第五十三話 「託す」
シルバーvsウィーヴルの一幕。
最終決戦まで数話と迫りましたので、ここから気合い入れていきます。
ガキィン! ガキィン!! と、シルバーとウィーヴルの豪剣が交わされ合う音が響き渡った。
お互い一歩も譲る気などなく、しかしいつ斬られてもおかしくない。
そんな気配すら漂ってきていて、とても部下が割り込む余地などなかった。
「………やはり強いな、シルバー………何故貴様のような男を裏切らせる事になったのか………俺は悔やんでも悔やみきれん。」
腐り切った中枢にいたとはいえ、ウィーヴルにとってシルバーは苦楽を共に若い頃を過ごした同期、少しばかりは情があるようだった。
「ウィーヴ………正直ね、嫌気が差していたんだよ、地方自治に目を向けない君たちに、ね………それで裏切る事を決意し今に至るわけだ………だがね、この国の“これから”を動かすのは僕じゃあない………!!」
力を込め、ウィーヴルの剣をシルバーは振り払い、後退りさせる。
「何故そう言える? 俺は貴様を重用したいと思っていたところ………何故革命を成功させる気でいる? 何が貴様を………動かしているのだ、シルバー………!!」
ウィーヴルはまたシルバーに斬りかかり、今度はシルバーを防戦一方にさせる。
そしてこう続ける。
「確かに貴様は今、裏切ってはいる………だが俺は貴様の能力を、調和の力で民を纏め上げる、その能力を俺は買っているのに…………それなのに何故ここで今!! 貴様は死のうとしているのだ!!!」
シルバーにはウィーヴルが「こちら側に付け」と言っているようにも聞こえた。
しかしシルバーの覚悟は決まっていた。
帝国を倒すために命を賭す覚悟を。
「………今更ヤボなお願いだねえ、ウィーヴ………!!」
シルバーは押し返す。
そしてもう一振りし、ウィーヴルに擦り傷を負わせた。
「僕はね………ヨゾラくんの“覚悟”をこの目で見た、帝国を倒す、その覚悟をね………!! だから僕は………ヨゾラくんの、フィレアくんの覚悟をね! 一身に請け負い………そして若い力に国の未来を託す!!! そのために僕は………!! 君を屠るために剣を振るうんだ!!!」
シルバーは剣の素材になっている異形『フロストジャイアント』の力を解放し、冷気を剣から大量に放出させた。
だがウィーヴルも、異形『フレズベルグ』の雷電の力を解放した。
互いの剣がまたしてもかち合う。
しかし押しているのはシルバーだ。
「シルバー、仮に我らを倒したとして………その後はどうする気だ?」
「さあね………フィレアくんの腹の中は分からないさ………けれど、フィレアくんならこの国を良い方向に変えてくれる、そう信じさせてくれる“何か”がある………僕の役割は君を討ち、新興国の反乱分子を消す事、それだけさ………!!」
「随分と曖昧な未来だな………聞いた俺が馬鹿だったようだ………シルバー、ここでもう、ケリ着けるぞ………」
「ああ………掛かってこい!!」
シルバーとウィーヴルは同時に剣を振るった。
そして。
ザシュン!!!! という鎧が斬れた音と共に、2人の胴体から鮮血が廊下一体に飛び散った。
「相討ち………か………ハハッ………まったく、俺たちらしいな………最期まで、共に………だな………」
ウィーヴルはドサッ………とうつ伏せに倒れた。
シルバーも膝から下の力が抜け、仰向けに倒れた………ところを駆けつけたカトレアに支えられたのであった。
カトレアは即座に左大臣軍の残党を討つようシルバーの兵士に命じた。
そして自身は、というと。
「シルバー殿………!! シルバー殿ッッッ!!!! しっかりなさいませ!!!」
シルバーに目を覚ませ………そう呼びかけていた。
しかし致命傷もいいところで、シルバーを治療するのには時間もなかった上、治療ができたとしても異形の剣の威力ですぐに死亡するのは目に見えていた。
だが、シルバーは最期の力を振り絞るように身体を起こした。
「………カトレア………くんか………」
「シルバー殿………!!」
「…………僕はもうじきに死ぬ、な………これは………だから、君に………伝えておくよ、遺言を………」
カトレアは目に涙を浮かべ、コクンと頷いた。
「………革命は………成功する………勢いづくのは間違い無いだろう………だからこそ、フィレアくんに………託して欲しい………“国を………頼む………” それだけでいい、必ず………伝えてくれ………」
「………ハイ………」
「それと、君には………話しておきたかった事がある………」
「………話しておきたかった事………とは………??」
「ソールワン大戦の際………君たちの故郷が焼き討ちにされたろう………? アレを指示していたのは………ウィーヴなんだ………」
「!? さ、左大臣が………!?」
「ああ………君の父親とは、長い付き合いだったからな………だから僕は………カトレアくん、君のことは………娘のように想っていた、まあ………それは置いておいて、だ………君を処分しようと決めていたのもウィーヴだ、『アイツは生かしておくと碌な事がない、ヤディウム・コジーンの娘だからだ』………そんな理不尽な理由でね………」
カトレアの父・ヤディウムは物理学者であり、地元では人格者として慕われており、家でも良き父として振る舞っていた。
だが一方で、「軍師となれば国一つを滅ぼせる」と評される程の軍略の才能も有しており、国は警戒していた。
だからこそ狙われたのだろうし、カトレアも皮肉にもその才を引き継いでいた。
まさに7年前にウィーヴルが述べた通りに帝国側はなっているのである。
「………もし君にこの事を伝えていれば………君とて冷静では居られなくなるだろうしね………だから僕が、アイツを討つしか………無かったんだよ、ここまで真実を伏せて………ね………」
カトレア本人はなんとも言えぬ気持ちになった。
カトレアは無鉄砲に動くような人物ではない、その事は自他共に認めているところで、しかし父の仇となれば居ても立っても居られないとシルバーは判断したようだった。
「………やっと、ヤディウムに報告できるよ………カトレアくん、あとは………僕の軍を、上手く動かしてくれよ………?」
シルバーは優しく微笑みかけ、力無く腕が降りた。
冷淡なカトレアは、額を抑えて静かに泣いた。
シルバー戦死、その事実を受け止めるべく、咽ぶのを耐えた。
カトレアは伝令役にこう伝えた。
「………ヨゾラ様にシルバー殿の戦死を報告するのと………左大臣を討ち取った事を報告してください………」
「かしこまりました。」
伝令役が去ると、カトレアはゆっくりと涙を拭きながら立ち上がった。
(シルバー殿………あとは私たちにお任せを!)
「シルバー軍全軍に告ぐ!! 左大臣軍を殲滅したのち、ヨゾラの軍に着いてください!!」
カトレアの掛け声に意思疎通がしっかり取れているようにシルバー軍は、大声でそれに応え、残党の殲滅を開始したのであった。
個人的にシルバーさんは良いキャラになったなー………と思っていたので、ここで死ぬのは予定調和でしたがメンタル的にキツいのは変わらないですね………()
ライドみたいな悲惨な死に方はさせなくてよかったかな?
次回はゾルのサイドをお送りします。




