推しは尊い
少し短めです。
「……うっ、あああ眩しすぎて直視できないっ! 無理ぃぃぃ!」
暫く顔を上げてウーヴァを見つめていたかと思うと、モモコは奇声を発しながらまた勢いよく顔を伏せてしまった。
有り余った勢いで、ごつりという鈍い音が聞こえる。
もしかしなくとも、テーブルに額を強かに打ちつけてしまったようだ。
「だ、大丈夫か!? メーラ、ペスカは何か悪い病気なのではないか? 顔色も悪いし、何やらおかしな事を言っていたが」
血相を変えたウーヴァが私に問うけれど、私だってモモコの奇行にはまだ慣れていないのだ。聞かれても困る。
「……モモコ様は、『オシを直視するのは無理』と仰っているようです」
耳を澄ませていたらしいリーベスが、モモコの呟きを私たちに丁寧に伝えてくれる。
オシ。さっきも言っていたけれど、まるで分からない。
「……とまあ、こんな感じなの」
とりあえず、彼女の様子が以前と違うことが伝わっただろうか。ざっくりと判断をウーヴァに委ねてみる。
「全く分からないが……これは、メーラたちがペスカのことを別の名前で呼ぶ事と関係があるのか?」
「ええ。彼女の中には、『モモコ』というペスカとは全く異なる人格があるようなの。だから……貴方にも知っていて欲しいと思ったの」
「そう、なのか……」
困惑した表情のウーヴァは、痛ましいものを見る目で突っ伏したままのモモコを見つめた後、「紅茶のお代わりを入れよう。すっかり冷めてしまった」と言って席を立つ。
彼のその様子をなんとなしに眺めていた私は、違和感を持った。
彼が使っているのは、魔道具のポット。
魔力を流せばお湯を沸かしてくれる優れもので、うちの父が発明し、大ヒットになった品だ。
それはいいのだけど、不思議に思ったのは、ウーヴァが着ているシャツの袖口から、ちらりと魔石がついたバングルが見えたからだ。
――魔石を装飾品として身につけるのは、魔力がない人だけ。そう学んだ。
魔力が込められた魔石を使う事で、魔力なしの者もようやく魔道具を使いこなせるようになるのだ。
貴族であれば、魔力持ち。それもこの世界の常識だ。
だから普通は、貴族が魔石を身につけている事なんて殆どない。
「ウーヴァ。貴方どこか身体の調子が悪いの? 魔力が使えないなんて」
魔力持ちでも、体調を崩せば魔法が使えない事もある。そこに思い至った私は、そう問いかけていた。
そうなんだ、と返ってくると思っていた私の予想は外れ、ぴたりと動きを止めたウーヴァは、ギギギ……と音が聞こえそうなくらいぎこちなくこちらを振り返った。
そして唇を噛むような仕草を見せた後、真っ直ぐに私たちを見据える。
「――僕は、"魔力なし"の落ちこぼれなんだ。この事は、うちの家の者と君のお祖父さんしか知らないけどね」
君や他の者にはバレないようにしていたから。
そう言った彼の笑顔は、美しくも寂しくもあり、悲しくもあった。
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