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【書籍化・コミカライズ】義妹に婚約者を奪われたので、好きに生きようと思います。  作者: ミズメ


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30/42

あなたの秘密は 2

 ぎゅう、と強く彼の腕の中に閉じ込められて、少し息苦しさを感じる。

 とんとんと、彼の胸板を叩いてみると、その拘束がちょこっとだけ緩められた。

 でもまだ、抱きしめられた状況に変わりはない。


「……いつから、ご存知だったんですか」


 掠れたような声にすぐに顔をあげたくなるけれど、まだ自由に身動きが取れるほどではない。

 リーベスって、こんなに力が強かったのね、なんて見当違いなことを考えたりもしてしまう。


「その……私が知ったのは、本当に最近よ。たまたま見かけて、それで」

「見た……? 見たんですか⁉︎」


 急に両肩を掴まれて、べりりと引き剥がされる。

 切羽詰まったような顔のリーベスが、私を見下ろす。

 その剣幕に気圧されながらも、私は返事をした。


「え、ええ。見たわ」


 確かに見た。

 あの日、リーベスが顔を赤らめながら、カミッラと親しげにしているところを。それで初めて、私は恋心というものを知ったのだ。


「何故……あの小屋には誰も近づけないはず……! どうして、お嬢さまが……」


 青ざめたリーベスは、私を掴む手に力を入れたまま、混乱したように何かを呟く。

 カミッラとの交際を私が知ってしまうことは、そんなに問題のある事なのかしら。

 それに、小屋とは何のことだろう。


「……リーベス? 顔色が悪いわ。いいのよ、無理に言わなくても……」


 話してくれないのは寂しいけれど、事実を突き付けられる機会が延びたと考える私は、少しずるいのかもしれない。


(でも……そうよ。カミッラと結婚したら、今までみたいにはいかないかもしれない。彼女が最優先になって、そのうち子どもだって生まれるかもしれない。そうしたら、私のことなんて、後回しに――)


 そう考えると、さっきまで高揚していた気分があっという間に急降下した。


(それに、モモコがお嫁に行ってしまったら、この屋敷には私はひとりだわ。爺やたちだっているけど、でも、そんなの……)


 脳裏には、楽しそうにウーヴァと思しき人物画を描き連ねるモモコの姿が浮かんだ。

 頑なに否定しているけれど、冷静になって分析した結果、彼女だって、私と同じ『恋の病』というものなのではないだろうか。


 ウーヴァだって、モモコのあの素直さと可憐さに触れたら、きっと可愛がってしまうと思う。

 リーベスとモモコが幸せになるのは嬉しいけれど、言いようのないこの寂しさはなんなのだろう。


「メーラ様……っ! お願いですから、泣かないでください。もうそこまでご存知なのであれば、全てお話ししますから」


 先のことを考えていたら、どうやら私は泣いていたらしい。

 お母さまが出て行ったとき、叔母さまに辛く当たられたとき、お父さまが亡くなった時――

 悲しい事は今まで沢山あったが、その積み重ねの内に、涙なんてとっくに枯れてしまったと思っていた。


 もう一度、リーベスのぬくもりに包まれた私は、その温もりに全てを託すように、ぎゅうと目を瞑った。


「――メーラ様。そのまま10秒ほど瞳を閉じていてください。いいですね?」


 目を閉じたまま、こくりと頷く。

 リーベスが私から離れるのを、気配で感じる。

 10秒。この10秒が終わったら、どうなるのかしら。


「いち、に、さん……」


 そう思いながら、私はゆっくりと声に出して数を数え始めた。


お読みいただきありがとうございますヽ(´▽`)/

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【書籍発売】第11回ネトコン早期受賞しました!加筆も頑張りましたので、よろしくお願いします

公式サイト:『義妹に婚約者を奪われたので、好きに生きようと思います。』
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― 新着の感想 ―
[一言] リーベス、盛大に勘違い(笑)
[良い点] 秘密が噛み合って、ない(笑)。
[良い点] メーラとリーベス、長年一緒にいたのに恋心を意識してから初々しくてかわいい(〃▽〃)ポッ そして、桃子の「前の世界にはこんなのがあって」て説明&絵を元にそれを作り上げてしまうなんて、天才す…
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