幽寂ノ徹宵、逢魔時-1
「ありがとうございました、ルナリア様」
私をずっと抱きしめてくださったルナリア様に対してはにかみながらお礼を言います。普段とは違い、優しい抱擁でした。オフェリア様も、微笑ましそうな顔をしてこちらを見てきます。
幸せというのはこのような感情を言うのでしょう。今、私はそれが愛おしくて愛おしくて堪りません。家庭のような暖かい空間を久しぶりに体感しました。
「ふふふ。なんなら本当の家族になっても───(いや、この話はやめておきましょう……)ごめんなさい。やっぱり何でもない」
嬉しそうな顔をしてそう言いましたが、私にも聞こえないレベルの声で思案げな顔をしてそう呟き、発言を取り消しました。
私はそれでもいいかな、と最近思ったりしているのですがね……。
そんなことを考えていると、頭の中に鳴り響く通知音。………アラームですか。《WMO》を始める前にかけておいたものです。家事やら何やら残っていますのでね。……これでも独り身なんですよ。
「すみません、ルナリア様、オフェリア様。そろそろ戻らなくてはいけない時間なので失礼しますね」
「あら?もうそんな時間なの?」
「もう戻るのじゃな……」
二人とも名残惜しそうに見てきます。とはいえ明日は朝からログインする予定なので、ゲーム内時間一日あるか無いかくらいだと思いますよ?私はショートスリーパーですし。伊達にゲーマーやってないです。
「恐らく……明日には来ることになると思います。さようならー!」
「そうなの?じゃあ、また明日ねー!」
「また明日じゃぞ」
浮遊盤君を呼び出し、ログアウト。神と超人との緩い挨拶を終えると私の視界は暗転しました。
◇ --・・ ・・--・ --- --・ -・・-- -・・・・- ・・-・・ ・・◇
「はあ………」
《SOMNIUM》を頭から外し、深いため息を吐く。
自分があんな顔をすることを予想していなかったから。
そして、あのゲームがサービス終了とならないことを切実に祈りたくなりました。
「あ、そうだ……チャット……」
電気が点いていない真っ暗な部屋でスマートフォンを取り出し、チャットのアプリを開く。
こんな時間帯なのに、普通に会話が続いています。
え、皆いつ寝てるの?私も人のこと言えないけど。
『吹雪:やっほ〜』
『紫乃:あ、吹雪来た』
『奏恵:やっほ〜』
『千弦:お疲れ。《WMO》してたんでしょ?目撃情報があったよ』
『結伊:こんばんわ〜』
『爽香:ん』
『吹雪:え、あの短時間で見つかってたの⁉︎』
『千弦:吹雪を本気で勧誘したい所は大きな街には人置いてるよ』
『爽香:私達も勧誘が来た』
『結伊:私達も吹雪ちゃんほどじゃないけどアマチュアでは有名ですからね』
あの買い物RTAの時にも見られてたんですか……かかった時間二十分くらいじゃなかったですかね?ストーカー怖い。ぶるぶる。
皆も勧誘届いているんだ。入る予定はないのかな?
あ、紫乃に先に打たれた。
『紫乃:吹雪の所にも勧誘届いていそうだけど、どこか入る予定はあるの?』
『結伊:私は《COSMOS》に誘われたわよ』
『爽香:私は《HERO SWORD》』
『吹雪:うわぁ……皆上位勢だね……。私は……今《Valkryies》の入団試験みたいなのやってる途中かな……?さっきリアルでカムイさんと会った』
『結伊:は⁉︎』
『紫乃:嘘でしょ⁉︎』
『爽香:え……?』
『千弦:⁉︎』
『奏恵:え⁉︎』
『吹雪:いやぁ、ね?何故か私が《Valkryies》に入りたがっていることお見通しだったんだよね。個人情報も何もかも』
『紫乃:ちょっと待って何それ怖い』
『爽香:起訴する?』
『結伊:爽香それ色々すっ飛ばしてる』
『千弦:因みに入団試験の内容は?』
『吹雪:《WMO》で《血月の使徒》と戦って存在感をアピールする!以上!』
『紫乃:なんか……簡単のような鬼畜のような……』
『爽香:もう《Valkryies》=《血月の使徒》って認めた』
『千弦:あ、本当だ』
『奏恵:つまり普通にプレイすればいいのかなー?』
『吹雪:多分それでいいと思うよ』
『結伊:え……で、何故?リアルでカムイと?』
『奏恵:一番それが気になるー!』
『吹雪:いや……ね?直感だよ』
『紫乃:えぇ……』
『爽香:本当に何なの、その感の良さは』
『結伊:配信見たけど、スキルよりも早く反応していない?っていう所もあったからね〜』
『千弦:吹雪は直感が働くだけでなく頭が回るから、敵にすると厄介なのよねぇ……』
『吹雪:話がちょっと逸れたけど、皆はそのチームに入る予定はあるの?』
『結伊:私は所謂仮入団とかそういうのをするかもしれないわね〜《WMO》でのクランに試しに入って』
『爽香:そうしてから決めるのも良いと思う』
『紫乃:私はゲームを作成する側になりたいって思ってるからね。入ってから後で抜けるかも』
『千弦:私達はまだ決めてないよ。家のこともあるし』
『奏恵:皆人生設計立てれていて偉いなー』
へぇ。まあでも、プロゲーマーになっても埋もれてしまったら殆ど意味が無いですからね。
一昔前ならそれでもスポンサーからの十分な収入があったのですが、現在では一つのプロゲーマーのチームの所属人数がおかしいことになっているので、スカウトだけしておいて見込みが無かったら捨てられる、みたいなことも多いようです。
私も有名所に入っても恐らく大丈夫だろうと思ったのですが、例のチームに直感が働き、勧誘を受けるかどうか最後まで迷っていたのと、まあ、色々と事情がありましてね……。
《Valkryies》はこの質より量というご時世に珍しい少数精鋭のチームであり、スポンサーの企業が《Eyesley》という、世界トップと言っても過言ではないインターネット関係の企業ということもあり、ここを目指しています。何より、方針が自由っぽい所が魅力。
待って、私の思考回路って意外とあの人達に近い……?いや、大丈夫。普段の《Valkryies》のメンバーはまともみたいだから。逆にRPであそこまでできるってさぁ……。私のホラー耐性は高い方だと思って動画見たけど、あれはグロい。R15指定も生温いレベルで。あれと戦うという事実だけで本当に萎える。ぶっちゃけ、普通の大会に急に参加して優勝かっさらっていく、ということをする人達がまともかと聞かれれば、私も首を縦に振れるか分かりません。
これだと明日集まった時が大変かもしれませんね。街のど真ん中に、色んな所から引っ張りだこのこのメンバーが行くなんて、カモがネギ背負って行くような物。要相談です。
『吹雪:これさ、集合場所ちょっと考え直した方が良いんじゃない?』
『紫乃:一応皆カーメルには着いたみたいだよ』
『千弦:あー……そうかもね』
『爽香:隠密系スキル使っても、看破系スキルで徹底的に捜索してるからすぐ見つかる』
あー………ちょっと待って、良い案思いついたかも。
『吹雪:これさ全員ギリギリまで別の街に居て、集合時間ぴったりにカーメルに転移すれば?その後は私のホームに即転移』
『奏恵:え?ホーム持ってるの?』
『結伊:所々え?ってなったんだけど』
『吹雪:えーとね、私が何やかんやあって神の使徒になった後に、上……神界にプライベートスペース……ん?あれがプライベート?まあ良いや。を貰ったんだけど、そこが色々機能がぶっ壊れたホーム扱いだったんだよね……』
『千弦:き、機能って、た、例えば?』
『吹雪:ホームにいなくても使える噴水の完全上位互換の転移能力に、ホームの形や広さを変えたり家具を自由に出せる能力。アハハ。ぶっ壊れてるよ』
『爽香:どこかに知られたら嫉妬で殺されそうなホーム』
『紫乃:それが私達も入れるのなら、それで良いかも……』
『吹雪:入れるよー……あーでも、ルナリア様が入って来そう』
『千弦:《WMO》の世界神が⁉︎』
『紫乃:恐縮しそう』
『吹雪:………めっちゃ駄女神だよ?』
『結伊:ん?』
『爽香:?』
『紫乃:ほ、本当に?』
『吹雪:一瞬化けの皮が剥がれたら、もう、ね?』
『千弦:えぇ……?』
『奏恵:嘘でしょ?』
『吹雪:残念ながら、事実です』
いやー、私もルナリア様の第一印象は、THE・女神みたいな感じだったんだけど、暴走してから……ね?いや、でも最近のラノベではあんな感じの女神が増えていた気がする……。
というか、ちゃんと他の人の前では猫被っているのね。ルナリア様。
『紫乃:じゃあ、そんな感じで……集合時間はどうする?』
『千弦:リアル九時のゲーム内二日目正午で良いんじゃない?休日のその頃は皆ゲームしてるし』
『結伊:いいよ〜』
『紫乃:おk』
『爽香:異議なし』
『吹雪:了解!』
『奏恵:私も〜』
えーと、ただいま日付も変わって土曜の午前二時。
さてと、何時間寝れますかね?
まあ、睡眠時間としては三時間寝ることができれば充分でしょう。便利な身体。
それに、オフェリア様に頼んだ防具は完成しますかねぇ……。流石にこの短時間では無理でしょうか。
『千弦:そういえば、明日集まってから何するか決めていないわよね?』
『吹雪:あー、失念してた……』
『紫乃:吹雪と合流することばかり考えてたからね!』
『奏恵:どうするのー?』
『千弦:そのことなんだけどね……あからさまに怪しい依頼を見つけたというか……』
『奏恵:あ、もしかしてあれ?』
『千弦:そうそう。今日奏恵と見つけたやつね』
『紫乃:何それ気になる』
ん?何それ。詳しく教えて。
『千弦:カーメルの冒険者ギルドで見つけたんだけど「依頼者:不明」なんだよね。そして、受付の人に聞いてもそんな依頼知らないって言うし』
『爽香:うわぁ』
『結伊:不気味ね……』
『紫乃:ネットでも、そろそろブラッティクエスト来るんじゃないかって騒がれてるもんね……絶対それでしょ』
『吹雪:良くも悪くもあの人達、読むべき所は空気読むらしいからね』
《血月の使徒》……もう《Valkryies》で良いかな。彼女達はすることは容赦無いけど、空気は読むべき所は読むそう。まあ、一発逆転的な勇者のパワーアップもそのシーンは待ってあげるけど、終わって台詞を一通り言ったら、即殺すっていう理不尽な空気読みなんだけど。
そんな習性もあって、流石に第二陣が来るまでにブラッディクエストを一つは出すだろうとのこと。もう、一つ出ているけどね。第二陣の参入もこれまでのこの会社の作品の間隔からして、発売後二か月〜三か月じゃないかと言われているので、発売から一か月半が過ぎそうな今からすると、タイミング的にもおかしくないと言われています。
そんな考察の他にも、誰が来るとか何処に来るのかとかの議論がされているのですが、覗いてみた所、まあ、不毛でした。
確かに『始まりの街』が大好きな彼女らからすれば、レナシテス王国のスタート地点、カーメルを初めの生贄に選んでも不自然ではありません。
『千弦:まあ、内容なんだけど……、「月が見える夜に、天啓の森の深部にて空を見上げよ」という訳の分からないものなんだよね』
『結伊:意味深ね……』
『奏恵:まあ、うん。行ってみたら分かるんじゃない?』
『吹雪:因みに情報公開はしたの?』
『千弦:いいえ。まだしてないわ。こんな情報簡単に手放すと思う?』
『紫乃:有能!』
『爽香:流石』
『千弦:私達の名前をワールドアナウンスに載せましょう!』
『紫乃:おおー!』
『奏恵:やるぞー!』
『結伊:おー!』
『爽香:ん』
『吹雪:いや、ブレないね爽香』
地元民に聞いてみなければ分からないものとかあるのですかね?
絶景とか?『絶』望の『景』色。はい、合ってます。
ルナリア様にも聞いてみますか。それで知らなかったらほぼ確定で良いかも……。あ、でもあんま信頼できないかもしれない。
皆のゲーマー魂に火が着き、中々盛り上がっている様子。そんなクエストあるなら配信しちゃいたいな……。
許可を取りますか。
『吹雪:ねぇ、皆。そのクエストやる時に配信しても良い?』
『紫乃:私達の勇姿を世界中に配信……グフフ』
『千弦:紫乃。心の声が出てる。私は別に良いわよ』
『奏恵:私もいいよー』
『結伊:私も良いですよ』
『爽香:ん』
『吹雪:いや、本当にブレないね爽香……』
全員からの同意が得られてホッと一息つきます。
皆が断るとは思えなかったし、これでも全員上昇志向は高い方だからね。
ただ、放送事故があっても配信は止まってくれません。その時は南無。
『結伊:吹雪?そういえば、あなた配信のチャンネルがどうなってるか知ってる?』
『吹雪:あ、ごめん。見てなかったよ。ちょっと待ってねー』
『紫乃:流石白雪姫って感じのアーカイブの再生回数だったよ』
『千弦:一日でチャンネル登録者数が個人であんなに行った人初めて見たわよ』
え、本当?
実は配信時の同接がチラッと見た時六桁まで行っていたのだ。それでちょっと怖くなって見るのを止めた。
しかもかなり序盤。秘書さん出た直後だよ。
……《SOMNIUM》が提携している『LighTube』から自分のチャンネルを見る。
……チャンネル登録者数はもう既に五百万人。
残しておいた配信のアーカイブの再生回数は二千万回を超えそうになっている。
……こんなにいるのならもっと早く始めておけば良かった……。
広告収入なんていう下賤な考えをしながら、私は後悔していました……。
修正:2021/01/01
修正:2021/01/16 ん?ニーヴィスの動画関係の数値がバグってますね。下方修正。
この世界ではそもそもの人口も増え、現実よりも遥かにネット社会化しているので、人気な人ではチャンネル登録者数が楽々億を超えています。
あけましておめでとうございます。
ということでお久しぶりです。剣葉です。
ぶっちゃけ全然書けていないけど、一話だけ出しとこうかな…とw
毎日投稿は暫くお待ちください……。
すみません……本当に忙しいんです……。
夏と課題の量が変わらない学校って……(もっと言えば増えてる)
作者も今年は更に忙しい年なので、投稿頻度が下がるかもしれません。
何があるかは察してくださいね……?
面白い、毎秒投稿しろ、『あけおめ、ということで書け』、という無慈悲な方は、評価、感想、ブックマーク、レビュー等、是非お願いします……!(懇願)




