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【書籍化・コミカライズ】義妹に婚約者を奪われたので、好きに生きようと思います。  作者: ミズメ


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31/42

*噛み合わないのは(リーベス視点)

 眉の上で切り揃えられた前髪。

 ゆるくまとめられて、おろされた髪。

 いつもとは違う、可愛らしいワンピース。

 そして、ふるふると震えたように揺れる濡れたまつげ。赤く染まった頬。


 俺は、目の前にいる彼女の全てを、この機会に目に焼きつけた。


(メーラ様は、全てを知っている)


 何故秘密がバレたのか、分からない。

 誰かが彼女にそう告げたのか。でも、この屋敷で俺の秘密を知るのは、家令のアルデュイノさんだけのはず。


 だがメーラ様が何かを知っていることは間違いないだろう。彼女は先程『知っている』と言った。『見た』とも。


 ――あの姿を見られてしまっては、もう言い逃れが出来ないことは俺にも分かる。


 もしかしたらメーラ様は随分と前から知っていて、それでも追及せずにいてくれたのかもしれない。

 優しく、おおらかな彼女が、大人に傷付けられる様子をこれまでも度々目にしてきた。


 その度に、何とかできたらと思っていた。


 ――どうか、彼女を恐れさせることがありませんように。

 俺の醜悪な姿を瞳に映して、恐れ慄くメーラ様の表情を脳裏に浮かべながら。


 俺はゆっくりと瞳を閉じて、自らの本当の姿を現すことにした。



 ◇


 10秒と少し経過した後、メーラ様の瞼がゆっくりと開いた。

 そしてその碧の瞳は、真っ直ぐに俺に向かう。


 突然部屋に現れた黒い狼に、彼女はどう反応するだろう。以前見たと言っていたが、対面するとなると、その迫力は違うものだろう。


「……っ!!」


 案の定、メーラ様の瞳は溢れそうなくらい大きく見開かれた。悲鳴を聞きたくなくて、思わずふいと顔を背ける。


(――ああ、やっぱり……)


 心のどこかで、そう諦めていたとき。

 俺の身体は、ぱふりと柔らかい衝撃を受けた。


「えっ! どうして? どうして犬がここに……⁉︎ とっても可愛いわ! もふもふだわ……」


 咄嗟の事に、俺は固まってしまう。

 狼の姿になった俺は、お座りをした状態で沙汰を待っていたはずだった。


 だが今、俺の首元に抱きついているのは、メーラ様その人だ。


「ふわふわ……可愛い……!」


 俺の視界からはメーラ様の表情は見えないが、彼女の手が首回りの毛をふわふわと撫でる。


「わふ!」

(ちょっ……メーラ様……!)


 それがくすぐったくて声を上げようとしたら、とても情けない声が出てしまった。

 不完全な獣人の俺は、獣の姿では人語が話せない。それにしても、随分と気の抜けた声に自分でも驚いてしまう。


「どうしたの? あら、この赤いお目目は……」


 首元に埋まるのをやめたメーラ様は、少しだけ俺から離れて、今度は顔をじっと眺めてきた。

 座っている状態の俺の方が頭の位置が高いため、自然と彼女を見下ろす形になる。


「あの子にそっくりだわ……! もしかしてあなた、うちに帰って来ていたの? リーベスが探してくれたのかしら。あら、そういえば、リーベスはどこに行ったのかしら」

「きゅう?」

(……何かが、おかしい)


 狼の俺にくっついたまま、メーラ様は周囲をきょろきょろと見渡し、不思議そうな顔をしている。

 その様子に違和感を覚えた俺は、首を傾げる事になる。


「リーベスの秘密って、このわんちゃんを隠していた事だったのかしら? てっきりカミッラの事だと思っていたのに。リーベス? どこに行ったの?」

「わふ!わふ!」

(俺はここです! カミッラとは何のことですか?)

「よしよし、可愛いわんちゃん。私はちょっと人を探して来るわね。それまでお利口でここにいてね」


 名残惜しそうにまた俺を撫でる彼女の瞳はとても優しげだ。最後にぽふぽふと俺の頭に触れると、彼女は部屋を出るために扉へと向かう。


(もしかするとメーラ様は、俺だと、気が付いていない……?)


 彼女と俺の話が噛み合っていない事に、俺はそこでようやく気がついた。


 このままメーラ様が部屋を出て行けば、ますますややこしい事になる。

 そう判断した俺は、慌てて彼女の背中を追う。


「……メーラ様、絶対にこちらを振り向かずに、話を聞いていただけますか」


 再び人型に変化した俺は、片腕で彼女を抱き寄せて、もう一方の手で開きかけた扉を押さえ、鍵をかけた。


 あまりに近く抱き寄せたため、彼女の髪が揺れ、甘やかな花の香りが鼻腔を満たす。

 ……こんな姿は、メーラ様にも、他の誰にも見られる訳にはいかない。特にモモコ様には。


「それで、できれば、また目を閉じていただけるとありがたいのですが。俺が、着替えるまで」

「きっ、着替え……? え、ええ、もちろん……‼︎」


 腕の中のメーラ様の頭が、ぶんぶんと強く振り下ろされるのを感じて、俺は急いで身支度を整えたのだった。



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【書籍発売】第11回ネトコン早期受賞しました!加筆も頑張りましたので、よろしくお願いします

公式サイト:『義妹に婚約者を奪われたので、好きに生きようと思います。』
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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今、ワンコになっていたとき、執事服が床に散らばってたんでしょうか 服の中からもぞもぞ這い出るワンコを思うとキュートです
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