動キ始メル物語-1
⚠︎更新を凍結していることを踏まえてお読み下さい。
この後、三話程投稿するつもりです。
※ タグ『ほのぼの』等、一部のタグが機能するのがかなり遅いです。
薄暗い部屋の中に、カタカタという無機質な音が響いている。
無数の釦が交互に押される、物と物が擦れ合う音。
飾り気の無い殺風景にも近い部屋。申し訳程度に置かれた縫い包みが場違いに思える。
そこには煌々と光る液晶画面に向かい、ゲームのコントローラーを持った少女が、ヘッドホンを付けて、物凄い集中力で手を動かしていた。
「はぁ〜。勝った〜。次の試合は、っと」
画面を注視していた彼女は独り言を口にし、ヘッドホンを耳から下ろし首に掛ける。
背中まで垂らした黒髪に黒目。
人外とも言える早技で、相手の四分の一近くをノックアウトしたとは思えない程繊細な手指。
少女がプレイしているのは《レトリス100》。
露国由来の有名なパズルゲームで、上よりどんどん落ちて来る、四つの正方形によって構成された七種類のレトリミノと呼ばれるブロックを、横一列に揃えると消えるという単純明快なゲームである。
嘗ては全世界での売り上げが一位だったこのパズルゲームは、数多のゲームにその記録を追い抜かれつつも、その人気を必死に保ち続けてこの世界を生き残っていた。
そのシリーズの中でも百人で同時に対戦するこのゲームは、現在蛍光色に満ちた派手な背景となっており、全世界同時にイベントを行っていた。
ポイントを争奪し合うこのイベントで、世界ランキング1位を獲っている時点でこの少女がどれだけの手練れかが分かるだろう。
「あ、マッチングが終わりましたね。さて、誰が居るのでしょうか……ッ⁉︎」
相手の名前が映し出された一覧をスクロールしていきながら、一人のプレイヤーが目に留まり、驚愕とも絶望とも言える表情を取る。
「冗談ですよね⁉︎ 何でここに居るんですか……。イベントが終わるまであと一時間も無いのに……」
『VLK_KAMUI』
少女がスクロールを止めた場所には、この名前が表示されていた。
ただそれだけのアルファベットの羅列。
アンダーバーの前にある文字列も、プロゲーミングチームで溢れている時代では珍しくとも何ともない。
マッチングすれば、その三分の一はプロゲーマー。
平日の昼間にオンラインでプレイするものならば、混沌とした様相が広がる。
そんな世の中だ。
このプレイヤーの点数はニーヴィスからすればまだ低い。
だが、この名は別格。
憧憬と畏怖の眼差しを集めるプレイヤー。
《厄災》と冠されるチームに所属する、事実上の世界一位のプロゲーマーである。
一語一句違わないその名を確認した少女は、顔を歪ませ頭を抱えていた。
予期せぬ天災の来襲に、現在の順位を狂わされる可能性が高くなったからだ。
その者に勝った者は存在しない。都市伝説として勝者に一人の名前が囁かれているが、真偽も定かではない噂である。
「ああ!もう!やってやりますよ!」
そう自棄になったかのように声を出す。絶望から立ち直った少女の顔に浮かんでいたのは、自身が本格的にゲームに入れ込むことになったきっかけのプロゲーマーへの挑戦の顔。
一息吐き、ヘッドホンを再び耳に着けてコントローラーを構える。
『READY』の文字が表示され、その後直ぐに『GO』と画面に浮かび上がり、操作が解禁された。
その刹那、物凄い勢いで正方形の集合体が展開される。
未来予知をしているとしか思えない速度で動く画面内の闘い。
縦横無尽に動く図形。回転しながら次々と地に伏せていく。
《Triple》
《T-Spin Triple》
《Retris》
《Back-to-Back》
《Double》
《T-Spin Single》
《All Clear》
英名で技名が絶え間無く表示され、効果音が鳴り止まない空間で、次々と他プレイヤーが脱落していった。
そんな中、場違いとも言えるようなプレイで他プレイヤーに妨害を送っていく二人のプレイヤー。
二人について行けず、他のプレイヤー九十八人が、全員、この二人のどちらかにノックアウトされた。
「やっぱり本物だった……。というか、この人がパズルゲームやってる所見た事ないのですけど……」
焦りに満ちた顔で、六十人以上をノックアウトしたプレイヤーネームを睨み付けた。
バトルロイヤルのゲームで二人のみに他全員がノックアウトされている時点で、この試合の異次元さがよく分かる。
少女が既に先の試合を上回る人数を倒しているのに対し、その倍以上を観戦送りにした『VLK_KAMUI』。
暫く膠着していた戦いが動き始めた。
「ちょっ⁉︎ 本当に人間なんですか⁉︎」
次第に劣勢へと押し込まれた少女が悲痛な声を上げる。
妨害の段を送っても送っても、即座に灰色のレトリミノの間を掘られて消され、『VLK_KAMUI』の盤面には、一切灰色の正方形が存在しない。
更に言うならば、何も無い空間が広がるのみ。
コンピューターが処理に追いついていないのでは、というレベルで。
逆に少女の盤面は、対処の遅れた妨害がどんどん積み重なり、敗北への猶予が五段も無くなっていた。
先程は他プレイヤーがほぼ全員が『VLK_KAMUI』に向かって妨害を送っていたので少女は運が良かった。ただ、この場は一対一。小細工はもう通用しない。純粋な本人の腕、プレイヤースキルの差が顕著に現れる。
……ただ、彼女が弱いのではない。『VLK_KAMUI』が強すぎるのだ。
これでも人間の範疇に収まっている少女に比べ、『VLK_KAMUI』は既に人外の領域。
「強過ぎますよ……本当に……」
茫然としたまま声を捻り出す。既に撃つ手なし。これ以上手を動かしても悪足掻きでしかない。それでも彼女はコントローラーを酷使する。
その数秒後、画面には暗い効果音と共に『GAME OVER』の文字が浮かび上がった。
宣告
コントローラーを投げ出し、背もたれにだらんと倒れかかる。腕を目に当て、深い溜息を吐く。
「ああ……。悔しいなぁ……」
マッチングした時点で回線を切ってもおかしくない相手だ。
勿論、それによるポイントの損失という罰則は存在する。
かなり痛い点数が引かれるが、心が折られるよりまし、と考える者も多い。
蛮勇を持って挑んで徹底的に返り討ち。ゲームによっては容赦無くプライドをへし折る倒し方をして来る冷酷なる王者。
悔しいと感じることが出来ただけ、彼女の心は未だ強い。
いや、強靭な精神力を発揮できるのは、ゲームについてのみと言えるだろうか。
ふと、少女が横を見ると時計は午前七時十分を指していた。
デジタル時計のDSEGが音も無く移り変わる。
時間は無慈悲。待ってはくれない。
「え⁉︎ もう、こんな時間ですか⁉︎」
感傷の余韻に浸る間も殆ど無く、慌てだした少女が電子機器をシャットダウンし、棚に置いてあった教科書やノートを鞄に放り込む。
「ヤバイヤバイヤバイ。急がなきゃ」
続いて少女が制服に着替えると、部屋の扉を開いて、小走りで階段を駆け降りて行った。
一回は未だ暗く、窓掛も下りている。少女が一瞥した無造作に開いた扉の中には、二対の大きなベッドが寂しく置かれていた。シーツも皺なく伸ばされており、使用された形跡は無い。
小窓からちらつく陽光も目に暮れず、少女は洗面所に向かう。
鏡に顔を合わせ、無愛想、殆ど笑顔を見せていなかった彼女が、不自然な微笑みを見せる。
「あれ?これじゃない。えーと……これでもない。……あ、うん、これで良し!」
幾度も左右反転した自身に引き攣った微笑を披露していく少女。
数回もすると、ひくついていた唇も口角が上がり、見た者を魅了してしまうような笑みとなっていた。
「………ゔっ………はぁ〜………うっ………」
漸くその仮面を着けた彼女は溜息を吐いて蹲る。
磨耗し切った自分の心に耐えきれずに嗚咽を繰り返す。胸を強く掴み、目に涙を浮かべ苦しそうな表情を浮かべた。
「………つっ………嗚呼、また憂鬱な一日が始まりますよ………」
よろよろと立ち上がった少女は達観したかのように、そう呟く。
暫くすると、芯を取り戻したかのように再び息を吐いて、背筋を伸ばした。
「口調も気をつけなくちゃな……」
ですます調になってしまった己の言動に警告を送る。
身嗜みを整えて再度鏡を注視して、髪型、服装、共に乱れが無いことを確認した少女は振り返り、ゆっくりと廊下を歩いて行く。様々な部屋を横切り、リビングまで辿り着いた少女は、窓際に近付く。両手を窓掛を掴み、左右に勢い良く開け放った。
「う〜ん、良い朝。お天道様が綺麗だね!」
東から昇る暖かな春の太陽が、モノトーンだった部屋と共に、少女の顔を照らす。
大窓から朝日を見上げる少女は、僅かに幼さを残した顔立ちのした、絶世の美少女と言っても差し支えのない顔をしていた。制服である濃紺のブレザーが似合っている。
これは、少女─────白桐 吹雪、プレイヤーネーム《ニーヴィス》、とあるゲームで使われていたアバターの姿から《白雪姫》と呼ばれている少女が世界を動かす物語である。
加筆修正:2021/01/24 ゲームについての文脈を追加。
加筆修正:2021/02/13 前書き。
加筆修正:2021/02/14 加筆。
改稿 :2021/02/20 後半を大きく改稿。
《レトリス100》はあの有名ゲームです。
これを書く為だけに作者はダウンロードしていたりする。
所々アレンジしていたり、イベントはオリジナルの物なのでつっこまないで下さい。
今後登場させる予定は今のところ無し。
『ニーヴィス』ラテン語で『雪(属格)』【nivis】
二ヴィスだと語呂が悪い& nixもうーんとなったから
評価、感想、ブックマーク、レビュー等、是非お願いします……!(懇願)




