10話:火の国で② セレナイトとインカローズ
火の国に着くなり、海賊として人間どもは捕らえられた。
船長であるタンビュラという男が犯したこれまでの罪を述べられれば、致し方ないことだという他ない。人間どもの生殺与奪なんて正直興味はないが、今ここで船を失うのは私としては痛手だった。
仕方なく、捕らえに来た人間どもに自らの身分を明かし「この国にとって大事な話をしたい」と頼んだ。
向こうとしてもエルフの……それも神子とわかり益々私の扱いに手をこまねいていたらしく、いくつかの条件を飲むことで承諾された。
条件は、問題の海賊であるタンビュラと捕まえる際に精霊術を行使して抵抗した銀髪の人間を首都・インカローズにある地下牢への一時投獄。精霊術・魔法の使用禁止。武器の類の没収。それら全てに同意をし、首都インカローズへと赴いた。
国に到着すると案内されたのは王宮にある豪華な客間だった。
飾られている花瓶などの調度品は中々の価値があるものらしく、共に案内された金髪の商人が興味津々にそれらを品定めしていた。その様子を扉の前にいる武装した二人が警戒しながら凝視していた。
「大人しくしておけ。何かしたらお前の弟と同じ様に牢獄に入れられるやもしれんぞ」
「別に、盗もうとか壊そうなんて不届きな事を考えている訳じゃないですぜ? ただ、待たされている間の暇つぶしですぜ」
そう言いながらもそのまま椅子に腰をかけた。
「別に共にいる必要はないぞ? 心配なら弟の様子でも見に行けば良かろう」
「火の国の偉い方と顔見知りになれるチャンスなんてそうはないですから、このまま一緒にいさせていただきますぜ。それに弟には、たまには考えなしに行動することを反省して欲しいので、いい薬ですぜ」
ニコニコと笑いながら言ってのけた。
「なんとも酷い兄だな」
「そんなことないですぜ? オレは弟のことをちゃんと心配はしてますぜ、それに……」
「それに……?」
「いつの間にか消えてたウッドマンさんのことも」
「…………? ……あぁ、あの海藻頭の学者か」
そういえば捕まった時にはすでにいなかった気がするが、あまりに印象がなく気がついてすらいなかった。いなくても問題はなさそうなので、私としてはそのままでも構わないが。
「最初にあった時も行き倒れていたんで、どこかで行き倒れてるんだとは思うんですが……うっかり死んでないかだけ心配ですぜ」
「ハァ……仕方ない。学者は私が精霊たちに頼んで探させよう」
近くにいた風の精霊に学者の特徴を伝えて、見つけ次第伝えて欲しいと頼んだ。
たかが人間の為に精霊にそんなことを頼むのは申し訳ないとは思ったが、幽霊船に乗らずに済んだのはあの学者のおかげでもある。それに、精霊への知識がある人間がいた方が私が気づかない事に気がつく可能性もある。
「さすが神子様ですぜ! そんな事もできるとは、ありがとうございます」
そんなくだらない話をしていると扉がノックされ扉の前にいた男が扉を開く。
そこには、火の国特有の露出の高いドレスを着た女性が凛と立っていた。赤い髪を後ろにひとつに結び、肌は健康的な小麦色は艶がある。その姿はまるで踊り子のようだ。
「お初にてお目にかかります、この国の王女インカローズ・アルヴァと申します」
話し方に特徴的な訛りがあるが、自らを王女と名乗った人間は軽く頭を下げた。
「まさか、この国の王女とは……。私はエルフの国の神子でセレナイト・テオ、そしてこの人間が……」
「お目にかかれて光栄です。キンと申します」
国にとっての大事な話とは伝えたが、まさか王女が自ら訪れるとは思わなかった。と、いうか王女にはとても見えんな。
「そんな畏まらないで構わないわ。あ、それとアンタたちは外で待ってなさい」
王女は犬でも追い払うかのように、扉の前にいた二人をあしらった。
「え!? いやっ……し、しかし……そのような訳にも」
「王女の命令や! それに何かあっても大丈夫、私には火の精霊がついてるんやから」
そう言って二人を扉の外に追い出すとしっかり施錠してこちらを振り返った王女はニンマリと笑っていた。
「火の精霊と契約をしているのだな」
彼女の首元には火の精霊と契約をした印がはっきりと刻まれていた。さらに言ってしまえば彼女を護るように火の精霊が寄り添っているのが見えた。
「ええ、自分が十の時に契約をしました。この国の王族は皆そうするんです」
精霊の様子を見ても悪い人間ではないと確信し、話を切り出した。
あの占い師が言っていた事、この国が管理している大精霊の眠る火山への入山の許可が欲しい事、そして今後の移動手段の為にも海賊船と船乗りを奪われては困ることを王女に伝えた。
「エルフの神子様ともあろうお方が、占い師の言った事を信じてわざわざ我が国まで来たと? 失礼ですが、騙されてるのでは?」
話し方のせいか少しばかり小馬鹿にされている気もするが致し方ないと思った。
「さも当然の意見だな」
私もあの占い師が言った事を全て鵜呑みにしている訳ではない。だが、精霊の魔物化の原因を私自身何も掴めずにいるのもまた事実。しかし……。
「でしたら……」
「私はあの占い師が言った事を信じるて行動することにしたのだ。それが精霊の為になるなら……尚更、な」
「……神子様がそう決められたならコチラから言う事は何もありません。火の大精霊が眠る場所への調査がお望みでしたら、明日にでも入れるように命じておきます。それに船と乗組員に関しても我が国の方で用意させていただきます。ですが、投獄中の海賊タンビュラの身柄に関してはこちらに渡していただきたい」
「ああ、構わん」
「神子様。一緒に捕まってる弟は解放してもらわないと困るんですが」
にこやかに笑っているが何やら圧を感じる。
「ああ……わかっている」
本当はどうでもいいんだが……。
でもあの弟の方は水の精霊と契約をしていたな。しかもあの精霊はあの人間の事をとても好いている様だったな。精霊を悲しませるのは私の本意ではない。
「オレも弟も商業ギルドに登録をしています。そこで身元を確認してもらえれば身の潔白を証明できるはずですぜ」
「ではすぐに確認を取らせます。確認が取れ次第、タンビュラと一緒におる男は明日にでも解放する様に命じます、ですがタンビュラの解放を望むんなら無駄ですよ」
王女は冷たい視線を向けた。
「別におっさんはどうでもいいですぜ。煮るなり焼くなり海に沈めるなりお好きにどーぞ」
「タンビュラは予定通りなら明日にでも絞首台送り。あの男が一体何をしたか知ってます? 自分が育った港町を襲い、金品を奪い、そこに住む民を皆殺しにしたんや! アンタがエルフで、それも神子じゃなければ港で一緒に処刑していたかもしれないわ……。それくらいあの男はこの国にとって許し難い存在なんや!!」
怒りで震わせた手で力強くテーブルを叩いた。その音に気づいた外の人間が扉を越しに王女に無事かどうかを問うと、王女は少しばかり怒鳴るように返事を返した。
「あの海賊の処遇はそちらに任せる。私は人間たちのいざこざなど興味はない……。それよりも問題すべきは占い師が言った通りなら、明日にはこの国は魔物に襲われて滅ぶらしいが警備は大丈夫なのか?」
「父が光の国で行われる鎮守祭に参加するために多くの騎士を警備に同行させてはいますが、問題ありません。我が国の事は、我が国で対処しますので……神子様も長旅でお疲れでしょう。部屋を用意させますので、本日はそちらでお休みください」
「それはすまない。感謝する」
そのまま王女は振り向かずに部屋を後にした。しばらくすると別の人間がやってきて部屋へと案内され、その日はそのまま城で一夜を明かしたのだ。
いつも読んで頂きありがとうございます。
皆様に謝りたいことがございます。
初っ端で姫琉がヒスイの紹介を騎士の父に憧れて騎士を目指す少年……と紹介していたんですが、
ヒスイが憧れたのはお父さんじゃなくオブシディアンです。
ごめんなさいお父さん!!
しれっと訂正しています。本当に申し訳ございませんでした!!!!!
それでも評価と感想、ブックマーク……お待ちしています。
24.5.10修正




