第十二話 英雄の宿命と怨恨
前回がまさかの好評だったので、もっと頑張らないといけない、という使命感がありますね。
トルメイアを訪れることになりますけど、ヨゾラの、ソールワン族に於ける現実がそこにあります。
トルメイアに到着したゲバラ一行は、寂れた街を見た。
民族衣装は身に纏ってはいても、店がある形跡が少なく、人々の顔も活気がなかった。
しかもどこか恐怖に怯えているかのような物々しさが満載。
一同は苦い顔になる。
「……話には聞いていたけど……ここまで酷いなんてね……」
ライドは呟いた。
ライドの言うことも尤もなことなのだが、それより酷いのは、ソールワン族のヨゾラに対する視線。
恐怖や怒り、憎しみなど、さまざまな感情が入り混じる。
キリアがヨゾラのことを「親友」だと呼んでいても信じては貰えないだろう。
そんな雰囲気を醸し出していた。
ヨゾラが苦い顔をしているのを見たゾルが声をかけた。
「……どうした、ヨゾラ。顔色が優れないが。」
「……ああ……すまない、ゾル。ソールワン族を見ると……昔を思い出して、な。」
ヨゾラが6年前の大戦で、「英雄」として崇め奉られる前、たった一人で切り込んでソールワン族を次々と斬り伏せていった。
築いた屍はおよそ3.5万。
6年経った今も、人々の脳裏に焼き付いているヨゾラの栄華、しかし一方で、生き残った先住民族、つまりソールワン族からは復讐の対象になっていたのだった。
実際ヨゾラと出会ったばかりのキリアがそうだったように。
と、ここで子供の方から石を投げられ、ヨゾラの頭に当たる。
「出てけ! ソールワンに蔓延る悪魔!!」
6年を遡って、ヨゾラを一族の仇と教育されているのだろうか、その子供は空虚な怒りを携えながらヨゾラに向かって何回も何回も小石を投げた。
ヨゾラは拳をグッと握りしめる。
これも宿命だと受け入れる他なかった。
シンバラエキアにとっては「英雄」であり、ソールワンにとっては「悪魔」。
両極端ではある、が、しかし、それがヨゾラに付き纏う現実なのだから。
「……ボス、この後どうするんです?」
カトレアがフィレアにこの後の予定を聞いた。
「入りたてはシンバラエキアからの流入者もそこまでいるわけじゃない。キリアが言うにはこの辺に酋長の家があったはずなんだが……」
と、ここで一行は、帝国当局に暴行を受けるソールワン族の女性を目撃した。
地面に倒されて、腹蹴りを何発も喰らっていた。
ここで騒ぎを起こせばまず間違いなく問題になってしまう、それだけは避けたかった。
相手は数人、ソールワン族を収容出来るような馬車の荷台もあった。
ジェノサイドの実態の一端を見たような気がした。
助けたい、が、下手に飛び込むわけにもいかなかった。
ゲバラ一行は建物の陰に隠れて様子を見る。
「チッ……こりゃあやべえぞ……アレで王宮の強制収容所まで持っていく気だろうな。」
ゾルは止めたくても止められないジレンマに悩む。
もし止めるにしても、数秒で終わらせなければいけない。
ゾルにそこまでの腕前はなかった。
どうするか……悩んでいると、ヨゾラが一歩前に出た。
任務の時の格好になって。
「私が行こう。」
そう言って、ヨゾラは刀を一本抜く。
「オイ、ヨゾラ!? 危ねえぞ!? いくらお前が強いって言っても……相手は当局だ、騒ぎになったら面倒だぞ!? 特にお前は領主だろ、仮にも!」
ライドは必死にヨゾラを止めようとするが、カトレアがライドの肩に手を置き、首を振った。
こうなればヨゾラは止まらない、ということをカトレアは誰よりも知っている。
ヨゾラも理由を説明する。
「サッと行ってサッと帰って来れば問題はない。それが出来るのは私だけだ。それに……」
フウッ、とマスク越しに息を吐くヨゾラ。
「私がソールワンにできる償いは……これだけじゃ収まり切らない、だからこそジェノサイドの原因を作った私が止める責務がある。今からやるのは、その償いの一端だ。」
そう言ってヨゾラは腰を低く構え、猛ダッシュで暴行現場に突進していった。
「さあて……この女、なかなか上玉だなあ……どうやって献上するか……」
下品な笑い声が聞こえてくる。
男は8人。
それが女性一人を痛ぶっている現場だった。
と、ここでヨゾラの一振りで男の首が一つ刎ねられた。
あまりの速さに呆然とする男たち。
持っていた武器を構えるが、準備が整わない時に構えてもヨゾラにとってはカモでしかない。
「痴れ者共が……死ね。」
一言吐いたと同時に、男たちの首が0コンマ何秒かのスピードで斬り伏せられ、刎ねられたのだった。
立て続けに馬の首と、馬車の屋根部分を斬り裂き、連行されかけていたソールワン族を、暴行を受けていた女性たちと共に助け出した。
ヨゾラは近くの建物へと避難していったのだった。
ゲバラ一行もその建物に入り、暴行を受けていた女性の手当てをしていた。
「……打ち身のようですね。おそらく相当殴られていたのではないかと。」
カトレアはそう言った。
なにしろ腹部の内出血が夥しかったからだ。
一方ヨゾラは、馬車馬を捌いて肉を取っていた。
馬車馬は鍛えられているので筋張って固いのだが、何も食えないよりはマシだ。
フィレアがヨゾラが怪我をした女性と共に連れてきていたソールワン族の人々に話を聞いており、彼らが口々に話したのは、ソールワン族をヨゾラが救ったことに驚いたことと、何もしていないにも関わらず、無茶苦茶な理屈で連行されていたとのことだった。
そしてもう一つ大事な事があるとのことで、
「……実は近頃、帝国の直下軍がここに来るって話だ。」
「……どの軍だ?」
「……ダヘリアンってやつの軍だ。異常者どもの集まりで有名な奴さ。それがここから奥にある駐屯所で合流し、我らを捕らえようとしているのさ。」
「……詳しい日時はわかるか? 私たちは帝国を滅ぼそうと企む革命組織だ、君たちの力になる。」
「……5日後だ。」
「分かった。そのことはみんなにも話しておく。それと……酋長の家は分かるか? キリアから手紙を預かっているんだ。」
「……1番大きな家が酋長の家だ。」
「オーケイ、分かった。ありがとう。」
フィレアはライドに手紙を託し、看病に回った。
馬刺しを堪能していたゲバラ一行と、助けたソールワンの面々。
と、ここで女性が起き上がってきた。
「この度はありがとうございました……私は『オリベラ』と申します。普段は雑貨屋で働いておりまして……」
オリベラと名乗った褐色肌に、柔らかい目と物腰が印象に残った。
が、オリベラはヨゾラを見た時に少し苦い顔になる。
そしてこんなことを聞いた。
「……貴女に助けられたのは事実です……ですが……かつてソールワンを殺していった貴女が何故……私たちの味方を……?」
ヨゾラはお茶を一飲みし、こう話す。
「仲間には言ったが、ソールワンに対してのせめてもの償いだ。……今の私はシンバラエキアに刃を向ける『裏切り者』。だからソールワン族のためにこの地に来た。」
淡々と話すヨゾラ、だが、オリベラはそんなことなどいざ知らずで、キョロキョロしていた。
「そういえば……キリアは……? 私の幼馴染なんです。」
「死んだよ、アイツは。」
「え………???」
ゾルが言い放った言葉に絶句するオリベラ、ゾルは続ける。
「昨日のことだが……連絡が一切取れてなくてな……俺たちもアジトである島から抜けて、今はヨゾラの領内に拠点を立ててる。アイツは殿の役目を買って出て……そこから連絡が何も入らねえ。どういう最期を迎えたかは知らねえが、別働隊で動いている仲間からの情報で改めて死んだという連絡が入った。」
「そんな……」
「アンタはオリベラ、っていったな? 今酋長のところに遺言があるが、アイツはお前らのことを凄く心配していた。だからその遺志を継いでここまで来た。俺たちはシンバラエキア人だが……お前たちの味方だ、安心してくれ。」
これを聞いたオリベラの目から涙が溢れ出てきた。
幼馴染の死を受け入れきれないのは明白なのだろう、が、ライドがフォローに入る。
「仕方ないよ……アイツが決めたことだから。」
ここで、空気を読んだかは定かではないが、フィレアが帰還してきた。
「全員揃ってるか? 朗報がある!」
全員、フィレアを見る。
「酋長と協定を結ぶ事が出来た。手紙を読んでくれて、ヨゾラのことを水に流すって話と……もう一つ作戦がある!」
固唾を飲む、ここにいる全員、そしてフィレアから発表する。
「軍の駐屯所を潰すぞ! そしてノコノコと入ってきたダヘリアンの部隊を……全員で一網打尽にする!!」
そしてこのことが、より防衛戦を激化させることとなっていくのだった。
ヨゾラ、受け入れられし。
次回は襲撃です。




