魔石とハンドミキサー
誤字報告ありがとうございます……!
翌日、わたしは寝ぼけ眼のペスカ……モモコを引っ張って工房に連れて来ていた。
彼女の謎の知識を教えてもらうためだ。
「これは……どういう素材なの?」
「ええっとですね~、多分……鉄? いや……アルミ? 詳しくはないですけど、なんかの金属です。持ち手のところはプラスチックで」
私が問いかけると、彼女なりに懸命に答えてくれる。
一晩経って彼女がどういう状態か心配でもあったが、「お義姉さま、早起きですね~」と目を擦る少女は、やはり『モモコ』の方だった。
急に連れてこられた工房で、ぼんやりとしながらもモモコは私が作った羽ペンで紙にスラスラと『ハンドミキサー』の絵を描いた。
驚いたことに、モモコはとても絵がうまい。
ハンドミキサーというこの道具は、ふわふわとろけるホイップクリームを作るのに便利なものだと言う。
普段厨房に入ることがない私にとっては、感心するばかりだ。
「こう……手で使う泡立て器があるじゃないですか。アレを電気で自動でぐるぐる回るような仕組みにしていて、時短なんですよ」
「なるほど。動力装置で、この先端の金属の部分を回すのね。だとすると、液体に触れるから劣化しにくいようにした方がいいわね。プラスチック……は何のことか分からないけれど、持ち手は軽くて耐久性のあるものがいいでしょう」
「あっ、でも……この世界には電気はないんですよね」
真剣なモモコの問いかけに、私は首を傾げる。
「魔石や魔法があれば、大体のものはなんとかなるわ。……私の記憶では、ペスカも多少は魔法を扱えたはずだけど」
「ひえっ、魔法……⁉︎ 一気にファンタジー!」
自分の両手を感慨深く見つめるモモコは、どうやらペスカ時代に使っていた魔法の記憶はないらしい。
開発目的で、毎日のように魔法の付与や魔石の加工をしていた私と違って、彼女はそこまで魔法を使う必要性がなかったのかもしれない。
「あの……お義姉さま、ちなみに魔法ってどうやって使うんですか? なんか恥ずかしい呪文を唱える系ですか?」
「厨二病的な……?」と何やらモモコは照れ臭そうだ。
「特に呪文は必要ないけれど……でも、全く記憶がないのなら、危ないから無理に使わないでいいわ。うちにある魔石のアクセサリーを身につければ魔力がなくても便利に過ごせるから大丈夫よ。その内、先生を呼ぶわ」
「……やっぱり天使ですね、お義姉さま。大天使……!」
魔法を使えればそれだけで魔道具は反応するのだが、魔力がない人も扱えるように、魔石がある。
大抵はブレスレットやネックレス、ピアスや指輪など身につけやすい装飾品に加工されている。
まあそれも一般的には高値だから、広く全国民にというのはまだ遠い目標だ。
何やらうるうるとしているモモコをよそに、私も手元の紙にペンを走らせる。
稼働性、防水性、必要な素材、必要な魔石。
どんどんとイメージが湧いて来て、手が止まらない。
そんなに難しくなさそうだから、工房にある材料でなんとかなりそうだ。
設計図が完成し、早速作業に取り組もうとした矢先、来客を知らせる工房のベルが鳴った。
(……この音は、リーベスね)
「お嬢様! ……と、ペスカ様もいらしたんですね。昨日の件で、ご報告がございます」
やはり工房に現れたのはリーベスで、少し息が切れている。
――昨日の件というのは、ウーヴァの件。
あの後、ケルビーニ伯爵家の状況について調べてほしいと爺やとリーベスに依頼していたのだ。
どんな報告なのだろうと思いながら、私は彼の話に耳を傾けた。
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