自分たちでつくろう
「とりあえず、お金を稼ごうと思うの」
静まり返った室内で、私が唐突にそう言ったため、全員がぽかんと呆気に取られた顔をした。詳細を知っているはずの爺ややリーベスまでも同じ顔をしているものだから、少しおかしくなってしまう。
とは言え、端的過ぎたかと思い直した私は、順を追って話すことにした。
「――私は、現ベラルディ伯爵家の当主であり、この家を継いだ者として、領地の繁栄を守る義務があるわ。とは言え、私に出来ることは、魔道具を開発することばかり。だから、皆の力を借りて、もっとこの家を盛り立てて行きたいと思っているの」
私は自分が貴族としての社交や政治的な部分に疎い事は分かっている。これまでずっと領地に引きこもって開発ばかりしていたのだ。王都がどうなっているのかなんて、まるで分からない。
でもこのままではいけないと、思った。
「……それは立派な志だと思うよ、メーラ。だけど、もう僕は平民の身だし、君の力になれるような事は何も出来ないと思う」
少し自嘲気味に、ウーヴァは静かにそう語る。確かに、伯爵家を飛び出したらしい彼は、もう社交界に戻ることを厭うだろう。
魔力なしと言われる事を露見することをずっと恐れていたのだ。望まれても戻りたくなどないはず。
「いいえ、ウーヴァ。貴方にも手伝ってもらいたいの。以前言っていたわね、事業を手がけていると。あなたのその手腕を見込んでお願いしたいのは、商会の設立と、その会長になることよ」
「商会……僕が?」
「ええ。それに、モモコ」
「はっ、はいいっ!」
ぱちぱちと目を瞬かせるウーヴァの隣にいたモモコは、私の指名に飛び上がるように立ち上がる。その様子を見て微笑ましく思いながら、私は言葉を続ける。
「貴女には、私の助手として、この家に留まって欲しいと思っているわ。もう一度、ちゃんと私の義妹になって欲しいの。それで、また楽しい魔道具をたくさん作りましょう」
「……お義姉さま……ううっ、もちろんです!」
彼女がもたらす知識は、とても楽しく、それでいて斬新だ。それに何より、彼女自身――モモコという存在は、私にとって初めて家族の温もりを感じさせてくれた。
「モモコが教えてくれる知識で、私が魔道具を作って、それをウーヴァが売るの。そうしてみんなでお金を稼いで、誰からも文句を言われないような体制をつくりたいの。……お願いします」
全員を見渡して、私は頭を下げる。
机上の空論かも知れないけれど、それぞれの得意分野を活かした上で、皆で盛り立てて行けたらそれは素晴らしいことだと思える。
メローネ伯母さまには、この後協力を仰ぎに行く予定だ。これまで好き勝手に振る舞ってきた方ではあるけれど、あの方はこの家で唯一、社交が得意なお方だ。
これまでも、勝手ではあるがベラルディ家の伯爵夫人として振る舞ってきた実績もあり、お茶会への参加も難なくこなす。
そんな彼女には、是非この新しい事業の宣伝をお願いしたいのだ。夫人たちのネットワークは強大で、その中で他の貴族たちの興味を引ければ、きっと追い風になる。
これまでに作ったハンドミキサーやアイスクリームメーカーなどを、売り込む一大市場となる。
(あの意地っ張りな伯母さまの事だから、きっと、すぐには納得しないでしょうけれど)
そんな事を考えながら、ちらりと隣に視線を移す。
私を見守るリーベスは、優しい笑みをたたえていて、爺やは少し涙ぐんでいる。
「リーベス。貴方も忙しくなるわよ。私を支えるために、たくさん勉強してもらうわ。――従者としてではなく、私の旦那さまとして」
「はい。メーラ様。必ずやり遂げます」
「ほっほっほ、メーラ様。この爺にお任せください。叩き込みますぞ」
リーベスは獣人で、出生は不明。そのことは、貴族の婚姻にきっと影を落とすことになるだろう。リーベスも気にしていたことだ。
――だから、お金がいる。ベラルディ伯爵家の地位を確固たるものにして、それからでも遅くはない。
リーベスと見つめ合っていると、こほり、と咳払いが聞こえた。少しだけ顔を背けたウーヴァが、わざとらしく口の前に拳を置いている。
「君の考えは分かった。僕としても、是非協力したい。ちょうど手がけた事業は軌道に乗っているところだし。だが、僕も条件がある」
「まあ、何かしら」
そう問うと、ウーヴァの紫色の瞳が、燃えるような意志を持って私を見た。これまでになく、凛々しい表情だ。
さっと立ち上がった彼は、胸の前に恭しく右手を添えると、姿勢を正した。
「ベラルディ伯爵に申し入れます。この事業が成功した暁には……貴女の義妹、ペスカ――いや、モモコ=ベラルディ嬢に婚姻を申し込むことをお許しいただけますか」
「まあ」
「えっ!」
びっくりとした顔で固まるモモコを尻目に、ウーヴァは私の返事を待っている。彼にこんな情熱的な部分があったなんて……と驚きはしたものの、その真剣な眼差しに、私はついつい笑みをこぼしてしまう。
「そうね。成功したら、考えましょう。でも、それはモモコの同意を貴方がしっかり得てからの話だわ。モモコが望むなら、許します」
「ありがとう、メーラ。新しい事業も、婚約者どのをその気にさせるのも、どちらも全力で頑張るよ」
「えっ、あっ、ちょっとお義姉さまにウーヴァさぁん。わたしを置いてかないでくださいよぉぉぉ」
「聞いてのとおりだ、モモコ。僕はこれから全力で君に求婚する」
「いやまって推しの押しが強い……! キャパオーバーですからぁぁぁ!!!」
顔を真っ赤にするモモコと、吹っ切れたように爽やかな笑顔を見せるウーヴァ。彼女たちの行く末も、幸せな結末であればと、私は心から願った。
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次回、最終話です(まだ書いてない)
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