* 普通じゃないぼく(ウーヴァ視点)
「どうしてなのかしら……私が妊娠中に体調を崩したのが原因なんだわ」
「お前のせいじゃない。医者もそう言っていただろう」
「でも! あんな……あんな"魔力なし"で、この先どうやって生きていくというの⁉︎ 一族の恥と言われてしまうわ! ウーヴァは、落ちこぼれのあの子は、貴族としてやっていけないわ……」
「………落ちこぼれ、か」
夜中に目を覚ますと、部屋は真っ暗だった。
なんとなく寂しくなって、ぼくは廊下に出た。
そこで、おかあさまを探していたら、ふたりの部屋から光が漏れていた。
(よかった、おかあさまも起きてる)
嬉しくなって、足早にその部屋に向かう。声も聞こえてくるから、まちがいない。
おかあさま。
そう、声をかけようとした。
でも、部屋から聞こえたのはぼくの話で。
おかあさまは泣いていた。
落ちこぼれ。一族の恥さらし。
ぼくは、どきどきする心臓おさえながら、部屋に戻る。
布団にくるまって、朝をまつ。
全然ねむくならなくて、頭の中にはおかあさまとおとうさまの会話がぐるぐると回っていた。
◇
「おやウーヴァ、どうしたのかね」
「おじいさま……ぼく、ぼく……」
翌朝、ぼくはおじいさまの部屋を訪ねていた。
ケルビーニ伯爵家の当主さまであるおじいさまは、優しくて、おひげがかっこいい。
おかあさまたちに会いたくなくて、ぼくはおじいさまの所に逃げ込んだのだ。
「ぼく、どうして魔法がつかえないの? おちこぼれだと、いきていけないの? ぼく、おかあさまたちを困らせたくないのに……」
ふたつ年上の7つの兄は、ぼくと同じ5つのときには火属性の魔法を扱えるようになっていた。
家庭教師もついて、コントロールを学ぶのだ。
だけどぼくは、生まれた時からそのそしつがない。
魔法がつかえないのだ。
おじいさまの膝に抱きつくと、なみだがぽろぽろと溢れた。
「……ウーヴァ、大丈夫だよ。顔をあげてごらん」
頭に載せられた大きな手に、ぼくは顔を上げた。
おじいさまがにっこりと微笑んでくれている。
「この世には魔道具というものがあってな。魔法が使えない人でも扱えるように改良している人もいるんだ。私の友人なんだがな。一度、遊びにいってみるかな?」
「まどうぐ? ぼくでも使える?」
「ああ。私がウーヴァのために、特注の魔石を用意しよう」
「わあ! うれしいなあ」
おじいさまが連れて行ってくれたのは、親友だというベラルディ伯爵家だった。
そこでぼくは、魔道具を使うためのきらきらの魔石と、メーラという同い年の女の子と出会った。
そしてしばらくすると、その子はぼくの婚約者になったのだ。
◇
今は亡き祖父が親友のベラルディ伯爵と共にあつらえてくれた魔石は、それから十年の月日が流れても、その効力が衰えることはなかった。
僕は無事に成人を迎えることとなる。
学園では、勉学に励んだ。マナーも教養もしっかり学んで、魔法が使えないことを補おうとした。
幸いにも僕が"魔力なし"であることは周囲にバレなかった。
貴族なら魔力がある。それが当たり前過ぎて、まさか魔力がない人間が潜んでいるとは思わないのだろう。
そのことに安心すると同時に、僕は毎日ずっと露見することが恐ろしかった。
卒業すると、次はメーラとの婚姻がある。
僕を厄介払いしたい両親は、しきりに婚姻を急かしてくる。
そうすると、僕はまた悪夢に魘されるようになった。
『……魔力なしだわ。どうして私の子が……!』
そう嘆いているのはメーラだ。
落ち着いていて、これまで兄妹のように友人のように育って来た彼女は、魔力も豊富で、とても優秀な人だ。
そんな彼女が、泣いている。
これは夢だ。あの穏やかなメーラが、そんなことを言うはずがない。
そう思うのに、怖くて仕方がない。
魔力がないと、魔道具は作れない。
ベラルディ伯爵家の爵位を継いだ彼女の後継に、その技術が受け継がれることはない。
ああ。僕は。
魔力なしの僕は、彼女の将来を邪魔してはいけない。
貴族にしがみついているから駄目なんだ。市井に出て、もうきっぱりと平民になる方が、きっといい。
「まあ、ウーヴァさま、どうしましたか?」
ベラルディ伯爵家の庭園で佇んでいた僕に声をかけて来たのは、愛らしい表情で話しかけてくる、メーラの義妹となったペスカだった。
「……少し外の空気が吸いたくて。ペスカもお散歩かい?」
「本当は、ウーヴァ様のお姿が見えたので、慌てて駆けてきたのですわ。……一緒にいても、いいですか?」
頰を染めながら、上目遣いをする彼女の瞳は、きらきらとしているようで――その奥が濁っている。
「……うん、いいよ」
それがまるで僕みたいだと、思った。
お読みいただきありがとうございます。
感想楽しく読ませていただいています(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾




