*思い出した日(桃子視点)
義妹、モモコ視点です。
目を覚ますと、見慣れない天井が目に入って来た。
精巧な模様の入った壁紙だ。こんな部屋、見たことない。
(あれ……うちってこんなにメルヘンチックだったっけ……てかいま何時? スマホスマホ)
覚醒しきれない頭でぼおっとしながら、わたしは枕の下に手を伸ばす。
いつも寝る時はスマホは枕の下に置いていたからだ。
(あれ……ない……?)
どれだけゴソゴソと探っても、スマホは出てこない。
スマホを探す手がかりになればと、昨日の事を思い出しそうとした時、頭にずきりと鋭い痛みが走った。
思わず手で頭を押さえる。
少し落ち着いた時に恐る恐る目を開けると、さらりとした髪の感触が指の間を流れていった。
その色は、淡い茶色だ。
(えっ……何この髪色。わたし、黒髪だったよね)
のそりと立ち上がって、やけにメルヘンな部屋を見渡し、姿見を見つけた瞬間。
「ひえっ! だ、誰⁉︎」
そこに映る知らない少女の姿に、わたしは思わず大きな声をあげてしまった。
*
鏡の中に映る美少女に驚いた後、再び激しい頭痛に襲われたわたしは、よろよろと床を這うように進み、またベッドに戻ってきた。
以前は考えられないような、お姫様のようなベッド。
部屋も広い。わたしのお城だったワンルームとは全然違う。
「……異世界転生って本当にあるんだ……」
わたしは涙目になりながら枕に突っ伏す。
頭痛が治まると、色々な情報が一気に脳内に溢れた。
まるで映画を早回しで観たような感覚だ。
異世界転生。
ラノベの世界観は大好きで、特に主人公が転生者なお話は何冊も購入していた。
――でもその場合、悪役令嬢になってシナリオ改変とか、パーティーから追放されたけど後々チートが発覚して無双するとか、最終的に幸せになっていたと思う。
「ううっ……ペスカ……何やっちゃってくれてんの……」
だが、パフェを食べに行く途中で事故に遭ったと思われるわたし、桃子の場合は。
義姉の婚約者を誘惑し、ふたりの婚約を解消させた義妹のペスカとして転生してしまったようだ。
ウーヴァとペスカは恋仲……だったらしい。
昨日、お義姉さまと3人で話をして、彼女が動揺もせずに部屋を出て行ったのを、驚きの感情で見送った所はハッキリと記憶にある。
それから、執事とウーヴァと話して――よく覚えてはいないが、その内容にペスカは卒倒したようだった。
さらに芋づる式に思い出したペスカの記憶では、義姉にドレスや宝石が贈られる度に、母と共にゴネてゴネてゴネて、それを奪う――といった行為が日常茶飯事だった。
(それで最後には婚約者までって。どんな義妹なの、ほんとに……)
「うえっ……なんなのぉ、このタイミング……今更謝って許してもらえるレベルじゃないよぉ~~」
わたしはめそめそしながら、枕にさらに顔を埋めた。
すでにしっとりと濡れているそれは、もはや心地よさの欠片もない。
異世界で、とんでもないスタートラインに強制的に立たされている。逆境にも程がある。
それに、安納芋のパフェも食べられなかった。
角切りのおいものパウンドケーキ、生クリーム、お芋の餡、ソフトクリーム、甘い焼き芋。
それらが層になったパフェ。食べたら口中に秋の味が広がったことだろう。
他の季節のパフェも食べたかった……っ。
(……こうしてたって、仕方ないよね)
暫くそうしていたわたしは、ひとつため息をついたあと、心を決めて起き上がった。
クローゼットらしき所を開けると、フリフリらぶりーな服が大量に出て来たが、唯一端っこの方にシンプルなワンピースがあったため、それを急いで着込む。
ここは別邸だ。お義姉さまがいるのは本邸。お母さまの姿がないようだから、きっといつも通りそっちにいるのだろう。
ペスカの淡い記憶を辿りながら、わたしは急いで本邸へと足を進めたのだった。
お読みいただきありがとうございます……!
本日2回目の更新なので、読み飛ばしがありませんように(^^)




