あなたの秘密は
意を決して、私は視線を上げた。
前よりもずっとクリアな視界で、前よりも何故かきらきらとして見えるリーベスを見る。
心なしか、彼の頬も赤いような気がするのは、気のせいだろうか。
「……今日も、とても、素敵ですね」
顔を上げたおかげで、びっくりした顔から、彼がゆるゆると笑顔になる様子を、しっかりと見ることができた。
それがこんなにも、嬉しいだなんて。
じわじわと沸き上がる感情の変化に、私自身も戸惑ってしまう。
彼がそこにいるだけで、感情の振り幅がまるで変わってしまうのだから。
「それに……」
彼の手が伸びて来て、短く切り揃えられた前髪に触れるか触れないかのところで止まる。
ぐっと握り拳を作ったリーベスは、何か言葉を呑み込むような仕草をしたあと、その手を引っ込めた。
そして、何事もなかったかのように、爽やかな笑顔を見せる。
「……すごく、可愛らしいです。メーラ様」
「そっ、そう、ありがとう……!」
今までの私は、リーベスとどうやって過ごしていたのだろう。
モモコから『ほら、これを読んでください』と言われて渡されたロマンス小説では、どうやっていたかしら。
初めてそのような書物に触れて、驚きつつも最後まで一気に読んでしまった。
「あの……」
「その……」
ここ数日のことを話そうと思って口を開くと、リーベスも同時に何か言ったようで、私たちの声が重なる。
一瞬だけびっくりして固まってしまったが、勢いに任せて私は言葉を紡ぐことにした。
「リーベス、あの、ここ数日、なんだか避けるような態度になってしまってごめんなさい」
「! いえ、俺の方が態度が悪かったと思います。従者としてあるまじきことです」
リーベスと距離があったのは、やはり勘違いなどではなかったことを知り、少しだけ胸の奥がちくりとした。
でも、彼の困ったような申し訳なさそうな表情を見るに、私のことを嫌いになった訳では、ないと思う。
ひとつ深呼吸をして、私は彼の瞳を真っ直ぐに見据えた。
「あのね、リーベス。もし私に言いにくいことがあるのなら、気にしないで欲しいわ。――私、驚かないで何でも受け入れるから。他ならぬ、大切な貴方のことだもの」
でも、ちょっぴり悲しくなってしまう事は許してほしい。恋心を自覚して、すぐにその気持ちをなくせるほど、感情が器用な私ではない。
もし、正直に『カミッラと恋仲だ』と告げられても、笑顔でおめでとうを言うと、昨晩決めたのだから。
私の言葉に、リーベスの顔色が変わる。
一瞬、呆けたような顔をした彼だったが、ぐっと奥歯を噛み締めるような、険しくも泣きそうな顔になった。
「きゃ……! リーベス……?」
急に伸びて来た彼の手に、ぐいと勢いよく腕を引かれて。
私はぽすりと彼の執事服の胸元に閉じ込められた。
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