ウーヴァのおうち
リーベスに案内され、私たちは町外れの一軒家の前に立っていた。
話には聞いていたが、こんなところに、あのピカピカ貴公子のウーヴァがひとりで暮らしているなんて想像がつかない。
「あ、トマトが美味しそう……!」
家の前にある畑では、たわわに実ったトマトが存在を主張している。
それを見て、モモコは感嘆の声をあげた。
「リーベス、本当にこのおうちでウーヴァが暮らしているの? 誰かと住んでいるのではない?」
「いえ、確かにおひとりでした」
なんだか全然しっくり来ない。
私が知っているウーヴァとは、結びつかない。
「ーーなんだ、朝から騒がしい……。もう、届けてもらう物はない筈だが」
扉の前でわちゃわちゃと話していた所、唐突に扉が開かれる。
そこから不機嫌そうに出てきたのは、見たことがない無造作な髪型と軽装のウーヴァだった。
「なっ……! メーラと従者、それにペスカ……!」
私たちの姿を順番に確認したウーヴァは、そう言って言葉を失う。
一応お忍びのようなものなのでフード付きの外套を着ていたのだが、私たちのことは即座に認識出来たらしい。
「久しぶりね、ウーヴァ」
以前からそんなに頻繁に会っていた訳ではないし、あれからそこまで日は経っていないから久しぶりでもないのだけれど。
色々な事があったために、随分と間が空いてしまったかのような気になる。
「どうして、ここに……」
「それはこちらの台詞よ、ウーヴァ。どうしてこんな所にいるのよ。家を出たというのは本当なの?」
「それは……」
ウーヴァは戸惑いながらも、視線はちらりとモモコの方に向ける。
やっぱりペスカと何かあったのだろう。
だが彼女はほとんど何も覚えていないのだ。その事も、説明しないといけない。
「ウーヴァ様、お久しぶりです。お嬢様たちの事を考えると外で話すのもどうかと思いますので、中に入れていただいてもよろしいでしょうか?」
私の前に一歩出て、淡々とリーベスが告げる。
いくらか逡巡したような様子のウーヴァだったが、最後には「分かった。どうぞ」と私たちを中に迎え入れてくれた。
「さあ、行くわよ。モモコ。……モモコ?」
家の中に入ったウーヴァに続いて家に入ろうとした私だったが、伯爵家を出る前はあんなに大騒ぎしていたモモコが、すっかり黙りこくっている事に気付いた。
全く動かずに立ちすくんでいる彼女の前に、手をかざしてひらひらと動かしてみる。
呆然とした様子だったモモコは、私のその行動にハッとしたように目を見開いた。
「……おっ、お義姉さまっ!」
ひそひそ声ながらも、興奮を抑えきれない様子のモモコが私にひしと駆け寄ってくる。
「えっ、えっ、あれがウーヴァさんなんですか? うっそ、記憶よりマジでイケメン……! えっ、王子様とかじゃなく? まじ? あんな人が婚約者……? めっちゃアンニュイ……ひぇ……! ていうか最推し様にめちゃくちゃ似てる………!!」
またいつもの変なモードになったモモコは、頬を紅潮させながら早口でそんな事を言っている。
アンニュイやオシとはなんだろうか。
「モモコ様、早くお入りください。メーラ様も」
「え、ええ、分かっているわ。ほらモモコ、シャキッとしなさい」
「はいぃぃぃぃ!」
リーベスに急かされた私たちは、慌てて家の中に入る。
思わず見回してしまったが、想像したよりも、ずっとシンプルな室内だ。
「……狭い家だが、とりあえずそこに座ってくれ。紅茶でいいか? こんな家だが、この紅茶はわざわざ伯爵家から持って来られた物だから質はいいはずだ」
言われるがままに、ダイニングテーブルのような所に腰かける。
その間もウーヴァは手際良く準備を進めている。
(これが……ウーヴァ? 私が知っている彼とはまるで違うわ)
隣に座るリーベスも、驚いたような表情を浮かべている。
貴族子息であった彼が、自ら紅茶を入れる機会などなかったはずだ。
現に私は、絶対に出来ない自信がある。
てきぱきと私たちの前には香り立つ紅茶が並べられる。美しい褐色の水色だ。
「推し様の淹れてくれたお茶……尊過ぎて飲めない……!」
さっきからずっと俯きがちなモモコは、まだそんな事を言っていた。
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