従者は所用があります
あの後、爺やたちと話をして、モモコとメローネ伯母様の件については保留になった。
モモコのお世話を担当しているメイドたちも揃って彼女のことを擁護しているし、やはり第三者から見てもモモコは性善であるらしい。
つまり、暫くの間彼女たちはこの邸に滞在することになる。
まだよく分からないので、モモコと伯母様の居室は分けたままだ。
あれから本邸に全く顔を出す事がなくなった伯母様だけれど、別邸では以前通りに暮らしているらしい。
「では、お嬢様。行ってまいります」
「ええ。リーベスも気をつけてね」
そして、毎月恒例のリーベスのお休みの日がやってきた。
彼は決まって月に三日、休暇を取って邸から離れる。
何やら家業の手伝いがあるとのことで、毎度のことなのでもう慣れたものだ。
「色々と気になることがあるので、お側を離れたくないのですが……」
「リーベスは心配性ね。大丈夫よ。リーベスのお家も貴方の帰りを待っているのだから」
心配そうな顔をして私を見下ろす彼を安心させるために、彼の右手を取る。
両手で包み込むようにすると、一瞬だけぴくりと指先が動いたが、そのまま私のされるがままになっている。
「……お嬢様。俺がいない間は研究は程々になさってくださいね。寝食はしっかり取ってください。また倒れないように。それと、俺の休暇中の代わりは、プルーニャが務めますので。それから――」
「ふふ。私ももう成人したのよ? 前みたいに倒れるなんてことはしないわ。夜更かしは、ちょっとするかもだけど」
口酸っぱく言ってくるリーベスに正直にそう答えると、彼は低い声音で「メーラ様?」と私の名を呼んだ。
確認するような、窘めるような口調だ。
確かに以前、ずっと工房に篭りっぱなしになって、睡眠不足で倒れていたことがあった。ほんの一、二年前の話だ。
血相を変えて部屋に飛び込んで来たリーベスは、その日から一層私の世話に力を入れるようになった。
「わかったわ。そういえば、湯浴み中に寝てしまって貴方を驚かせたこともあったものね。気をつけるわ」
「……っ、そ、そう、ですね」
そう約束すると、彼の頬はぶわりと赤みを帯びる。
その頬に触れようとした手は、リーベスの左手にぱしりと受け止められた。
「とにかく! 無理はなさらないでください。モモコ様とお茶会をするのもいいかと思います。また新しい道具が思いつくといいですね」
「そうね。また作戦会議をしなきゃ」
リーベスと話をしていると、扉がノックされ、そこから爺やが顔を出した。
「うおっほん。そろそろいいですかな? リーベス、出発の時間だ」
口元に丸めた手をあてて咳き込みながら、爺やの視線はリーベスに向けられている。
掴んでいた私の手をゆっくりと離すと、リーベスは礼儀正しく腰を折った。
「……では、メーラ様。今度こそ行ってまいります」
「ええ。いってらっしゃい」
顔を上げたリーベスは、どこか名残惜しそうな表情を浮かべながら、爺やの後に続いてこの部屋を出て行った。
三日後にはまた戻ってくるのだから、寂しくはない。
……そのはず。
彼がいなくなって、なんとなく心細くなった気がして。
私はその気持ちを振り払うように首をふるふると振るのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ブクマや感想、⭐︎評価をいただけるととても喜びます!




