第十九話 地方自治の難しさ
大事なものは地方に回らなかったりするというのは田舎あるあるかなと。
情報社会になってるからだいぶ現代では解消されつつありますけど、この回はそうじゃない地域もある、ということを改めて念頭に入れてくれればいいかなと思ってます。
さて、登場人物紹介、今回はシルバーです。
シルバー・ルーフェンワーム
46歳
シンバラエキア帝国将軍・ブレーキニスト領主
179センチ
72キロ
好きな食べ物:夏に採れる木の実
趣味:子供達と遊ぶこと
シンバラエキア帝国の将軍の一人で、ブレーキニストの領主も兼任している。
超が付くほど真面目な男で、領民には目を配っているのだが、女遊びが激しいとのこと。
現状のブレーキニストを嘆いており、帝国から賄賂という名の資金源を月一で貰っている。
しかし、状態が上向かない事を、自らの無能さを悔やんでいるフシもあり、本音は帝国を裏切りたいと思っている。
重い口取りでヨゾラにブレーキニストの事をシルバーは語ろうとしていた。
声色的にも相当キツイような印象は受けた。
「……それで、ブレーキニストの実態とは。私も同じ領主としての立場がある。お聞かせ願いたい。」
ヨゾラは他人事ではない、と考え、シルバーを問い詰めた。
「……私がブレーキニストに赴任してきたのは6年前……辺り一面銀世界で美しい町だったのだが……男が居ないというのが常だった。」
シルバーは少し窶れた顔で項垂れながら話した。
「男がいない?? どういう事だ??」
「……更に話を聞くと……男どもは他の町へ……出稼ぎに行くそうだ。帰って来れるのは夏の間のみ……その間は女子供だけという事だった。」
「……それでは経済が回らないのも自然な話だな……」
「……君には弱みを握られているから言える事なのだが……私は帝国から賄賂を受け取っている。だが、これもワケがあるんだ。さっきの写真にも、それと関連している。」
ヨゾラは何か察したようで、それ以上は言わなかった。
シルバーは続ける。
「あまりにも財政赤字が深刻なものでな……あるものといえば教会しかない。だがその教会も、このブレーキニストには他の町からの客が殆ど来ない。だから財政支援という名目で月一回……それを受け取っていた。しかもこの町の女性は……家庭を支えるために他の町へ売春に出かけるほどだ。しかもそれしか知らない女性ばかりなのだ。私が赴任してきた時、金がありそうだから……という、たったそれだけで多くの女性に言い寄られた。私は経済に関しての知識が殆ど無いからこうするしかなかったんだ。……賄賂を女性たちに使うことしか出来なかった、それが事の真相で……子供達と遊んでいたのも少しでも子供達が寂しい思いをさせたくがないための苦肉の策だったのだ……」
「……辻褄は合うな。これは本当に他人事ではないな……」
ヨゾラは実態を知り、ホッとしたのと同時にため息を吐いた。
シルバーも気持ち自体は軽くなったようで、一つ大きく息を吐く。
(………しかし、どうするか……シルバーをここで斬る理由は完全に無くなった……斬れば私は「反逆者」として捕らえられる……しかも革命に必要な軍の確保も出来ない、ってなると……)
「……ヨゾラ公爵……君に頼みたいことがある。」
「……なんだ?」
シルバーの目は真剣だ。
ヨゾラは前のめりになり、話を聞こうとする。
「……どうか、お願いしたい! ブレーキニストの経済の発展を……頼めないだろうか!! こんな情けない男の頼みで申し訳ない、だが……!!」
「……気持ちは分かるが、私の一存だけではどうにも……」
「……信じてもらえるかはわからない、だが……! 私は帝国と戦える力を……! 蓄えておきたいのだ! だからこそ藁にも縋る想いで君に頼んでいるのだ……!! だから……!!」
シルバーの切実な訴えに、ヨゾラは反応した。
「帝国と……?」
「ああ……帝国は金だけ渡して他は何もしなかった。目を向けようともな……だからこそ反逆をしたいのだ!! そのためには経済の事をまず最優先にして、軍に余裕を持たせたいのだ……!」
ヨゾラはこれを聞き、微笑を浮かべた。
まさかターゲットだったはずのシルバーが、よもや帝国を裏切りたいと言うのは完全に予想外だったからだ。
「……貴方の想いは分かった。私も……帝国を裏切りたいと思っていたところだ。だからこそ……『エディア』領主として、ブレーキニストの経済発展に協力したい。私なんぞでよければ力を貸そう。」
ヨゾラは右手を突き出した。
協定の締結(仮)なのだが、ヨゾラはシルバーに協力する事を決めたようだった。
「……ありがとう……!! 救いの神は……こんなところにいたなんてな……!!」
シルバーは感無量の顔で涙を流し、ヨゾラの右手を両手で掴んだのだった。
ヨゾラはシルバー邸を後にし、エディアに馬を一頭、隣町から借りて帰還して行った。
「………ってわけなんだ。」
ヨゾラはシルバーとブレーキニストの実情をゲバラのメンバーに説明した。
「……そうか……悪い事をしたな、シルバーには……」
フィレアは首を横に振った。
まさかシルバーが帝国を裏切ろうとしているとは完全に予想外だったのだから。
「……けどよ、ヨゾラー。嘘を言っている可能性は無いのか? 嘘を言って、ヨゾラをハメようとしてた、とかってないよな?」
ライドはヨゾラがシルバーに騙されているのでは、と質問をする。
ヨゾラは私見を言った。
「……嘘をつけない不器用な男に私は見えた。そもそも私が弱みを握っているんだ、あの場面で嘘を宣えるなど、役者じゃ無いと出来ないだろう。それに他人事とは思えなかったからな。私も曲がりなりに一つの町の領主だからな。」
これを聞いたゾルは、腑に落ちたような表情を浮かべる。
「ヨゾラがキチンと話を聞いてきたって言うのなら間違いないだろう。シルバーも目立ちはしないが帝国屈指の実力者だ、っていうのはバミューダから聞いた。まあ流石に革命軍には入らないだろうが、一勢力として動いてくれるって事なら相当な戦力になるぜ。何を考えているかは正直分からないし、完全に信用できるってわけじゃない。だがメリットの方がでけえ筈だ。俺は賛成だな。律儀な男だろうから情報も流れないだろうしな。」
「……ではヨゾラ様、官僚の方々にもこの事を話しておきましょうか?」
「ああ。私の口から話す。ボス達は次のターゲットをどうするかを会議しておいてくれ。」
ヨゾラとカトレアは、アジトの部屋を出て、会議室へと向かっていった。
そして1週間後。
ゲバラメンバーは、再びブレーキニストへと集結した。
ヨゾラ達は経済発展のために武器製造工場、服飾の工場を建設することを決めたようで、エディア屈指の名工を呼んだ上で工事を開始したのだった。
意外と熱い男、シルバー将軍。
今後彼は、帝国の情報をバミューダと共に横流ししていくことになります。
まあ帝国首都から結構遠いんで、情報もデバイスの口コミじゃないと行き届かないですからね。
次回は小話的な感覚で前半はお送りすると共に、次のターゲットを決める回になります。
ちょっとまさかの展開だったでしょうが、僕もシルバーを残したいなー……って思ってたんで御容赦を。
マジで良い人すぎるイケオジなのでね。




