第四十話 帝国からの要請
領主としての難しさから始まる新章「ヨゾラの過去編」です。
さて、エディアに帰還したヨゾラは、というと。
帝国からの使者と面会を会議室でしていた。
ゾルとカトレアには将軍暗殺に行かせているため、使者と2人っきりである。
「ヨゾラ殿、急に予定を入れさせてしまい、申し訳ございません。」
「い、いや………気にするな。帝国からの予定は入れておかないといけないからな。それがこの国の規律だろう?」
流石に今し方来たとは公には出来なかったヨゾラだが、とても18歳の少女とは思えない、凛とした佇まいで面会に臨んでいたのである。
「………それで、何の用だ? 帝国からの呼び出しは碌なことがないからな………」
まさか自分が裏切りを画策していることがバレたのか、と内心では焦っていたが、ヨゾラはそれを顔に出すようなノミの心臓ではない。
「実はですね………先日帝都の『異民族強制収容所』が何者かによって襲撃されまして、賊を捕らえましたが情報を吐かず………このままでは帝国の信用に関わる、よもや革命を引き起こされる………そういうリスクを孕んでおります。そこでブリューナク殿からの推薦で、ヨゾラ殿を城内警護に着かせるように、とその旨を伝えに参りました。」
「なるほど、賊が、か………それで? 収容所はどうなった? 護衛をしてほしいという陛下のお気持ちもわからなくはないが。」
「看守長が殉死し、その他職員も全員無惨にも殺されるという状態、そしてソールワン族およそ一万人を脱走させる結果となりました。」
「………で、ブリューナク殿はソールワンが『主兵力』として国を倒しに来る、そう読んでいるわけだな? それで内戦での実績のある私に頼んだ、そういうわけだな?」
「おそらくは。」
ヨゾラは「ふむ………」と興味ありげに話を敢えて合わせ、使者にこう言った。
「それだったら受け入れよう。それに、ソールワンはこのエディアを通らないのはまず間違いない。ならば我が軍も全軍投入可能だ。我が軍全てを持って城内を警護する、そう約束しよう。野蛮な民族はアリ1匹たりとも入れやしないさ。」
「ありがとうございます!!」
使者は喜んで頭を下げたが、ヨゾラは同時にこう苦言も呈した。
「………ただな、帝都に攻め込まれるということは………帝国に対しての信用度にも関わってくる。事前に倒すのが筋だが、分からないのであればそこで叩くしかない。だが鎮圧しようが国が倒されようが………帝国への不信感というその波は止められない、陛下にそう伝えておいてくれ。」
「………承知致しました。」
使者は頭を下げ、立ち去っていった。
ヨゾラはひと段落し、一息ついて天井を見上げた。
と、そこにノック音が聞こえた。
「………誰だ?」
ヨゾラはドアをガチャ、と開けると、そこにいたのはバミューダだった。
「………珍しいな、バミューダ。お前がこんなところにいるなんてよほどの事じゃなさそうだな?」
「……まあな、ちょうど帝国の使者が立ち去ったタイミングだ、お前に伝えなきゃいけないことがある。」
疑問に思ったヨゾラだったが、バミューダの表情を見て何かを察したかのように椅子に出迎えた。
ヨゾラはコーヒーをカップに淹れ、バミューダに手渡す。
「………悪いな、ヨゾラ。フィレアは今………ショックを受けていてな、アジトで休ませてる。」
「ボスがショックを? 何があったんだ、バミューダ。」
「………実はな………ライドが収容所で捕まってな………」
「!? ライドが………!!?? 無事なのか!?」
バミューダは神妙な表情でデバイスに残っていた写真を見せる。
「………帝都に晒された、ライドの首だ。おそらく拷問されて死んだんだろう。」
「………そうだったのか………使者がそう言っているならそうだろうな………ライドは私たちの情報を最期まで吐かなかった、それで十分じゃないか?」
「………そうだな………ヨゾラは強いな、お前………で? 帝国からの要請はなんだよ?」
「城の警護をしろ、とのことだ。エディア全軍を投入することで条件は二つ返事で折り合えた。」
「………オイ、ヨゾラ………まさか裏切るってわけじゃねえだろうな?」
「むしろ好都合じゃないか? 現に私の謀反はバレていない。バミューダ、明日にはゾルとカトレアが帰ってくる。シルバー殿も呼んでくれ。今回の件についてみんなにも共有して、私のことを話したいと思う。」
「………分かった、信じるぞ、ヨゾラ。とにかく明日だな? フィレアもその時には立ち直ってるかもしれねえから大丈夫だろ。それじゃあな。」
バミューダは立ち上がり、立ち去っていった。
(そうか………ライドが、か………すまないな、お前の分まで………私は、いや私たちは………帝国を討つ………!!)
ヨゾラは改めて、帝国打倒を誓ったのであった。
そして翌日。
カトレア、ゾルも遠征先から帰還し、アジトに全員が集結した。
「心配をかけたな、ヨゾラ。考えは少し整理できた。」
「ボス、私も一つ謝らないといけない。誤解を与えて申し訳ない。」
「まあバミューダから事情は聞いたからな。まあ詳しく話してくれ。」
全員椅子に腰掛け、ヨゾラは帝国の要請を受けた理由を語り始めるのであった。
次回はヨゾラの過去をここから語ります。




