前に進むには
「へ、変じゃないかしら。なんだか視界が変よ。眩しすぎるわ」
「ぜーんぜん変じゃないですよ! とっても可愛いです〜。ね、プルーニャさん!」
鏡の中の私は、まるで違う人物のよう。
なによりも、自分の顔がここまではっきりと見えるのはいつ以来だろう。
背後には得意げなモモコと、満足そうなプルーニャがいる。
プルーニャの手には、今の今まで使っていた鋏がしっかりと握られている。
モモコの提案で、私はなぜか前髪を切ることになった。恋の病になったら、女の子には可愛くなる魔法がかかるなどと言っていたけれど、その意味はわからない。
ただ、碧色の私の瞳が、誰の目にもはっきりと見えるようになったことは確かだ。
「やっぱり、お義姉さまは絶対美少女だと思ってたんですよ……。わたしのセンサーに間違いはありませんでした」
腰に手をあてているモモコは、うんうんと頷きながら鏡の私をじっと見ている。
元々、眉のあたりで切り揃えられているモモコの前髪と、同じような見た目になったような気がする。
それに今日は、いつも着ている作業着用のくすみ色ワンピースは取り上げられ、よそ行きのような可愛らしい若草色のものを着せられている。
朝からやけに気合いの入ったメイドたちとモモコに押されて、あれよあれよと今に至る。
「……恥ずかしいわ」
「んんっ! 恥ずかしがるお義姉さまもとても良きです……」
羞恥心から私がそう呟くと、モモコは咳払いをしてごにょごにょと何かを言っている。
そんな彼女を不思議に思いつつ、私はもう一度鏡の中の自分に視線を向けた。
お母様と同じみどり色の瞳と、お父様に似た濃い茶色の髪。
そしてその少女は、無表情にこちらを見返している。
「じゃ、わたしはリーベスさんの待てを解除してきまーーすっ」
「! モモコ、あっ、ちょっと待って」
いつも自分の顔はあまり見ないようにしていた。
どうしても、両親のことを思い出してしまうから。
素早く部屋を出るモモコを止めようと慌てているわたしは、鏡の中の少女の頬に赤が差すのが確かに見えた。
◇
「じゃ、リーベスさん、わたしは所用がありますので!」
リーベスを呼んで来たモモコは、そう言うと風のように去っていった。プルーニャたちも一緒だ。
「……何なのですか、モモコ様は。……っ」
怪訝そうに扉の方を見ていたリーベスの視線が私に向く。
彼に見られていると思っただけで、じわっと頬が熱くなるのを感じる。まだ体調が悪いのだろうか。
彼の方を見ることが出来ずに、視線は足元をさまよう。こんな時に限って前髪のカーテンもないのだ。視界を遮るものが何もない。
「メーラ、様……?」
戸惑うような声と共に、彼の足が一歩、こちらに進むのが見えた。
――この心臓の痛みも、頬の熱さも、全てが「恋の病」という症状なのだとしたら、これは厄介だ。
仕組みを解明して、この症状を和らげるような道具を作らないといけないのではないだろうか。
リーベスの瞳には、私はどう映っているのだろう。
モモコたちが言うように、少しでも「可愛い」と思ってもらえているのだろうか。
以前は忌々しくも思っていた自分の容姿が、こんな形で気になって仕方がないのは、初めてのことだった。




