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第五十九話 時代の変わり目

最終回まで、この回含めてあと二話です。

革命の終焉、その後の流れ、腹を貫かれたヨゾラはどうなるのか、を書きたいですね。


僕の話は「主人公だからどうこう」とはならない感じですよ。

負ける時は負けるし、殺す時は平気で殺すし、尊厳破壊する時は徹底してぶち壊すしね。

人間に対しては、結構ドライな側面があるんですよね、僕は。

 腹を貫かれたヨゾラ、しかし吐血はしようが彼女の目は死んでいなかった。


まだ、絶望的な状況の中で僅かに残された光を見つけようかの如く。


「クク………貴様らが来るというのに………武装もせぬうつけ者が何処におる?」


(………なんだ………?? 緑色の………髪の毛………?? !! まさか………!!)


アーシュラの服から覗いていたのは、緑色の頭髪が束になったような物だった。


そう______ソールワン族の女性の髪の毛である。


「やはりこれは優れ物だ………髪鎧(かみかたぴら)とは、な………」


「貴様は………やはり外道だな、アーシュラ………よりによってソールワンの髪からむしり取って、作り出すとはな………」


「なんとでも言うといい、ヨゾラ………貴様はこの余に負けたのだ。勝者だけが正義なのだ、この世とはな………」


フィレアが革命軍全軍を率い、アーシュラの周囲を包囲、いつでも捕縛態勢を取れるように配備している。


だが、この最中にヨゾラは“光”を見つけ出した。


勝機という、一筋の光を。


アーシュラが剣を抜こうとしたその刹那、ヨゾラはグッ………と、奥深くまで自らの身体を貫通させた。


最期の力を振り絞るかの如くで、アーシュラの剣を、手を握り潰しては決して離すことがなかった。


「………ならこれも正義か? アーシュラ………」


ニィッ、と笑いながらヨゾラはそう言うと、宙から落ちてきた、折れた自身の愛刀の刃先を口でキャッチした。


「私は決闘に負け、勝負に勝った………貴様を倒すにはこれで十分だ!!!」


アーシュラは身の危険を感じ、手を離そうとしたが、ヨゾラの握力が凄まじく強固な糊のように離れなかった。


ヨゾラは首を思い切り、アーシュラの喉元に刃を突き立て、それはちょうど首の関節を貫通し、喉を貫いたのであった。


喉笛を切り裂かれたアーシュラは吐血し、仰向けに倒れた。


「捕らえろーーーーーー!!!!」と、フィレアは号令を掛け、革命軍が皇帝・アーシュラの身を縛り上げたのであった。


これにて決着、だがしかし、ヨゾラは助かる見込みがないほどの致命傷を負ったのであった。




「ヨゾラ!!! しっかりして!!!」


カトレアが普段の主従関係をかなぐり捨て、「親友」として痛みで顔を顰めるヨゾラに問いかける。


「………すま、ない………想定、以上だったよ、アーシュラは………」


フー………と息を吐きながら、腹に刺さった剣を引き抜いた。


すると出血が更に夥しくなり、カトレアもヨゾラの限界を悟ってしまうほどだった。


「いいん、だ………私が………時代を変えたんだ………それで、いい………それで……()()………」


「ヨゾラ………!! そんなこと、言わないで………!! 貴女の理想はどうしたのよ………!!??」


らしくない言葉を並べるヨゾラに対し、カトレアは動揺を隠せなかった。


「………なあ、カトレア………アーシュラの処刑は何時頃だ………??」


「え………事前に準備してたらしくて………5時半から、だけど………」


「………そうか………」


ヨゾラは包帯を巻いてもらった身体をゆっくりと起こし、立ち上がった。


「………終わったら、でいいから………ボスに伝えておいてくれ………『()()()()()()()』………ってさ………」


「!? ま、待って!! どういうこと………!?!?」


カトレアが立ち去ろうとしたヨゾラを引き止めようとするが、ヨゾラの顔はまるで聖女のような、穏やかな表情そのものだった。


「エディアに帰るだけさ………心配しなくて、いい………軍の撤退の指示を頼む………」


「ヨゾラ………」


ヨゾラはゆっくりと歩き始め、息を乱しながらペキンシクル城の階段をゆっくりと降りていった。


ヨゾラの姿が見えなくなったあと、カトレアは柄にも無く膝から崩れ落ち、顔を両手で覆い、慟哭を放ったのであった。





 午後5時半。


夕焼けが処刑台を照らす中、フィレアが堂々と、民衆の前で宣言した。


「今日からこの国は!!! 『シンバラエキア共和国』として生まれ変わる!!! 数百年続いたこの帝国は、今この瞬間壊れる!!! そして新共和国の指揮は!!! このフィレアが先頭に立ち!! 君たちが安心して、穏やかに暮らせるよう!!! 古い体制を全て変えていくのだ!!!」


大衆を焚きつけたあと、アーシュラの首にギロチンが掛けられた。


シンバラエキア歴1902年10月28日午後5時46分、「シンバラエキア帝国」はこの瞬間崩壊し、「シンバラエキア共和国」として、初代大統領・フィレアを中心にした国造りが幕を開けたのであった。


その様子を見ながらエディアに向かっていたヨゾラは、ベージュのローブを纏いながら笑みを浮かべ、その場をスタスタと………去っていくのであった。





 その夜。


新興国誕生に国中が湧く中、ヨゾラは独り、レストランの椅子に腰掛けていた。


注文するのは大好物のパフェ。


最後の晩餐とでもする気だろうか、なんともヨゾラらしい。


数分と経たず、パフェがテーブルの上に置かれた。


ヨゾラはパフェを味わうように食べながら、喧騒が入り混じる景色を眺めていた。


(………やっぱり………戦闘の後のパフェは格別………だな………それにこれから………時代は変わっていく、美しくなっていく国を見れないのは残念だけれども………ボスなら絶対に………成し遂げてくれる筈だ………私の、遺志を………理解してくれていたからな………)


ヨゾラはパフェを食べ終えた後、代金を支払って次に向かったのは、人気のない路地裏だった。





 ヨゾラは壁に寄りかかりながら、星を眺めていた。


(………そういえば………孤児になった時………この星を見ながら日を過ごしていたんだよな………ハハ………まさか死の間際に、生まれ故郷のことを思い起こすなんてな………)


ヨゾラは地面に横倒しになる。


走馬灯を見ながら、18年生きた人生を思い起こしていた。


(ようやく、思い出した………故郷の名は、『シーツァイ』の………スラム街だったな………暴力なんて当たり前の街で、まさかあの時は………一生このままだったかも、と思っていた時期だったからな………友に出会えて………英雄になって………国を裏切ると決めて、同士にも出会って………革命も成功できた………何も悔いはない、さ………もう何も…………悔いなんて…………これっぽっちも………な………)


ヨゾラは、穏やかな表情で()()()()()()()()()()()()()()()()()


享年18、そしてヨゾラの亡骸は3日後に発見され、駆けつけたフィレアとカトレアは特に、人目を憚らずその場にいた者全員、死を悼むような、惜しむような慟哭を挙げた。





そして10年の月日が経ったのである。

うーん………まあ、構想は初めからこれで考えてはいたんですが、主人公が死ぬという描写、なかなかないかなー………という意味でタグにバッドエンドと付けましたが、解釈は人それぞれかな、とは思います。

物語的にはハッピーエンド、ただ主人公が死ぬのはバッドエンドではないかな、と思ってこういう形を取らせていただきました。



次回、最終回です。

「未来に向かって歩く」、それで終わりにしたいと思います。

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