元婚約者は家出中
※本日2回目の更新なので、読み飛ばしにご注意ください
「実は……ケルビーニ伯爵家を調べた結果、ウーヴァ様はあの日から家には戻っていないそうです」
リーベスはモモコの様子を気にしながら、そう報告をしてくれた。
「えっ……!」
「"探さないでください"との直筆の手紙が届いていたらしく、今後も伯爵家に戻る可能性は低そうです。その後の足取りも掴めていないようです」
「そう……」
リーベスの報告に、驚きが隠せない。
私はあの日、眠すぎてウーヴァのことをよく見ていなかったけれど、ペスカと並んで愛を叫ぶ彼は、確かに幸せそうに見えた。多分。
あの後、彼に何があったのだろう。
私との婚約解消で発生する事柄は、彼なら全て把握していた筈だ。貴族としての地位を失う事になることだって、分かっていたと思う。
その事がショックで、というのは考えにくい。
自然と、私とリーベスの視線はモモコへと向けられる。
最後にウーヴァと話を交わしたのは、爺やを除けばここにいるモモコだったからだ。いや、その時はペスカか。ややこしい。
「……モモコ。あなた、ウーヴァのことは覚えてるの?」
「あっ、はい。ペスカの恋人? ですよね。あのイケメンの」
「いけめん……」
「めっちゃカッコいい!ってことです。記憶ではめちゃくちゃ貴公子ですもんね。なんかこう、キラキラ〜って」
頰に手をあてて、思い出すような仕草を見せたモモコは、ウーヴァのことは覚えているらしい。
「……モモコ様。最後にウーヴァ様と交わした会話は覚えていますか?」
リーベスが、穏やかに問いかける。
彼もここにいる元ペスカの事を『モモコ』と呼ぶ事にしたらしい。
「実は、その辺の記憶が曖昧なんですよね~。フィルターがかかってるというか何というか。映像がぶつ切りで。お義姉様が部屋を出て行くところは覚えてるんですが……どうやらその後ペスカは倒れちゃったみたいで」
うーんと唸りながら、モモコは天を仰ぐ。
どうやら彼女は記憶が混濁しているようだ。
「……話し合いに居合わせたアルデュイノさんのお話によれば、今回の婚約解消によってペスカ様たちがこの家から出て行かねばならないことと、ウーヴァ様が将来的に市井に出て独立するという話をされた後、2人が口論になって、ペスカ様がお倒れになられたと」
ちらりとモモコの方を見たリーベスは、少し言いにくそうに言葉を紡ぐ。
アルデュイノというのは爺やのことで、私が徹夜の睡眠を取り戻している間に、応接間は随分と大変なことになっていたらしい。
「痴情のもつれ……? これなんて昼ドラ……しかも大事なところの記憶がないわたしって……」
その話を聞いたモモコも、いつもどおり私の知らない単語を発しながら顔を真っ青にしている。
ウーヴァが家出中の今、頼りになるのは彼女の記憶だけだが、思い出しそうな兆しもなさそうだ。
「……状況は分かったわ。あんな人だけど、心配ね。元気にしているといいのだけど。リーベス、ウーヴァのことをこっそり探してくれる? どこで何をしているかは、モモコも知りたいでしょ?」
「はいっ! もし事件とかに巻き込まれてたら寝覚めが悪すぎます……。ごめんなさい、お義姉さま、わたしのせいで迷惑ばかり」
しゅんと項垂れるモモコは、本当に以前とは別人だ。
リーベスの方を見ると、彼は瞳を優しく細めて私を見ていた。
「お嬢様ならそう言われると思いました。既に捜索は開始しております」
「リーベス、ありがとう!」
「当然の事をしたまでです」
なんて出来た従者なんだろう。
嬉しくなった私は、彼に思いっきり抱きついてしまった。
「……えっ、もしかしてお義姉さまとリーベスさんって、そういう事なんですか⁉︎ 主従萌え……!」
ひと呼吸置いたあと、頰を赤らめたモモコがそう言うのを聞いて、リーベスは慌てて私を引き剥がしたのだった。
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