ふたりだけのお茶会
「お義姉さま! 誘ってくれてありがとうございます」
「いらっしゃい。モモコ」
私はモモコを午後のお茶に招待した。
相変わらず、人の良さそうなにこにこの笑顔で私の元へと駆けてくる。
ひとりで、知らない世界で、戸惑いも多かっただろうと思うけれど。
周囲を照らすような彼女の底抜けの明るさは、きっと天性のものなのだろう。
その証拠に、彼女にここまで付き添ってきたメイドたちも、揃って笑顔だ。
「ここでの暮らしには慣れた?」
ここで長年暮らしてきた、ペスカの容貌の彼女にそう聞くのも不思議な感じがする。
そう思いながら問いかけると、彼女はまた花が咲くように笑う。
「はい! 最初はいろいろ戸惑いましたけど、魔道具も便利だし、カミッラさんもジーナさんも、それに最初は怖いと思った爺やさんもみーんな優しいです」
「良かったわ」
「……ちなみにあの、爺やさんって、『セバスチャン』って名前だったり……します?」
何故だか声をひそめたモモコは、よく分からない質問をしてくる。
彼の名前はアルデュイノだ。そう教えると、あからさまにがっくりと肩を落とした。
「定番なのに……」と呟いているが、きっとこれはいつもの前世のアレなのだろう。
私も少し、モモコのことが分かってきたように思う。
それに、メイドの名を親しげに呼ぶなんて、以前のペスカからしたら考えられないことだ。
そんなことを考えていると、プルーニャがワゴンを押しながらお茶とお菓子を持って来てくれたようだった。
その様子を見ていたモモコは、不思議そうに首を傾げる。
「――あれ? 今日はリーベスさん、いないんですか?」
「ええ。リーベスはいつもこの時期はまとまったお休みを取るの。戻るのは三日後よ」
「そうなんですね。それは、寂しいです……。萌えが不足しちゃう……」
「え? なあに?」
「いえっ! なんでもないです!」
彼女の呟きの最後の方がよく聞こえず、聞き返したが、モモコは慌てたように手を振った。
(寂しいと、聞こえたわ。モモコはリーベスに会いたいのかしら)
そう考えると、何故だか息苦しくなったような気がして、それを不思議に思いながら私はプルーニャが淹れてくれた紅茶を飲んだ。
今日のお菓子はクッキーで、一枚一枚に、白い砂糖で繊細な花の模様が描かれている。
「わあ……めっちゃ可愛いですねぇ! アイシングクッキーってやつですね。リーベスさんの置き土産ですか?」
「いえ、これはプルーニャが作ったのよ。彼女は手先が器用なの。刺繍も得意なのよ」
「ええっ⁉︎ あ、いえ、素晴らしいですね……?」
そばに控える屈強なプルーニャと、繊細なお菓子を何度も見比べているモモコは、小動物のようだ。
明るくて、可愛らしくて、ずっと見ていられる。
リーベスがいない間は少し退屈な気持ちになるのだけど、今回はモモコのお陰でその気持ちも薄らぎそうな気がする。
ふと、窓の外を見上げる。
空には、白っぽく掠れた月が浮かんでいる。
「あーっ、明日は満月なんですねぇ。この世界でも、空の感じはわたしの世界と一緒で嬉しいです」
「そうね。この感じだと、確かに明日は満月だわ」
私に倣って空を見上げたモモコは、嬉しそうに声をあげる。
空の月は、ほとんど丸い形をしていた。




