11話:火の国で③ セレナイトと覚悟
日の出と共に目が覚めバルコニーに出た。
城下の方に目を向けると人間の日常が垣間見る事が出来た。
目覚めとともに窓を開けるもの、寝巻き姿で外で体操をはじめるもの、商売の準備を始めているもの、すでに市で商売を始めているものなど様々だ。
昇ったばかりの太陽が大地を照らし清々しい朝。街の様子はいたって平和そのもの……普通の人間にはそう見えるかもしれない。
だが……。
脳裏に一瞬あの占い師の顔が過ぎった。
「気持ちが悪い……」
客人をもてなすようの朝餉を前にして思わずそう呟くと、目の前に座っていた双子の兄の方がそれらを口に運びながら首を傾げて私を見た。
「ちょっと独特な味ですが美味しいですぜ。なんです、食事が口に合いませんでしたか?」
「戯け、その様なことではない。ッ……貴様は何も感じないのか……?」
しかし目の前の人間は「なんの事か」と言わんばかりに首を傾げた。
──これだから人間は……。
日の出とともに街を漂う魔力が、昨日までと明らかに変わった。人間には気づけないかもしれないが、その変化は明らかで、昨日までは街にいた精霊達が身を潜めている。ここが自分たちの居場所ではないかのように……そして、私自身もここが自分が生きていけない場所のような息苦しさを感じていた。
「あ、そういえばギンの奴は身の潔白が証明されたらしくこの後合流出来そうですぜ。それとその話と一緒にさっき火山に入れる通行書は頂いたんですが、神子様の具合が悪いならオレたちで見てきますぜ?」
「問題ない。通行書があるならすぐに行くぞ」
「そんなに急がなくても。ギンがまだ来てないですし、もしヒメル嬢が言った通り魔物と戦うなら戦力は多い方がいいですぜ、って……!!!?」
「な、……なんだこれは…………ぐッ……!」
突然、息苦しさの正体が噴き出したかの様に辺りに充満した。それは先程まで何も感じていなかった人間にも感じる事が出来たらしく奴は口を抑えて顔を青くしていた。
更に次の瞬間、地鳴りと共に地面が大きく揺れた。
「地震ですぜ!?」
「ハァ……ハァ……一体、何が起こったと言うのだ」
揺れがおさまったのも束の間、突然外が騒がしくなりそれに合わせて部屋の扉が勢い良く開けられた。
「すぐに避難してくださいっ! 火山が噴火して巨大なドラゴンが現れたんです!!」
「ドラゴンだと?」
重たい身体を引きずりながら城を出て噴火した火山に目を向けた。空は黒い煙が上がり黒く覆われ火口からは真っ赤なマグマが流れ出ている。そして、火口にありえないものが見えて目を疑った。煮えたぎるマグマをもろともせず、真っ赤な鱗を身に纏った巨大なドラゴンがそこに佇んでいた。
平和だった街は一変して、逃げ惑う人々でパニックが起きていた。
「これが占い師の言っていた精霊暴走か……」
「ってか、ヒメル嬢はアレと戦う気でいたんで? 本当にあの子は無謀すぎますぜ」
「グォオオオオオオオオッ!!」
ドラゴンが上げた雄叫びがビジビシと街に響き渡った。
──あぁ……そうか…………。
ドラゴンは街を見つめた……いや、違うな。
あれは……私を見ているのだ
ドラゴンの真っ直ぐな瞳が……
「苦しい」「助けて欲しい」と……
神子であるこの私に
助けを求めているのだ
異様な魔力に当てられて体が思うように動かず、前へ出す足がふらつく。
それでも一歩、また一歩前助けを求めるドラゴンに向けて足を進める。
「行かねば……」
「『行かねば』ってフラフラですぜ!? そんなんで火山までたどり着くわけないですぜ!!」
「それでも……精霊が助けを求めているのなら、私は行かなければならない」
「なんでそこまで……」
「私は精霊の神子として選ばれたのだ。それが私の生きる意味だ」
すると突然双子の兄の方が私の前で背を向けてしゃがんだ。
「何をしている……」
「何って、あのドラゴンの所に行きたいならおぶりますぜ? 歩けないんでしょ」
「人間の助けなどいらん!」
「ハァ……神子様はもう少しヒメル嬢を見習った方がいいですぜ?」
そう言うと呆れた表情を私に向けてきた。
納得がいかない、この私があのおかしな占い師の何を見習えと言うのか。
「ほざくな人間、あの占い師より私が劣っていると言うのか……」
「ヒメル嬢なら大切なものの為なら自分がどうなろうと、恥をかこうと手段は選ばなかったですぜ? そりゃもう隊長は脅す。海賊船は奪う。幽霊船は使う。でも神子様は神子として、エルフとしてのプライドばっかりで、覚悟が全然足りないですぜ! そんなことで守りたいものが守れるんですか!! 神子様には大切なものの為に手段を選ばない覚悟が足りないですぜッ!!!!」
「手段を……選ばない……覚悟、だと!?」
それはあまりに衝撃的な言葉で、まるで頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が走った。
今までそんな事を言われた事などない。
精霊を守る為にあらゆる事をしてきた気でいた。あらゆることを考え、調べ、ついにはこうして聖域を飛び出した。
これは“精霊の巫女である私の役目なんだ”と……私だけでやり切らねばならないのだと。
「ふ……フ、フハハハハハ!! そうか、そうだな。手段を選ばない覚悟か。これは盲点だった」
思わず大きな声を出して笑った。こんな風に笑ったのは一体いつぶりだろう? 自分の中にあった何かが弾け飛んだかのように爽快な気分だった。
「えッ! 何があったんすね!? ってか兄貴はそんな体勢で何してるんっすね?」
気がつくと牢獄に捕らえられていたはずの双子の弟の方と巨漢の海賊が立っていた。
「なんだ坊主。ドラゴンにビビって縮こまってたのかぁ?」
「神子様がふらふらなのに、ドラゴンの所まで行くって言うんでおぶろうとしてただけですぜ」
「いらぬ」
「まだ意地を張って」
「だが、代わりにやって欲しい事がある」
「やって欲しい事?」
「あのドラゴンを街に呼ぶ。手伝え!」
さっきまで呆れた表情をしていた兄の方の口角が少しだけ上がった。
「りょーかいですぜ!」
いつも読んでいただきありがとうございます。
ノベプラでやってたHJ小説大賞2次は見事に落ちました、残念。
セレナイト様ですが、カルサイトと一緒で名前で呼ばないのでキンとギンをどう呼ばせるかめちゃめちゃ悩んだ結果、双子の兄の方と双子の弟の方と言う呼び方にしました。
一応
ヒメル→占い師
カルサイト→商人
キン→双子の兄の方
ギン→双子の弟の方
ウッドマン→学者
タンビュラ→海賊
って感じです。
次回、セレナイト様とファイアドラゴン戦です。
そして、ウッドマンさんはどうなったのか……乞うご期待。
評価、感想、レビュー、ブックマーク全部お待ちしています。
よろしくお願いいたします。
24.5.10修正




