白夢ノ世界デ創リシ化身-1
本日二話目です。
この話から吹雪、もとい、ニーヴィスの一人称となります。
「うわぁ……凄い」
等間隔に並ぶ、磨き上げられ透き通った水晶の柱。
光を柔らかく反射し、鏡のように自分の姿を写し出す純白の床。
細い水路が両脇に流れ、薄紅色の花弁がゆらゆらと浮かんでいます。
深紅の絨毯。その先には、祭壇が設けられていました。
神々しさに満ち溢れた空気が肺に入って来る。
私──白桐 吹雪は今、そんな神秘的なギリシャの文明を彷彿とさせる空間にいました。
パルテノン神殿を甦らせたならば、こんな風になるのでしょうか。
それに影響されたかのような跡は見受けられますが、やはり魔法世界。
現実には存在しない花、鑑定すればいくらになるかも知れない水晶。
それよりも、何とも形容し難いこの空気が全てを物語っています。
不必要に発言するのも憚られるようなこの気持ち。
幻想的な建造物に圧倒された、というものだけでは説明し切れないような。
「………ちゃんと、触れる」
右手でリアルでも着ていた服の袖に触れながらそう呟く。
少し体を動かせば衣擦れの音、感触。
反響して吸い込まれるかのように消えゆく声。
技術の進歩は凄い、と素直に称賛できます。
従来のVRより段違いに成長した視覚、聴覚の素晴らしさ。
更に、今まで現実的ではないとまで嘯かれていた嗅覚、味覚、触覚の体験。
まるで、本当の異世界に入り込んでしまったかのような感覚に感動します。
舞い上がってしまってソワソワし、落ち着けない中、私に語りかける存在が。
『こんにちは。救世主様』
「⁉︎」
静寂の神殿に突然聞こえた声。
いえ、神殿にではありません。脳内に直接囁かれたその声。
慈愛に満ち溢れた……母性と称せる属性を持つ女性の声が響いて来ました。
そして、目に優しい白い光と共に、現れる一人の美女。
綺麗なスタイルをしており、お姉さんというような年齢に見えます。
「驚かせてしまってすみませんね。私はこの世界の神をしている、ルナリアと申します」
長い伸ばした金髪に少し桃色がかった金色の眼。
白色に金色の糸で刺繍が施された、神官服にも似た意匠の服を着ています。
その女性は、一礼して誰でも魅了してしましそうな微笑を浮かべ、そう名乗りました。
ルナリア、このゲームの世界『ガイア』の世界神の名です。
唯一神である彼女のことを、住民の人々も崇め奉っています。
マスコットキャラクターのような姿形をした管理AIではなく、彼女が私達プレイヤーのキャラメイキング及びチュートリアルを担当してくれるのです。
彼女はNPC。でも、この世界が架空の世界であることを知らないのだそう。
つまり、ゲーム用語等は地雷を踏み抜く行為に等しい。
世界神がゲームであることを理解していないのですから、このゲームのその他のNPCがそのことを知らないのも当たり前。
とある人々の好感度を犠牲にした検証では、NPCにとって禁句に当たる部分に不快なノイズが入るそうです。
黒板を引っ掻いた時の、嫌悪感を抱く音のような。
一回口にした時点で、忌避されることは確定です。
好感度の改善には途方も無い時間と労力がかかるのだとか。
それに加えて神様のことは以後、様付けで呼ぶように致します。
当然、神様ですから力の差は図り知れない。
この神様は体型等も相まってファンも大量に獲得しているそう。本人は知らないそうですが。いや、流石に気付いていますかね……?
二次創作としてそういう方面とかに……。有名になった女性の宿命です。察して。
「こんにちは、白桐 吹雪と言います。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。さて、吹雪様、こちらの世界『ガイア』に行く準備を始める前に、いくつか説明をさせて頂きます」
こちらも笑顔を貼り付け、自己紹介を返しておきます。
ここで変に反発しても何も良いことはありません。
ある意味、社会の縮図でもありますからね。初対面の人には愛想良く。
んー説明ですか? 一応聞きましょうか。
「この世界は、救世主様達の世界ととても酷似した世界です。大きな違いは魔法が存在するという点。ここ数百年は平和な日々が続いていましたが、ある日上位の管理者様より命令が下ったのです」
管理者、つまりは運営ですね。はい続き続きー。
「『この世界に悪しき侵略者が訪れる。あなた達は異世界から訪れる救世主達と協力して、世界を災厄から守りなさい』と」
NPC側のストーリーはこんな風になっている、ということですか。
プレイヤーに巻き込まれたこちらの住民の方々にも辻褄合わせは必要ですしね。
というか、全ての元凶はその管理者だと思いますよ?
ほら、灯台下暗しと言いますし。ちょっと違いますか。
「あなた達救世主は無限の可能性を持ち、死という概念がありません。その、あなた達の力を、どうか、私達に貸して欲しいのです!」
この神様のお願いに何人陥落したんだろうなー。断れる人がいるのでしょうか。
それはさておき、了承しないと先には進めません。
ここで逆に救世主という立場を振り翳して、色々せがんだ下賤なプレイヤーもいたようですが、世界神様はにっこり笑って死刑宣告。スキルゼロ、開始時種族人族固定、世界神への叛逆という不名誉な称号を賜り強制堕天。いや、そもそも堕ちてますか。そのプレイヤーがどうなったかは神のみぞ知る。
元よりできるだけストーリーに従って行動するつもりだったので、何ら問題はありません。
「はい。元からそのつもりでした」
「うぅ……本当にありがとうございます……救世主様方は優しい人ばかりで嬉しいです……」
どこからか手巾を取り出し、目元を押さえるルナリア様。
情に訴えかける力が凄いですね。
勘が良い人なら思い付くと思いますが、ルナリア様を含むNPCは、私達プレイヤーのことを戦力と思っていないのでしょう。
味方してくれるなら様子見、敵対するなら潰すかのどちらかでしょう。
見え透いた演技はその警告とも取れる。
優しい人ばかり、ねぇ……。
先程挙げた例の他にも、不興を買って相当不利な条件でゲームスタートとなった不名誉な先駆者が沢山います。引退に追い込まれるレベルの容赦の無さで。こんなに容易に切り捨てるからこそ、その推察には簡単に辿り着ける。
元々、この世界の住民でこの超常現象に立ち向かうつもりだったのでしょう。
そこに私達というイレギュラーがやって来た。
益にも害にもなるやも知れない存在が。
救世主はあなた達の助けになる、とでも吹き込まれたのでしょう。訝しんでも、上司とも言える管理者からの命令だから断れない。
更に救世主達に都合良くなるように、管理者に世界を好き勝手に弄られる。そもそもNPCは運営が創り出したものなので、その記憶があるのかどうかは知りませんが。
私がこの世界の住民の立場だったら当然面白くない。面白くないどころか恨んでもおかしくない。
ただでさえ逼迫した状況なのに、とんだサプライズプレゼント、いくつ弾が入っているかも分からないロシアンルーレットを強要される。
それで出て来た不可思議な奴らと心中しろなんて、御免でしょう。
ルナリア様は、ここで少しでもその選別をしているに他ならない。
自分達に悪影響を及ぼすか及ぼさないか。
非常識人の切り捨てくらいの権限は貰っているのでしょうね。
この世界の基本的なルールは彼女達の手の中にある。
自分達に都合良く作られた既存のRPGとは違うことを理解していない人も多いみたいですしね。
私も……彼女達に感情移入してしまう時が来るのでしょうか。
「では、早速『ガイア』で使うことになる化身を作っていきましょうか」
ルナリア様がサッと向き直り、笑顔を浮かべる。
私もそれに応じ、軽く悲観的になっていた思考を再び引き戻す。
さてさて、一番楽しみな時間の始まりですね‼︎
化身、つまりはアバター作成のお時間ですよ。
「初めに、化身の名前は《ニーヴィス》でよろしかったでしょうか」
「はい。大丈夫です」
プレイヤーネームはこれ一択。全てのゲームで共通のアカウントができた為、その際にIDと一緒に、自分だけの名前を決められるようになりました。登録時に既に他の人が使用済みの名前は使えません。ゲームによっては生体認証もあり、そのおかげでトラブルが激減しました。
「以後、ニーヴィス様とお呼びしますね。次に、化身の姿です」
ルナリア様がそう言うと、リアルそっくりの私の体が現れました。
下着姿で眼球は真っ白。肌色の身体の色は保たれていますが、当に、魂の宿っていない人形と言って良いでしょう。
「これはニーヴィス様の向こうの世界での姿です。自分がどのように変更したいと念じれば、その通りに化身の姿を弄ることができます。参考体型に加え、髪や瞳の色、髪型なども勿論変更可能です。変更点が多過ぎると身体の動かし方に手間取るかと思われますが、救世主様達は本来の世界では他人だと聞きます。全く変更しないというのも良くないでしょう。尚、完全に決定して、一度でも魂を定着させると変更はできないので注意して下さい」
念じるだけで変更される。技術の進歩は凄いですね。アイデアがどれだけ抽象的で、自信がなくとも作ることができるのですから。因みに、昔ながらの手法でパーツごとに色彩などを変更することも可能です。
このゲームではアバターの性別を変えることは出来ません。性同一性障害の方のような例外の方はおられますが。
これは、一時期姫プレイをするネカマ、つまり、男が女のアバターを使って男を侍らせ貢がせる、という社会現象のような事件が起こった影響です。男が女の身体となるのですから、犯罪利用が多発したというゲームもあります。そんなこともあり、身体がリアルに再現される殆どのフルダイブ型VRゲームでのアバターは性別変更は不可となったのです。
これが発表された時はかなり炎上しましたがね。
それらについて解禁している所もありますし、まあ、詰まる所、性転換は不可能となっただけです。そもそも排泄行為もないので……後は察して下さい。
それの対策にしても、ゲーム内での個人情報の所に性別の記載は義務となりましたが。
これらを鑑みても、フルダイブ型VRゲームでのアバターをガラッと変えるのは推奨されません。
特に身長、胸囲、体重。動かし方が最初は物凄く不自然になります。
懲罰の調整が入っているのではないかと勘繰るレベルで。
練習すれば大丈夫なのでしょうけど、現実世界の身体との乖離がそれ以上の人外種族でも、そこそこ動かせるんですよ。
要するに、身の丈に合ったアバターを作りなさい、ということでしょう。
過ぎた欲は身を滅ぼします。
ここの運営はかなり厳しいので、上記したもの以外に懲罰がある可能性もありますしね。
あ、因みに身長や体重等は現実で成長した際に、こちらに適度に反映されるようです。
勿論、現実とアバターの誤差が少なければ、ですが。
うーん……。私はそれを弄りながら少し悩みましたが、ルナリア様に話しかけます。
「……アカウントに入れてるアバター……、異世界?の化身を使うこともできるのですよね」
「はい、可能です。その辺りの保障は管理者様より承っております」
私の頭に思い浮かんだのは、かなり細かいアバターを作成できる有料のコンテンツで、対応している全てのゲームのアバターに反映することができる神機能の存在。
これを使ってVの者みたいにして配信している人もいたりします。
せっかくですから、私としても有名なあの姿で……。
「ニーヴィス様が言っていたのは、こちらで間違い無いでしょうか?」
「わ! ありがとうございます!」
変更されて出て来たのは、背まで垂らした白髪に青と紫のメッシュが入った少女の姿。
髪はメッシュと同じ青と紫のオッドアイに、白磁の肌に華奢で細い腕。
私が《白雪姫》と呼ばれるきっかけとなった姿が現れました。
因みに顔は完全リアル準拠。逆に何でリアルでバレないの?と言いたくなる。
休日はずっとゲームをしている引きこもりで、人通りの多い所に行くことが殆ど無い、というのもあるとは思うんですが。
学校では幾人か気付いていそうで怖い。まあ、実際、私のがゲーム廃人ということを知る友人達には看破された訳ですがね。
「では、化身の種族を決めて行きたいと思います」
ルナリア様がそう言うと、目の前に半透明な板が出現しました。
お品書きのように色々名前が書いてありますね。
「選べるのは、人族、森霊族、土妖精族、獣人族、天使族、魔族、人魚族、海人族、エキセトラ……種類は膨大にあります。そして、それぞれの救世主様にあった種族が選出されるランダムもありますよ」
ここでお馴染みの種族から選ぶ人いるのですかねぇ……。
浮かぶ板の名前をタップすると、その種族の人の姿が映し出され、初期ステータスが表示されます。
それらを流し読みしてどんどん横にスワイプしていく。
これだけでも心躍るラインナップなのでしょうけど、人は『特別』と言う言葉に惹かれるもの。
『自分限定の種族』というのも気になるでしょう?
ということで私はランダムです!
ランダムの欄を押すと、変更はできないとの旨の注意が。
特になにも考えず、次へ進む。
「では、私の方からニーヴィス様へといくつかの質問をさせて頂きます。複数回答もありで、答えたく無い質問は無回答でも構いません。そして、管理者様より救世主様の世界の情報を受け取っているので、ある程度は理解できます」
「はい、大丈夫です」
質問の返答によって種族が変わる仕組みですか。
クローズドクエスチョンではなくオープンクエスチョンなら、確かにそれぞれに合った種族というのも頷けます。
さてと、始めましょうか。
「では、最初の質問です。好きな食べ物は何ですか?」
………あ、どう考えても時間泥棒なやり取りです。本当にありがとうございました。
◇ ・・-・ ・・-- --・・ -・--・ -- ◇
「趣味は何ですか?」
「うーん……遊戯ですかね……」
「好きな色は何ですか?」
「白、水色、紫、黒ですね」
「恋人はいますか?」
「いません。作る気もありません!」
………今、何問目でしたっけ?
くだらない質問かと思いきや、哲学的なガチの質問も。
それでも必死に答えを絞り出し、根気強く答え続けていきます。
これ、全員質問の内容は僅かに違うようですよ。
余程酷い答えを出さない限り、種族が被ったという人も殆どいません。
次々と問答を消化していくと、ルナリア様が何かに気付いたかのようにチラと余所見をし、一瞬困惑を交えたかのような表情を取る。
「どうかしました?」
「あ、いえ。すみません。質問を再開しますね」
「大丈夫です」
「では───」
「────あなたは、自分が好きですか?」
その質問をされたとき、私の心の温度が一気に冷めた。
自分の本質について問い掛けられ、目からハイライトが消える。
ルナリア様が気付いたような顔をしていますが、
「答えなくても良いで………」
「───────ええ。嫌いです」
そう、はっきりと言う。そして溢れ出て来る、友人にも話していない自分の姿を話し続ける。
「殻に籠り、偽物の自分を演じ続け、笑顔をいつまで続ければ良いのか分からない。それに私は、他人の好意を感じ取れない」
「⁉︎」
その告白に、ルナリア様の息を呑んでいる。
あんな風に学校でもちやほやされているが、全く持って私はその向けられてる気持ちが分からない。感受性に乏しいって言うのかな。厳密に言えば、好意、やそれにに近い感情が分からない。その他の感情も機微が小さい。
友人の言葉も同様。前よりはその気持ちを感じられるようになったけど、演技じゃない表情に表れるにはまだ遠い。表情筋が何回攣りそうになったことか。
でもやっぱり、私の口は止まらない。
心の中で燻り続けてきた葛藤を誰にも吐露することなく押し込めてきたことの弊害。
吐き出した言葉は、濁流のように留まることを知らず慟哭を示す。
「あのことがあってから親に裏切られたと思って、愛情とかそういうのが分からなくなりました。友人さえも誰も彼も。とりあえず何かしら返すけど、何も感じない。私の本当の姿は、無感情な人形なんです」
静寂が訪れ、誰も話さなくなった。ルナリア様も顔を歪ませている。
そうか。
そうだよね。
こんな話聞かされても困るよね。
そんなことを思っていると、突然温かい感触がした。
「大丈夫です。そんなもの感じ取れなくたって、ちゃんと本当のあなたを必要としている人がいるんです。それは分かるのでしょう?」
「ルナリア様………」
その温もりの正体はルナリア様の抱擁だった。その言葉に私は頷く。
「いつか、その人達があなたの心の氷を溶かしてくれる筈です。その時まで、待っていましょう」
「はい………」
5歳の時に最後に会った母親の姿を、私は教え諭すように話しかけてくれたルナリア様に重ねていた。
◇ ---- -・- --- -・ --・-- ・-◇
そんなしんみりとした時間も過ぎ、落ち着いた頃にキャラメイキングを再開した。
勿論謝りましたよ?はい。
「……!……ニーヴィス様の種族は次のようになりました」
何故か、ルナリア様が喜んでいそうな顔している。
さっきの浮遊盤くんがまた現れた。えーっと、何々……?
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種族 闇と氷の混沌精霊
属性 闇 氷
弱点 光 火
神に直接仕えていると言われる上級精霊。
精霊はかなり珍しいので、人間に見つかると色々厄介。
氷と闇を操ることに長けている。敏捷と魔力、知力、精神は高いが頑丈、体力が低い。
普通の精霊は一つの属性しか持たないため、二属性以上保有する精霊は混沌と呼ばれる。
ありえない存在。普通の精霊と大きく違う。
種族スキル
【闇魔法 Lv.1】【氷魔法 Lv.1】【浮遊 Lv.1】
【精神生命体・混沌】【闇の精霊の力・混沌】【氷の精霊の力・混沌】
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………これ、名前からしてヤバい気がするんだけど。
加筆:2021/02/01
改稿:2021/03/20 途中で加筆を中断したので不自然な点がございます。
ちょっと設定詰め込み過ぎたかなと気にしていたり。
因みに吹雪はつい本名を言ってしまっていますが、言う必要はありません。
下の文のきちんとしたテンプレも作りたいですね。
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