メローネ伯母様とペスカ
カミッラに誘導されて着いた先は、庭園だった。
ちょうど門から入ってきてエントランスへ向かうウーヴァと、別邸から出てきた伯母様が鉢合わせになってしまったらしい。
「ウーヴァ様も事前に来訪の話が無かったもので、一度お嬢様に確認をと思い、庭園を散策していただくことにしていたのです。そうしましたら……」
「いいのよカミッラ。あなたたちが悪い訳ではないもの」
足早に進みながら状況を説明するカミッラに、私はそう告げる。
まさかここでウーヴァとメローネ伯母様が会ってしまうなんて、誰も想像はつかないだろう。
慌てて工房を飛び出した私の後ろには、しっかりとモモコもついてきている。
そうしている内に、男女の言い争うような声が聞こえて来た。
伯母様とウーヴァ、二人の姿もはっきりと見えてくる。
「……この詐欺師! 貴方にはすっかり騙されたわ! そんなみすぼらしいなりで、よくここへ顔が出せたわね!」
顔を真っ赤にした伯母様は、前回同様に平民のような格好をしたウーヴァを激しく責め立てている。
「貴方のせいで! 可愛いペスカも変になってしまったわ。貴方のやったことが、ペスカの心を蝕んだのよ!」
久々に彼女の毒の言葉を聞く。
なにもかもを人のせいにする。それは私だったり、お父様だったり、使用人だったり。
きっと私たちが到着する前にも、罵倒されていたであろうウーヴァは、ただしっかりと前を向き、その言葉を受け止めている。
「貴方のせいで、何もかも終わりよ……! わたくしがこれまでやって来た事が、台無しだわ!」
「――伯母様、いい加減に……」
いくら言っても、腹の虫がおさまらないのだろう。いい加減に止めようと、ようやく近くまで来た私が声を掛けようとした時、メローネ伯母様が右手を振り上げるのが見えた。
危ない、私がそう思った時には既に遅く、その手は振り下ろされていた。
パァンという、乾いた音が、いやに静かな庭園に響く。
「な、ぺ、ペスカ……?」
「ペスカ、どうして」
私の目の前では、ウーヴァを庇うように立ったモモコが、頬を赤く腫らしていた。
伯母様もウーヴァも、驚愕の表情のまま固まっている。
「お母様。そうやって、うまくいかないとすぐに手をあげるのは悪い癖です。ペスカの事も、陰でよくぶっていたでしょう」
この低い声が、あのモモコから発せられているとはとても思えない。
顔を上げたモモコは、じっとりとメローネ伯母様を睨みつけている。
「……ずっと、ペスカは貴女の支配下にいました。言われたように振る舞って、一緒になってお義姉様に八つ当たりをして」
噛み締めるように、モモコは言葉を紡ぐ。
また以前のように、ペスカの記憶が彼女に混じり合っているのだと、何故か自然とそう思える。
「貴女が……お母様がそんなだから……! あの日、ペスカは絶望で倒れたんです。貴女の願いを、叶えてあげられないからっっ!!」
ぶわり、と。
また彼女の瞳から涙が流れる。モモコはまた、ペスカのために怒っているのだろう。
「モモコ。早く冷やさないと腫れが残ってしまうわ。邸に戻りましょう。カミッラ、ウーヴァを応接間に案内してくれる? 伯母様は別邸にいてください」
「うわあぁん、おねえさまぁ〜!!!」
モモコに駆け寄ると、彼女はようやく縋るものを見つけたように、私に抱きついて来た。
私は、ずっと義妹が――ペスカのことが苦手だった。
可愛い顔をして、私に意地悪をする。でもお父様の前では、しおらしく、可愛い妹に徹する彼女が。
私の物を奪っていく彼女が。
だけど今は、彼女だけが私の唯一の家族のように感じている。
私は彼女の赤く腫れた頬に手を当て、ひやりとした冷気を送ったのだった。
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