第四十八話 速攻攻略
今回から攻め込み。
最初はヨゾラ、カトレアサイドです。
一方、ヨゾラはというと。
表向きではあるものの、革命軍襲撃に備えて軍を配備していた。
しかもエディア軍にはバミューダも入れたため、裏切る気満々の配置である。
「バミューダ、そっちの首尾はどうだ?」
「バッチリだ、いつでも合図の準備は出来てるぜ。」
作戦の確認をする2人。
第四層目にエディア軍は配置されているため、戦況が見えやすい位置にいる。
辺りを見渡したあと、一層目の弱点となる部分をデバイスで送信する。
「あとは皆んなが上手くやってくれるはずだ。私たちは出来ることをやるだけだ。」
「そうだな、漸く………帝国を斃せるチャンスが巡ってきたんだ、盛大な裏切りで血の雨を降らせようぜ、ヨゾラ。」
2人は拳を合わせ、配置に戻っていった。
そしてその頃、エディアに集合していたゾルとソールワン族、そして反帝国の他組織軍、非ソールワンの少数民族の部隊、合計7万3千。
ゾルとオリビアが決起の前に会話をする。
「………いよいよだな。」
「ええ………ゾルさん、あの時は本当に………ありがとうございました。キリアも天国で喜んでいるだろうと思いますわ。」
ゾルはフッ、と軽く笑い、天を見た。
雲一つすらない青空、まさかこの後、革命軍が襲撃することなど、帝都民は予期していないのだろうが。
「俺ぁ………何もしてねーよ、オリビア。それによく………ソールワンの部隊を率いようと思ったな? やっぱり思い入れがあんだろ?」
「そう………ですね。同胞も帰ってきたことですし………キリアのためです、せめてもの償いができれば、と思いまして………帝国攻略のカギは事前にフィレアさんにお聞きし、全員で合わせました。以前の内戦のようなソールワンではありません!!」
「俺はテメエらに何も心配はしちゃいねえさ。強さはよく知っているし………武器の製造もこっちでも頼んでおいてよかった。とっておきも………あるみてえだしな。」
ゾルは時間になった、と判断し、進軍の号令を取った。
「いいかテメエら!! これから俺たちがやることはただひとつ!!! 悪しき皇帝を討ち!!! 安寧の世を齎す!!! 先祖や家族の無念を………今ここで晴らす時だ、いざ出陣だ!!!」
「オオオオオオオオ!!!!!」
エディアの長閑な街は、大騒音で包まれ、ゾルは約7万の大軍を率いて、ペキンシクル城まで進軍を開始したのであった。
そして本隊のフィレアの方は。
「よし………ゾルも動いたな。あと1時間くらい、か………」
と呟き、革命軍の伝令隊である女性・『イルキス』の方を向いた。
「イルキス、全隊に通告を。軍の配備をするように頼む。」
「御意。」
イルキスは通る声で返事をし、フィレアの元を去った。
と、そこにシルバーがやってきた。
「シルバー殿。何故ここにきた? そろそろ時間なんだ、早めに配備を………」
「………まさかこうなるとは思ってなかったろう? フィレアくん。」
「………そうだな。最初は貴方を葬ろうとしていた。どれだけ謝罪しても足りぬくらいには、な………やはり裏事情を知らねば新しく生まれ変わるシンバラエキアを統治できない、そう感じたからな………」
「もう気にしちゃあいないさ。君とヨゾラくんのお陰で………領地は発展して、謀反の準備も出来たから。今この歳で………人生最高に昂っているよ………どれだけこの日を待ち侘びたことか………!!」
シルバーは、普段のイケオジの表情からは想像がつかない程、狂気的な笑みを浮かべている。
(やはり本物だな、シルバー殿の本心は………どれだけフラストレーションを溜めていたかが分かる………)
「シルバー殿、私は………昂っていないと言ったら嘘になる、だが軍にいた時よりも………どんな業務よりも………怖いくらいに落ち着いている。自信しかないさ、帝国を斃せる、その自信以外にね………!!」
フィレアもこの戦いに燃えていた。
5年も準備をし、今か今かと待ち侘びたのだから。
フィレアは全軍の前に出て、号令を掛けた。
全軍、指示伝達用の耳当て式デバイスを耳に当てた。
これは帝国軍に聴かれないようにするために、別の反帝国組織が密かに開発していたものである。
「いいか革命軍!! 今までどれだけ………帝国に虐げられてきた!? 苦しめられてきた!? 今このシンバラエキア帝国は腐りに腐っている!! 君たちから生活に必要なものを搾取し、大切な家族までもを奪ってきた!!! さあ!! 今こそそのツケを………清算する時なのだ!! 私たちはこの戦いに勝利し!!! 皆が安寧に暮らせる、そんな世を創り上げるのだ!!!! 出撃だ、革命軍!!! まずは石垣の攻略といく!!!」
大歓声がこだまし、全軍出撃とした。
帝国軍にも、全軍に伝達された。
革命軍が襲撃してきた、と。
「動いてきたな、みんな………」
「ええ………上手くいくといいのですが。」
「問題はない。この日のためにシミュレーションを何度も積んだはず、それに………皆分かっているはずだろうからな、この城の最大の弱点を。」
ヨゾラは静かに戦況を見守るよう、全軍に通達し、様子を見守ったのである。
そして革命軍は、石垣部分をまずは攻めた。
帝国軍は奮戦していくものの、フィレアが先陣を切り、攻め込んでいたので、兵の指揮も上がっており、次々と帝国兵を討ち倒していった。
だがこれは囮である。
本命はシルバーの軍隊の方なのだから。
シルバーの軍隊は南西の方角から攻略にかかっている。
石垣攻略はお手のもの、その戦には無類の強さを誇っているので、次々と兵は倒れていった。
しかもここ南西は、最も手薄な場所。
蟻の一穴を打つには最適な場所で、これもヨゾラ、バミューダの帝国軍裏切りコンビが横流しにした情報なのだから。
更には一層目に繋がる勾配が最も低くなり、攻略の道筋も見えて来る。
そのうち、シルバーは敵部隊長を発見した。
「なっ………!! し、シルバー将軍!? まさか………!!」
「悪いけど、もう今の帝国に愛着なんてない。屍になってもらうよ!!」
動揺を隠せない敵部隊長。
シルバーは一気に行き、部隊長を剣で一瞬にして葬った。
指揮官を失った石垣防衛部隊は混乱に陥った。
そしてこれで勢いづくのはゾルが率いるソールワン族の軍だ。
統制が取れていない帝国軍など、彼らにとってはまさにカモである。
帝国軍は絶望に苛まれながら次々と彼らによって死んでいったのであった。
その頃城では。
戦況の急報が入っていた。
「急報!! シルバー将軍、キャイオン将軍、クレイル少尉など、将軍級将校8名の軍が我らを裏切り、侵攻を開始!! 石垣護衛の部隊長がシルバー将軍により討ち死に!!! 更にはソールワンどもの他、多数の少数民族が攻め入っている模様です!!!」
この急報に、中枢は響めきが走っていた。
「慌てるな、総大将は誰だ?」
右大臣・ウィングラードが伝令兵に誰が率いているのかを問う。
「ハッ、詳細はまだ入ってきておりませぬが………!! フィレア元大佐が総大将とのことです!! 総勢25万を率い、我らを喰らおうとしている模様です!!」
「に、25万だと………!?」
左大臣・ウィーヴルは想定外の大軍に動揺を隠せていなかった。
「陛下、如何しましょうか。」
右大臣は冷静を装い、皇帝・「シュトラウス・シンバラエキア」に対策を問う。
「フッ………慌てるな、こちらにはヨゾラがいるではないか。4層目で彼奴等は必ず止まる。静観していればよい。」
「では、なるべく時間を稼げ、とのことですか?」
「そのように伝えよ。」
「かしこまりました。」
伝令兵は伝令を伝えるため、皇帝の元を立ち去っていったのであった。
そしてヨゾラは、というと。
「ヨゾラ様、一層目を突破した模様です。」
「………了解。これなら作戦実行も早く行けそうだ。準備をするよう、実行部隊に伝令を。気付かれないように頼む。」
「そのように致します。」
カトレアはヨゾラの指示を実行し、作戦の実行部隊に伝達を行った。
(とはいえ………一気に行けるかは分からない。失敗したり露見したりすれば私の命が危うい、つまり………革命は失敗する………気を引きつけておけよ、皆んな………!!)
ヨゾラは侵攻が順調なことを祈りつつ、作戦の実行を待ちに待ったのであった。
次回も引き続き。




