第二十二話 似た環境
ギマラエスの異常っぷりが分かる回にしたいなと思います。
それは街並みから浮かぶかな、と。
マルーガに到着したゲバラの一行だったが、町の廃れっぷりには唖然とする他なかった。
それもそうだ、人の顔に生気がないからだ。
「……何が起きているんでしょうね……この町は……」
カトレアがポソっとつぶやく。
この状況を、持ち前の頭脳で処理しようというのだから驚きだ。
「……こんな身綺麗な格好をしていては襲われそうだな……」
ヨゾラは引き締まった表情で戦闘態勢を整えた。
もし何かあっても対処できるように。
と、ここでフィレアが手を叩いた。
「よし、全員で固まって行動しよう。末端があんな状態なんだ、全員で行く方が安全だろう。注視していくぞ。いいな。」
「「「「了解。」」」」
ということで、全員でマルーガを探索し、情報を得ることにしたのだった。
マルーガを歩くと、死体の匂いが町一体に充満しており、毎日のように常人が吸えば頭がおかしくなるほどだった。
それくらい、一つの町として異常だった。
いくらソールワン族との共闘で、ダヘリアン軍を全滅させたヨゾラ達とはいえ、異常に立ち込めるこの匂いに吐き気を催すほどだった。
ただ1人、ヨゾラを除いては。
「……ヨゾラ……よくこんな場所でも平気なんだな……」
ライドが唯一平然としているヨゾラに鼻を押さえながら聞いた。
「……子供の時と似ているからな。親は勿論いた、11になるまではちゃんといたさ。だけど……町の名は忘れた、けれど……マルーガのような場所で育ったのは覚えてる。親の名前も知らない、子供の頃の私の記憶にあるのが……『ヨゾラ』って名前だっただけだ。それに戦争も経験して多くのソールワン族を斬ってきた。それもあるのかもな。落ち着いた後に死体の匂いが……凄まじかった、血生臭かったのは覚えてる。」
「……生々しいっての……それだけヨゾラの人生に影響を与えていたんだな……」
「当時のシンバラエキアはそんな場所が多かった、それは事実だ。……特に末端の場所は……もしかしたらマルーガよりも酷いかもしれない。」
「マジかよ……ここより酷いってよっぽどだぜ……? 正直ここだけでもゲロ吐きそうってのによ……」
「死線に慣れていないと私のような感覚にはなれないぞ? ……こんなことを経験したからこそ……パフェが至高の食べ物の感じるんだ。」
「だからそれこそ重いって。……まあ、ここじゃあそんなこと言ってらんねえよな……平気で売春とか密売とか平然と行われてるもんな……マルーガの感覚が異常すぎるぜ……」
「全くだ。エディアでの長閑な場所があるだけでもありがたいさ。」
と、ここで屋根の上から何人かの男が飛びかかる気配が襲った。
襲いかかって身包みを剥ごうという算段なのだろうか。
だがヨゾラにこんなチャチな作戦は通じない。
低い体勢から二本の刀を瞬時に引き抜き、この襲撃を受け止めた。
「なっ……!!」
「その程度で私を殺せると思ったか、盗っ人。」
受け止めている剣を振り払い、ヨゾラは瞬時に刀を納めた。
そして。
バキッ! べキャッ!!! ボグシャ!! バゴン!!!
ヨゾラは一瞬で体勢を入れ替え、超スピードで殴り、蹴り飛ばし、4人の男達を失神させたのだった。
「ヨゾラ……体術も強かったのかよ……」
「この程度、刀の錆にするまでもない。」
「とりあえず誰もこなさそうな建物を探そう。そこで一度情報を纏める。」
フィレアの指示で、人気のない廃墟に入り、一度纏めたのだった。
5人は建物で情報を纏めた。
中央の円が放射状になっているように建物が聳え立っており、中央には塔のような建物が建っていることが分かった。
「……おそらくギマラエスはそこにいるだろう。だが実態が分からないのがな……だがあの町の様子だ、大体予想できる。あの血生臭い匂いの場所だ、良からぬことをしているのは明白だ。」
「ああ……ボスの言う通りだ。アイツは……こんな状況にも目を向けようともしねえ。それくらいしか分からない、ただ自分の趣味で人を殺してるんだとしたら……早く止めねえともっと不幸な事態になりかねないぜ……?」
「……すまない、みんな……提案がある。」
ヨゾラが渋い顔で手を挙げる。
「ヨゾラ、どうしたよ。」
「……正直マルーガの民は……もう救いようがないように思えた。どんな手を施しても……職を与えても……暴力しか知らない奴らを生かしておく理由はない気がする。それは……ボスの理想国家の最大の障害になるかもしれない。だから……」
沈黙が流れる。
全員固唾を飲む。
ヨゾラは一つ息を吐き、目を開けた。
「ギマラエスを私がこの手で葬ったあと……この町を全て燃やし尽くす。民も建物も……何もかも更地にする。」
「なっ………オイオイ、ヨゾラ何言ってんだよ?」
ライドは信じられない、という顔でヨゾラに問い詰める。
「理由は述べた通りだ。ボスに忠誠を誓うような奴らには見えない、だからこうする以外に方法が思い浮かばなかった。……私だって色々考えたが……襲撃のあの躊躇いのなさが……確信を生んだ。救いようがないってな。それは皇帝と同じだ。形は違うがな。」
ヨゾラは鋭い目つきになった。
その目には狂気が孕んでいた。
ライドは止めた自分が悪かった、というような寒気を覚えた。
これが「英雄・屍のヨゾラ」なのか、と。
「確かにヨゾラの言うことも尤もかもな……そうだな、新国家を築き上げるのには不安分子は事前に取り払わなければならないからな……私も乗り気ではないがやるぞ。徹底的にな。」
全員、フィレアの言葉に頷いた。
これはもうやるしかない、と。
一方、ギマラエスの潜む塔では。
ギマラエスが自分の部屋で死体に馬乗りになり、恍惚の表情を浮かべながらナイフで滅多刺しにしていた。
壁一面には過去の鮮血が、赤黒く染まっている。
「……なんだか潮目が動きそうだなぁ……また俺の……死体コレクションが増える予感が……な。」
エクスタシーに達し、シャツを肌けると、その背に写っていたのは「9083」のタトゥーが、腕には魚鱗のようなタトゥーが描かれていた。
狂人・ギマラエスとの戦いがすぐそこまで迫っていたのだった。
次回からVSギマラエスです。
お楽しみくださいませ。




