12話:火の国で④ セレナイトとファイアドラゴン
「呼ぶって、どうやってあんな魔物をここに呼ぶって言うんっすね!?」
「問題ない。アレは私に助けを求めている。私がアイツに応えればここに来ることは間違いないだろう」
「わざわざ街に呼ばなくても、それこそ兄貴かオレが背負って神子様を火山まで運べばいいっすね! そうしたら街への被害も少なくて済むっすね!!」
「そうだな。だが、その場合は私も只では済むまい」
「どういうことっすね?」
「城の外に出て確信した。今朝から感じていた息苦しさの正体は恐らくあの火山から出ている。あそこで戦えば、負けずとも私も相応の深傷は負うだろうな」
「って事は、さっきまでそれを承知で一人で行こうとしてたんで? ハァ……本気に頭が固いですぜ」
今度はやれやれと言わんばかりに兄の方が首を降ったが、それを鼻で笑って返してやった。
「だが貴様が言ったのだ『手段を選ばない覚悟』。精霊の問題であるのなら、神子である私が全て解決しなければならないと……貴様ら人間の力など借りん、と思っていたが気が変わった。街でなら万全とは行かなくともそれなりに戦えそうだからな」
「手段を選ばない覚悟って……兄貴なに言ってるんっすね!」
「いや~神子様があまりに強情だったんで、ツイですぜ♪」
「逃げたタンビュラを捕縛しに来てみれば……この街にドラゴンを呼ぶやと!? ふざけんな!! この街を滅ぼすつもりなんか!!」
城から出てきた王女がそこに立っていた。彼女の周りには彼女の怒りに呼応する様に炎が揺らめいていた。
「王女か、邪魔をするなら容赦はしない。私はドラゴンが……いや、あの精霊たちが救えればそれでいい。街を守りたければ一撃であのドラゴンを倒せるように邪魔せずにいろ」
「邪魔……やと」
こんなやつにかまっている時間が惜しい。王女にそれだけ伝えるとすぐさま双子に指示を出した。
「まず、弟の方は水の精霊と共に大量の水を作り出せ。兄の方は街にある水の精霊石を片っ端から集めて水を用意しろっ!!」
「オレ、水をただ用意するだけでいいんっすかね? 戦ったり、精霊術使ったり」
「必要ない。……一撃だ、苦しむ事のないように一撃であのドラゴンを眠らせてやろう」
本当は元の……精霊の姿に戻せるのであればそうしてやりたかったが、今の私はその術を持たない。だったらこれ以上苦しむ事のないように眠らせてやろう。
「「りょーかい」」「ですぜ」「っすね」
兄の方は急いで街へと駆け出した。
「で、エルフの嬢ちゃん。俺様は何すりゃあいいんだぁ?」
「何を言ってる! タンビュラ、貴様に自由なんて与えん!! 今、ここで」
「黙れ」
うだうだと何かを叫ぶ王女の足元に鋭く尖った石の礫を突き刺すと王女は一歩後ろにたじろいだ。
「言ったはずだ。邪魔をするようなら容赦はしないと……」
王女は何か言いたげに私を睨みつけたが、下唇を噛みそのまま黙った。
「海賊、貴様あのドラゴンの周りを飛ぶ物が見えるか」
「そりゃ船乗りだからな目はいいがよ。なんだありゃ、鳥か?」
海賊は私が指さしたドラゴンの頭上を飛ぶ小さな飛行物体を鳥と言い当てた。
「おそらく炎を纏った鳥……ファイアバードと言ったところか。ドラゴンを呼べばあれらも街に来るだろう。私はドラゴン、貴様はあの鳥を倒せ……出来るだけ一撃で、だ」
「ってもよ、俺様手は拘束されてておまけに愛用の大剣も取られちまってるんだぜ?」
頭をかきながらニタニタと笑う顔は大変不快ではあったが、やむ終えない。私は地面に手をかざし一本の大剣を造り出すとそのまま海賊へと投げ渡した。
「即席だが使えないことはないだろう。手枷は……自力でどうとでも出来るだろう?」
男の体つきを見ると歳の割にはがっちりとしており、手首につけられた手枷がまるで玩具に感じた。おそらくちょっと力を入れれば壊れるに違いない。しかし、海賊はあえてそうしていないように見えた。
「仕方ねぇな、ずっと大人しく閉じ込められてたからな、準備運動がてらやってやろうじゃねーか」
海賊が首や肩を回すと、問題ないと言わんばかりに体をバキバキと鳴らした。
そうこうしていると街へ駆け出して行った兄の方が両手に水の精霊石を抱えて戻ってきた。
「神子様〜、水の精霊石集めてきやしたけど、やっぱりこの国じゃ貴重らしくこんなもんしか集まりませんでしたぜ?」
全部で六つ。確かに心許ないとは思うが仕方がない。
「構わん。その精霊石にありったけの魔力を注いで水を作れ! 急げ!!」
「はいはい、りょーかいですぜ。いやー吹っ切れたら神子様、人使い荒いですぜ」
「何か言ったか」
「いーえー、何にも言ってないですぜ?」
兄の方が水の精霊石に魔力を流すと大量の水が湧き出した。
「神子様! こっちも準備できたっすね!!」
叫ぶ弟は両手を高くかがけて、その上には小さな池ほどの水が浮いていた。
「多少心許ないが、これ以上あのドラゴンを苦しめては置けないからな……」
再び火山に目を向け、ドラゴンの瞳を真っ直ぐ見つめた。ドラゴンの意識が私に向いているのがはっきりとわかった。
一度、大きく息を吐きゆっくりと大きく吸い込んだ。
「───来いッ!!」
“グォオオオオオオオ!!!!”
応えるようにドラゴンの叫びが街中に轟いた。
背中に生えた翼を大きく広げて、真っ直ぐこちらに向かってくる。
──あぁ……本当にすまない。
知っていたのに、本当はこうなる前に守ってやりたかった。
自分が不甲斐ないせいで……そんな風に苦しめることになってしまった。
どうかいたらない私を赦して欲しい。
もう二度とこんなことは起こさせない……。
私の命に変えてもお前たち精霊を救って見せる……その為にもう手段は選ばない。
アナタたち精霊が平和に暮らしていけるように……。
何を犠牲にしようとも、必ず。
ドラゴンが大きな口を開けて飛び込んでくる。残りの距離は、ほんの十数メートル。
「────安らかに、眠れ。大渦」
魔力を全て注ぎ、呪文を唱え魔法を一瞬で構築する。用意された水がみるみる集まり大きな渦となりドラゴンを飲み込んでいく。大渦の中央に捕らえられたドラゴンはその巨体の自由を奪われ回転していた。
「受肉してしまったからには、酸素がなければ生きては行けまい」
「危ないっすね!!」
視界の端に一匹のファイアバードが私、目がけて飛んできたのが映った。
──今ここで術を解いたら無駄にドラゴンを苦しめるだけだ。
避けもせずただ術に全神経を注いだ、心配はいらないだろう。
私のすぐ横を大きな風が駆け抜けていき、ファイアバードの首がバッサリと落ちていった。
「見事な物だな、海賊」
「いいや……歳はやっぱり取りたくねぇな。また威力が落ちちまったぜ」
大剣を携えた海賊が大剣を振ると斬撃が次々と飛んでゆき、次々とファイアバードを撃ち落としていった。
全てのファイアバードが撃ち落とされたと同時に大渦の中のドラゴンももうすっかり動かなくなっていた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
今回セレナイト様が使った技。
やってる事は以前、姫琉とアルカナがタンビュラ戦で使ったものとほぼ同じです。違うとしたらセレナイト様のイメージは大渦で一定方向の渦ですが、姫琉は洗濯機なので右に回ったり左に回ったりで一定方向じゃないです。多分、姫琉の方がタチ悪いです。
ではでは次回もよろしくお願いします!
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よろしくお願いします!!
24.5.11修正




