フォンデュという食べ物
翌日。私とモモコは工房に来ていた。
昨日のお茶会の時に、モモコがぽそりと呟いた『ふぉんでゅ』とやらを作るためだ。
まずは、前回同様にモモコがさらさらと絵を描いていく。
相変わらず、上手だ。
「こーんな感じで、小さいお鍋があって、ここでチョコレートとかチーズとかを溶かしながら、パンとかに絡めて食べるんですよ」
「卓上コンロのようなものかしら……でも随分と小型なのね」
モモコの絵には、陶器のような素材でありながら、ころんと小振りなフォルムの卓上鍋のようなものが描かれている。
この世界にも卓上コンロはあるが、かなり大きい鍋に対応するもので、こんな可愛らしいサイズのものはない。
鍋もシンプルなものばかりだ。
そもそも、調理器具にデザイン性はあまり求められていなかったのかもしれない。
私がまじまじと彼女のデザイン画を眺めていると、嬉しそうな声が横から入ってくる。
「色も赤とか茶色とか……黄色とか深い緑も可愛いんですよ〜! わたしもお母さんと選ぶ時、結構悩みましたもん」
「そうなのね。実用的なものばかりで、こういうデザインにこだわったものはあまり見た事がなかったわ。……下のコンロ部分と、小鍋はぴったりと重なるようなものがいいのかしらね」
「あっ! そういえば、このちっちゃい鍋で、揚げ物もやってました。串に刺したひと口大の具材を揚げて……揚げたてを食べると美味しいんです」
嬉しそうに笑うモモコの中には、それでその「ふぉんでゅ」や「クシアゲ」を楽しんだ記憶があるのだろう。
……彼女が先程言っていた「お母さん」は、きっとメローネ伯母様ではない。
ざっと眺めて、頭の中で構想を練ってゆく。
カラーバリエーションがある小鍋。これまでにない観点で作り上げるこれは、きっと、素敵なものになるだろう。
既存の大型のものを軽量化し、デザイン性を高める工夫をする必要がある。
きっと厨房に参考になるものがあるだろう。
それを改良する事から始めたら良さそうだ。
「じゃあ、最初の鍋はモモコの色にしましょう。桃色もきっと可愛いわ」
「お義姉さま、どこまで天使なんですか……!」
「せっかくだから、赤や緑も作ってみましょう」
「絶対可愛いです!」
モモコと笑いながら、新しい調理器具の作成に取り掛かる。
彼女は道具を作ることは出来ないのでつまらないだろうと思っていたが、私が製作する横で、絵を描きながらにこにこと楽しそうにしている。
ちらりと覗くと、「チョコレートフォンデュ」や「チーズフォンデュ」の絵が美味しそうに描かれている。
昼食後にまた二人で工房にこもっていた所で、慌てたようにメイドのカミッラが駆け込んできた。
お茶の時間にはまだ早い。
「メーラ様! 大変です」
「まあ、どうしたの? そんなに慌てて」
彼女に返事をした私もそうだが、隣のモモコもぽかんとした顔をしている。
続くカミッラの言葉に、私たちはさらに驚いてしまう。
「――ウーヴァ様がお嬢様たちを訪ねていらっしゃったのですが、あの、ちょうどメローネ様と遭遇してしまい……その」
歯切れの悪い彼女の言葉は、何か良くないことが起きている事を物語っていた。
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