
これに対してキリアは手を挙げた。
「その役だったら私がやる。」
「……いいのか? キリア……かなり危険になるよ?」
ヨゾラはキリアが迷いなく立候補した理由を聞いた。
「……ソールワンの戦士として、っていうのはあるけどさ、勿論。……帝国には恨みはあるしね……だけど……みんなを逃すために……私が盾になる。帝国が滅ぶのをさ、この目で見れないのは残念だけど……やっぱり『ゲバラ』が好きだし、みんなの事が好き。ソールワンは義理人情の一族、だったらその役割を今……私が果たすべきだと思うんだよ。」
キリアの目には死を覚悟しているような目だった。
何人来るか分からない帝国軍に対して一人で挑むのは危険極まりない。
だが、ジェノサイドで弾圧されている同胞のことを思えば恨みは強いはずと他のメンバーはそう読み取った。
バミューダはため息を一つ吐き、キリアの左肩を叩いた。
「分かった……お前の覚悟は引き受けた。でもよ……死ぬことを計算に入れるな。……絶対、生きて帰ってこい。」
キリアは薄笑いを浮かべていた。
「大丈夫だよ、バミューダ。簡単には死なないから。」
と、フィレアが手を叩いた。
「よし……オッケー、ヨゾラの案で行こう。ただ……ヨゾラ、ウチの機密事項はお前に預けておく。お前が匿うって言ったんだからな、そこの責任は持ってくれ。」
「……任せておいて、ボス。」
「じゃあ……バミューダは一足先に帝国へ戻っておいてくれ。これの絶対条件は『バミューダがスパイだとバレてはいけない』ことが前提になってくる。で、ヨゾラは機密事項を預けておくから、それを持って新拠点の作成と部下に事情を話しておくこと。これをやってほしい。」
バミューダとヨゾラの二人は頷いた。
と、ここでライドが手を挙げた。
「ボス、俺、船にエンジン入れてくるわ。燃料の量も確認しなきゃいけないし。」
「ああ、わかった、迅速に頼む。」
といって、ライドは船着場へと駆け出していった。
「それでゾルとキリアは食料を潜水艦に詰める作業をしよう。私も手伝うからそれで各自頼む。」
「「了解。」」
こうして各自散らばっていった。
船のメンテナンスを終えたヨゾラとバミューダは、ヨゾラの操縦でまずバミューダを、帝国軍駐屯地に近い街へ送り届けた後、ヨゾラはエディアに向けて、12時間掛けながら操縦していった。
こうしてヨゾラは自分の邸宅へ帰宅した。
やる事が多いが、部下には話しておくことにした。
「お帰りなさいませ、ヨゾラ様。」
秘書に出迎えられたヨゾラは、秘書の女性に話しかける。
「すまないな、私がいない間に。……だが、大事な話ができた。……これはエディアの問題だけじゃない。本当に、帝国の存亡と私の命を賭けた話なんだ。」
「……と、仰いますと?」
秘書の女性は意図が分からず、ヨゾラに聞き返した。
「……明朝に私を含めた中枢と……全体会議にかける。私の今の事情を話しておく必要があるからな。」
「……かしこまりました。では、そのようで。」
「……ああ、内容は伏せておいてくれ。……その時までに取っておく。」
「承知しました。」
久しぶりに帰った自宅にため息を一つ吐いたヨゾラ。
問題は山積しているが、やるべきことをまずやらなければ何も始まらない。
ヨゾラはゲバラの機密事項を眺めながら、明日話すべきことを考えてベッドに横になった。
次回、エディアで緊急会議を行います。
ヨゾラ中心の回が多くなりますが、ご了承ください。