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第十六話 激昂

前回お話しした通り、この回は一騎討ちです。

ゾルとダヘリアンの。

ゾルはクールな男だけど、根っこは熱い男です。

 互いに馬に乗り、剣と剣を混じり合わせていくゾルとダヘリアン。


高速且つ重い剣技が振られているのが飛び散る火花からでもわかる。


それくらい2人の実力に大差は無かった。


「フフ……貴様、素晴らしい剣技を持っている、だが惜しいなあ!! もしも軍に居ればもっと上の立場にいられたものを!!!」


ゾルの剣技を称賛しながらも尚も刃を振っていく。


一方ゾルも負けてはいない。


「おあつらえ向きだ、ダヘリアン……俺は帝国のクソさ加減を知って今の組織に入った。そうじゃなければ……今の俺は無い!!」


激しく脈打つ剣筋、それと共に両者を背負う馬も嘶く。


「クハハ……面白い男よ。あのソールワンの女と同じ匂いがする……()()()()()()()()!!!」


ゾルが一瞬ピクッとなる。


だが、それとは裏腹に剣筋が強くなっていた。


「……お前がやったのか。」


ゾルが少し怒気を孕んだ声でダヘリアンに問いかけた。


ゾルはバミューダから事前にキリアのことは聞いていたとはいえ、剣を交えなければわからなかった事実を知ってしまった。


「ホウ……お前達の仲間だったか……クハハ、なかなか面白い女だったぞ。何度地面に伏せさせても……立ち上がってくるあの目!! 殺し甲斐があったわ!! ハーーーッハッハッハッ!!!」


ダヘリアンは高らかに笑い、剣を振るいながら尚も続ける。


「あの女は私が殺した後……臓器を全て剥ぎ取ってやった!! この国の民族の……命を守るためになぁ!!」


ゾルは冷静に剣をかち合わせていっていたのだが……


()()()()()()()()()()()()……??」


ダヘリアンの剣撃に一瞬出来た「間」を突き、剣を横に振り、ダヘリアンの腹部を斬り裂いた。


「……仲間が死んだことは仕方ねえさ……職業柄、誰かしら死ぬことは……メンバー全員想定済みだ……!! だがなあ!! 死んだ奴に……!! テメエは弔いの一つもねえのか!!!!」


ゾルは完全にキレていた。


キリアをダヘリアンに殺されたことだけでなく、その生きた尊厳すらも殺されたということに。


ゾルは渾身のパワーを込めて、ダヘリアンの鉤爪状の剣と左腕をへし折り、斬り落とす。


「貴様……!! まだこんな力を……!!」


ダヘリアンは歯軋りしながらゾルを睨む。


だが、ゾルは完全にスイッチが入っていた。


()()()()()()()()()()


「テメエは俺が殺す……!!! そうじゃねえと……!! キリアが報われねえ!!!」




 一方、兵をあらかた斬り終えたヨゾラがフィレアと合流した。


「一騎討ちの戦況はどうだ、ボス。」


ヨゾラの後ろはソールワン族の兵士に任せているので、安心して話を聞くことが出来ていた。


「戦況は上のカトレアから情報を得ている。安心しろ。ライドも万が一に備えている。」


「……ならいいんだが……もしゾルに何かあれば私が援護に入ろう。」


だが、このヨゾラの進言にはフィレアは首を振った。


「その必要は無いよ、ヨゾラ。……そうだな……この際だから……アイツの過去を……話すとするか。」


フィレアは一つ息を吐いた。


「……アイツは帝都の貧民街(スラム)の出身なんだ。アイツは親を知らないで生きてきていてな、喧嘩や盗み……殺人など、生きるためにはなんでもする奴だった。」


「……ボスとアイツの出会いはいつだったんだ?」


「もう8年も前になるな。たまたま任務で貧民街(スラム)を訪れていてね……私に襲いかかってきたところを捻じ伏せたのさ。けれどその後も暴れて暴れて……だな。一般の兵士じゃ手が付けられないレベルだった。」


「よくボスについて行ったものだな。」


「今思うと全くその通りだよ。敢えて拘束させて私のところで引き取った。ただまあ……喋らないわ暴れるわで……部下に環境を調べさせたらな……字の読み書きや発音もまともに習ったことがないような奴だった。だけどもね、私を襲ってきた時の剣筋が良かったということも合わさって……私のボディーガードとして雇ったんだよ。……『ゾル』、という名前も与えてね。そこからは仕事の合間に勉学をさせて……だな……それであのような男になったんだ。」


「……ボス、内戦には参加させたのか?」


「内戦自体は参加してなかったんだ、アイツは。あの時のゾルは無鉄砲な所があってな……戦争に参加させるのは危険だと判断した。だからまあ……バミューダに預けて私は戦争に出掛けたんだが……ご覧の有様さ。でもその過程で私はアイツが仲間想いな奴だと知ったし、気付かされた。だからなんとなくでしかないが分かるんだ。確かに血は繋がってはいない、だけどもゾルと私は……8年も共に過ごして戦ってきた()()()()()()()()さ。ゾルなら大丈夫だって、な。」


これを聴いたヨゾラは、刀の柄を握りしめた。


「……ボスがそういうなら心配は無いな。」


ヨゾラは薄く笑いながらそう呟いた。




 ダヘリアンは部下から受け取った剣を、右腕一本の隻腕でゾルの剣撃に対応していたが、ゾルも冷静そのものだった。


隙を見つけては剣を少しずつ振るっていく。


タフなダヘリアン相手だ、一瞬でも力めば片腕とはいえど、ゾルがやられる可能性も秘めていた。


だからこその細心の注意をゾルは払っていた。


全身を斬り刻まれたダヘリアンは息が上がっていた。


流石に全部は対応しきれていない。


ゾルは顔に突きを放つ。


ダヘリアンは本能で右に躱すが、顔に切り傷が刻まれた。


だが、ダヘリアンの目は死んでいない。


長い腕から振り下ろされた剣がゾルに襲いかかった。


マズイ、とゾルが感じた直後だった。


ズドン!!!! という壁面が壊れる衝撃音と共に、ダヘリアンの腕に矢が撃ち込まれた。


(なっ……!! 何処からだ……!?)


言わずもがな、ライドが櫓から放った一撃だったのだが、ダヘリアンの右腕は、完全に機能停止状態になっていた。


「……死にやがれ、ダヘリアン!!!」


ライドに命を拾われたゾルは、必殺の居合抜きでダヘリアンの首を掻き切った。


ダヘリアンは吐血して落馬した。


(ああ……畜生………ここまで、か……)


続けて走馬灯を見る。


(………そうか……私は……屍の目を……()()()()()()()のだな……漸く、わかったよ……)


徐々に薄れゆく意識、ダヘリアンは青空を見上げたまま、息絶えた。


ゾルも馬から降り、ダヘリアンの首を胴体から離した。


そして高々と掲げる。


「シンバラエキア帝国将軍ダヘリアン・シーファイを!!! 『ゲバラ』戦士、ゾルが討ち取ったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


高々と戦場に響き渡るゾルの咆哮。


ソールワン族達から歓声が上がった。


「嘘……だろ……ダヘリアン様が討ち取られるなんて……」


「あんなん勝てねえよ……お、俺たちだけでも逃げねえと……」


一方の生き遺ったダヘリアン軍は、完全に戦意喪失となった。


この雰囲気に乗じ、フィレアが進軍させる。


「よし、ここから掃討戦に入る!!! 絶対に誰一人として生かして家に帰すな!! いいな!?」


特大に高まった士気と指揮に、ソールワン族の凶暴性と残虐性のスイッチが完全に入った。


背を向けて逃げる敵兵に対し、ソールワン族とヨゾラは何も恐れることなく次々と兵士を死亡させていったのだった。


(フゥ………キリア……仇は討った……ぜ……)


ゾルは激闘に疲れたのか、壁に寄りかかって一休みしていた。


1時間半が経過した頃には、ダヘリアン軍の兵士達は全滅していたのだった。




 その頃、帝国の皇帝の間では。


「陛下、ダヘリアン将軍と連絡が取れませぬ。」


シンバラエキア将軍「ブリューナク」が皇帝に跪き、今起きていることを報告した。


「……そうか……ではまた何か分かり次第、余に報告せよ。」


「ハッ。」


ブリューナクは皇帝の元を去っていった。


(……ダヘリアンはおそらく死んだであろうな……だが幾らでも代わりはおる……まあ()()()()()()使()()()どんな相手でも安泰だからな……クックックッ………)


()()()()よもや()()()()()()()()()、などとは夢にも思っていない皇帝は、保身のための悪巧みを思案していたのだった。

皇帝が本格的に出てくるのは最終盤です。

帝都側も出した方がいいかなー、って思って書きました。

さて、次回からは「将軍暗殺編」に突入します。

ソールワン族という超強力な革命軍兵士を手に入れた「ゲバラ」なのですが、腐敗の温床を取り除くため、また再び戦力を削る戦いに身を投じることになります。

次回もまた、お楽しみにしていてください。

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