あなたの秘密は 2
ぎゅう、と強く彼の腕の中に閉じ込められて、少し息苦しさを感じる。
とんとんと、彼の胸板を叩いてみると、その拘束がちょこっとだけ緩められた。
でもまだ、抱きしめられた状況に変わりはない。
「……いつから、ご存知だったんですか」
掠れたような声にすぐに顔をあげたくなるけれど、まだ自由に身動きが取れるほどではない。
リーベスって、こんなに力が強かったのね、なんて見当違いなことを考えたりもしてしまう。
「その……私が知ったのは、本当に最近よ。たまたま見かけて、それで」
「見た……? 見たんですか⁉︎」
急に両肩を掴まれて、べりりと引き剥がされる。
切羽詰まったような顔のリーベスが、私を見下ろす。
その剣幕に気圧されながらも、私は返事をした。
「え、ええ。見たわ」
確かに見た。
あの日、リーベスが顔を赤らめながら、カミッラと親しげにしているところを。それで初めて、私は恋心というものを知ったのだ。
「何故……あの小屋には誰も近づけないはず……! どうして、お嬢さまが……」
青ざめたリーベスは、私を掴む手に力を入れたまま、混乱したように何かを呟く。
カミッラとの交際を私が知ってしまうことは、そんなに問題のある事なのかしら。
それに、小屋とは何のことだろう。
「……リーベス? 顔色が悪いわ。いいのよ、無理に言わなくても……」
話してくれないのは寂しいけれど、事実を突き付けられる機会が延びたと考える私は、少しずるいのかもしれない。
(でも……そうよ。カミッラと結婚したら、今までみたいにはいかないかもしれない。彼女が最優先になって、そのうち子どもだって生まれるかもしれない。そうしたら、私のことなんて、後回しに――)
そう考えると、さっきまで高揚していた気分があっという間に急降下した。
(それに、モモコがお嫁に行ってしまったら、この屋敷には私はひとりだわ。爺やたちだっているけど、でも、そんなの……)
脳裏には、楽しそうにウーヴァと思しき人物画を描き連ねるモモコの姿が浮かんだ。
頑なに否定しているけれど、冷静になって分析した結果、彼女だって、私と同じ『恋の病』というものなのではないだろうか。
ウーヴァだって、モモコのあの素直さと可憐さに触れたら、きっと可愛がってしまうと思う。
リーベスとモモコが幸せになるのは嬉しいけれど、言いようのないこの寂しさはなんなのだろう。
「メーラ様……っ! お願いですから、泣かないでください。もうそこまでご存知なのであれば、全てお話ししますから」
先のことを考えていたら、どうやら私は泣いていたらしい。
お母さまが出て行ったとき、叔母さまに辛く当たられたとき、お父さまが亡くなった時――
悲しい事は今まで沢山あったが、その積み重ねの内に、涙なんてとっくに枯れてしまったと思っていた。
もう一度、リーベスのぬくもりに包まれた私は、その温もりに全てを託すように、ぎゅうと目を瞑った。
「――メーラ様。そのまま10秒ほど瞳を閉じていてください。いいですね?」
目を閉じたまま、こくりと頷く。
リーベスが私から離れるのを、気配で感じる。
10秒。この10秒が終わったら、どうなるのかしら。
「いち、に、さん……」
そう思いながら、私はゆっくりと声に出して数を数え始めた。
お読みいただきありがとうございますヽ(´▽`)/




