第四十三話 異形討伐の地獄絵図
思い出したくないヨゾラの強烈な過去です。
1ヶ月後、「イグノー」の面々は異形討伐試験を受けることとなった。
武器の使い方を彼らに教えた上で、更に人数を絞るようである。
ヨゾラはカトレア、ギマラエス、そして他数十人で「シクイビル」の討伐へと向かうため、「ホルリシア」へと向かっていった。
辿り着くと、推定40メートルにもなる、巨大な紐のような、黒光りしている生物がいた。
ズズ………ズズズズズズズ…………という音とともに、こちらへ接近してくる。
あまりの気色悪さにヨゾラを含めた女子数十人が顔を歪める。
しかし、デラクルスが前に出た。
「ガタガタ騒ぐな………俺が先陣を切るから着いてこい。」
巨大なハンマーを携え、ギマラエスはのしのしとシクイビルに近付いていった。
鋭い振りでシクイビルを攻撃していくが、ヌルヌルとしているのと、無脊椎動物が故の軟体さでノーダメージである。
ギマラエスを援護しようと男子たちが加勢するも、子供数人で畳み掛けられるほどシクイビルはヤワではなく、瞬時に長い体を活かして巻き付いては鋭利な牙で頭から丸齧りして血を吸い取っていった。
ギマラエスもこの隙を突こうとハンマーを振り下ろすが、意外にもスピードがシクイビルにあり、当たらなかった。
女子陣がパニックに陥り、女子陣にも犠牲が出始める中、木に登って戦況を眺めていたヨゾラとカトレアは、作戦を立てた。
「………なにか考えある? カトレア………」
「あの長い体に“核”があると思う、だから………ヨゾラが斬り裂いて硬い核を見つけてギマラエスで叩き潰す………これがいいと思う。ちょうど今ギマラエスが引き付けてるけどあの長さだからどうしても限度はあるけど………あっちの意識が彼に集中しているからヨゾラは一気にさ、スピードを活かしてとにかく斬っていって。」
カトレアの、軍師の片鱗たる観察眼と戦術眼を見抜き、すっかりと意気投合して親友の間柄になっていた2人。
同じことを考えていた、とヨゾラは思わんばかりに刀を構えた。
「任せといて。絶対に倒してくる。」
ヨゾラは飛び出していき、シクイビルに音もなく近づいていった。
そこからはまさに圧巻だった。
一気にシクイビルの頭へと、滑りを物ともせず駆け上がったと思えば一瞬で首を斬り裂き、更には40メートルにもなる巨大な体を幾重にも重なるように、再生が追いつかないようぶつ切りにしていった。
そして遂に。
ガツーン!!! という大きな音と共に、ヨゾラの刀が折れた。
ここが核だ、と確信したヨゾラは、ギマラエスを大声で呼ぶ。
「ギマラエスーーーーーーー!!!!! ここーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
「………任せとけ………うりゃ!!!」
駆けつけたギマラエスによって核が破壊されたことで、シクイビルの動きは完全停止したのであった。
素材を持ち帰ったはいいものの、80名のうち57名が死亡するという散々たる結果となってしまったのであり、ヨゾラは発狂しないよう我慢していたのだが、地獄絵図でしかなかったと、後に回想するほど鮮烈且つ強烈な記憶として刻まれたのであった。
だが、トラブルが発生したのは帰還後のことだった。
カトレアを処分する、と教官が言い出したのだ。
「臆病に戦闘に参加しなかった」、「ただ木の上でジッと隠れていただけ」、「一次試験の時も運良く生き延びただけ」という、これまでの経緯やカトレアの身体能力を加味しても、今回のシクイビル討伐はヨゾラに作戦を与えていた功績があったにも拘らず処分するようだった。
だが、これに納得がいっていなかったのはヨゾラだった。
怒りを携えた表情で11歳ながら教官に問い詰めた。
「カトレアがいなければ今回のシクイビル討伐は絶対に出来なかった」、「彼女の作戦立案は完璧だった」、「軍師に向いているくらい頭が切れる」と説得し、教官も渋々処分を取り止めたのであった。
その後は帝国礼讃教育とともに、実戦形式の訓練が今回の異形討伐試験で残った736人で行っていき、ヨゾラは遊撃隊、カトレアはそこの軍師にとして組み込まれ、ギマラエスは本人の希望もあって拷問部隊に配属されることとなった。
そこから約一年が経過し、ヨゾラが「英雄」として讃えられるようになる運命の日が近づいていくのであった。
次回はソールワン大戦で、ヨゾラがとにかく斬りまくります。
ソールワン族に情けは無用と言わんばかりのヨゾラの暴れっぷりを書ければいいかな、と思っています。




