第十一話 遺志を継いで
新章開幕です。
ソールワン族をジェノサイドから守るため、ゲバラが動き出します。
ちなみにエディアからはそう遠くはないです、ソールワン族の住んでいる地域というのは。
サフィルバ島襲撃の夜。
島を脱出したフィレア、ゾル、ライドの3人は、ヨゾラのいるエディアに向かって潜水艦を潜航させていた。
軽量設計の上、最新鋭のリチウム電池を備えているこの潜水艦。
高速潜航を可能とし、また音もないので相手も深く潜っていなければバレることはそうそう無かった。
3人は神妙な面持ちをしていた。
「ボス……キリアは無事、なんですかね……」
「だといいがな……もし連絡が来なかった時のために……アイツから遺書は預かっている。その時に今後を決めよう。」
「……ですね、アイツの安否を確認する上でも……」
3人はただ、キリアの無事を祈っていた、が、もうその時にはキリアは惨たらしい最期を迎えていたのだった……
一方、ヨゾラとカトレアはというと。
ゲバラの潜水艦を迎え入れるために準備を整えていた。
ヨゾラは領主として、シンバラエキアの兵士と応対している間に、カトレアがそのチャンスを活かして地下にある船着場まで降りていったのだった。
「ヨゾラ殿、お疲れ様です。」
港を見張っている兵士が通りかかったヨゾラに挨拶をする。
「ああ、お疲れ様。そちらはどうだ? 異変とかはないか?」
ヨゾラはポーカーフェイスを保ちながら兵士に状況を確認する。
「特に異常はございません。しかし、万が一があります故、夜分は見張りをさせていただきます。」
「ありがとう。……シンバラエキアに栄光あれ。」
ヨゾラはそう言って立ち去っていったのだった。
幾らシンバラエキアの兵士とはいえ、斬れば自らが反逆者の疑いを掛けられる可能性を示唆し、ヨゾラは短刀以外、何も所持しなかった。
口封じを試みたいが、そういうわけにはいかなかった。
カトレアはヨゾラにメールで連絡する。
【そっちはどうだ、カトレア】
[問題ございません。予定通りゲバラの方々をお迎えに上がれます]
ヨゾラは安堵し、屋敷へと戻って3人が到着するまで待つ事にした。
そこから3時間後。
潜水艦がコンビナートに到着したようだ。
引き揚げ体制に入ることができる。
カトレアは機械を操作し、潜水艦を揚げた。
まるでエレベーターが高速で上昇するように地上、もとい潜水艦専用の港まで引き揚がった。
3人が出てくる。
カトレアはお辞儀をして出迎えた。
「お待ちしておりました……ゲバラの方々。……私はヨゾラ様専属の秘書『カトレア』と申します。以後お見知り置きを。」
「悪いな、カトレア。私はゲバラのボス、フィレアだ。早速で悪いが……避難先まで案内してくれ。今はとにかく休息がいる。」
「かしこまりました。では、こちらへどうぞ。」
カトレアは3人を、今後の新アジトとなる納屋へと案内して、3人は休息を取ったのだった。
バミューダは合流不可なので、ヨゾラは兵士を帰した後にゲバラの面々と合流した。
ヨゾラはキリアから連絡がないことを知った。
「……そうか……キリアは……」
ゾルも険しい顔になった。
「……仕方ねえ、アイツが選んだ道なんだ。だが……」
ライドも気落ちしている。
「……キリアが死んだことで……ソールワンが更にやべえ事になる……全員で逃げるべきだったんだろうけど……」
フィレアは悲しむ素振りは見せず、部下に声をかけた。
「キリアを失った辛さも分かる、だが革命の蜂起前に犠牲は付き物だ。今は悲しみに塗れるより、次の私たちの行動を考えないとな。……カトレアもウチに入ったんだ、頭を使う意味では彼女は大いに役に立つ。」
カトレアは頭をペコっと下げる。
フィレアはキリアから預かっていた遺書を取り出した。
「……読んでみるか。万が一自分に何かあった時に、って渡してた奴を。」
手紙を開いてみると、感謝の言葉が綴られていた。
《親愛なる「ゲバラ」のみんなへ
これを開いて見ているということは、私は既にこの世にはいないでしょう。
今思えば、私一人では流石に無謀な試みだったとは思いますが、一人でも多く革命戦士を残したいという意味を込めて殿を務めさせていただきました。
私がソールワンだと判ってしまった以上、「革命を計画していた」という理由で、我が同胞への不法な取り締まりがより一層、強化されるでしょう。
これは私の責任であります。
ですが本音は同胞を守りたい、シンバラエキアに革命を起こしたい、という思いは変わりません。
それはみんなに、特にヨゾラに私の想いを託します。
ゲバラに入った時は、ヨゾラを殺さなければ何も始まらない、ヨゾラは革命を起こす上で大きな障害だと思っておりましたし、ヨゾラが入ってきた当初は疑いの目しかありませんでした。
でも先日の任務を共にこなしていくうちに、ヨゾラの人の良さ、そして、シンバラエキアに一泡吹かせてやりたいという想いが熱く伝わってきました。
だから言えることは、私の一番の友達はヨゾラです。
ヨゾラがいることがどれだけ心強いか、みんな分かってると思います。
ですから……革命が達成されることを、冥府から見ています。
絶対に成し遂げてください。
キリア》
「……私のことを親友、か……アイツはそんな風に思っていたんだな……」
ヨゾラは手紙の内容を読み終えた後、涙を一雫流し、椅子にもたれかかった。
ゾルもライドも、同じ気持ちだった。
フィレアはしばらく間を置いて、手を叩いた。
「よし、悲しみに明け暮れるのもそこまでだ。今はどうするか、を考えよう。……キリアの遺志を継ぐか、それともソールワンを見捨ててでも、革命の準備を進めるか。前者はソールワンを守ること、後者は革命戦線に参加できそうな人材を集めることだ。……どちらで行く?」
と、早速カトレアが手を挙げた。
「カトレア……君の意見を聞こう。ウチの軍師に折角なったんだ、君の采配を聞かせてもらおうか。」
「……私はソールワンを守ることがいいかと。」
「ほぉう……どういった意味だ。」
「キリア殿の遺志を継ぐ云々に……ソールワンの力は侮れません。ヨゾラ様の強さが異常なだけです。本来ソールワンは心優しき民族です。ですので6年前のあの時のように、焚き付ける何かがあれば、いわば大義名分さえあれば……彼らは一致団結し、私たちの味方になるのでは、と推測しています。今、私たちに必要なのは『兵力』です。皆様はヨゾラ様と同じくらいに強いのでしょうが、それだけではどうしても策を立てようにも限界があります。だからこそ『ソールワンと共に戦う』という意志を示すことが、私たちゲバラが帝国に対するメッセージを送ることもできます。」
賛成の色一色かと思いきや、ゾルだけは反対した。
「俺は……あまり賛同はできねえな。理屈は分かるが、相手を俺たちは敵をあまりにも知らなさすぎる。無理にソールワンを守ったとしても、キリアの二の舞になりかねない。やるんならそれ相応の準備をしねえと、俺は行くことがない。」
と、ここでヨゾラがゾルに口を挟む。
「そこは問題ないんじゃないか? ウチにはバミューダがいるだろ。革命戦線志願者はソールワンを脅威から守った後でもいつでも出来るし、誰があそこに来るかなんてことはバミューダで横流しできるから、メリットの方が大きいぞ?」
ヨゾラの説得に、ゾルの心はアッサリ折れた。
「……まあ、確かにな。バミューダ頼りになっちまうのは癪だが、防衛戦のようで情報戦だ、今の帝国の軍情勢もバミューダさえいたら問題はないか。」
フィレアはニヤッと笑い、指示を出した。
「バミューダには後で共有してもらうとして、私たちは『トルメイア』へ征く!! そしてそこでソールワンを仲間に引き入れる、いいな!?」
全員頷く。
そしてゲバラ一行はエディアから東へ8キロほどあるソールワン族が住む地域「トルメイア」へ進行していったのだった。
熾烈を極めるのはここからですね。
僕もここからペースアップしていこうと思うんで、次回もまた、よろしくお願いします。




