9話:火の国で① ギン兄と牢獄
「慣れって恐ろしいもんっすね、自分達が一体なんの船に乗っていたのかすっかり失念してたんっすね」
そう話し出したギン兄の目が何処か遠くを見ていた。
「ギン兄たちが乗ってった船って………………あ!」
「そうっすね。あの海賊船でそのまま港にはいっちまったっすね……」
「おぅ……」
ここまで聞いただけで、その後の結果が容易に想像できてしまい、思わず両手で顔を覆った。
「あのおっさん、火の国では有名な海賊だったらしくってすぐさま港にいた警備隊に全員もれなく捕まって。首都インカローズにある牢屋にぶちこまれたのが昨日のことで……」
ギン兄は火の国であった事を語り始めた。
◆◇◆◇◆◇
【火の国アルヴァ・首都インカローズ 地下牢獄】
「オレたちは海賊なんかじゃないっすね!! 捕まえるならこのおっさんだけにして欲しいっすね!」
鉄格子を前に後ろに、外そうとするが僅かに金属がぶつかる音がするだけでびくともしない。
牢屋は頑丈な鉄格子に周りの壁は岩盤で出来ていた。
捕まった時に愛用のナイフなどの荷物は全部没収されてしまったので、岩盤に穴を開けて……なんて事も難しい。
「無駄だぁ無駄。大人しくしてた方が懸命だぜ?」
「って逆になんでアンタはそんなに落ち着いてられるんっすね!? オレたちこのままじゃ明日には仲良く絞首台行きっすね!」
「しかたねぇんじゃねーか? 俺様、今まで散々やってきたしなぁ。強奪、殺人なんて日常茶飯事だったしよぉ。罪状だけで本が一冊できるんじゃねーか?」
「看守さーんっ! オレ、このおっさんと何の関係もないっすね!! ってか、せめて別の牢にしてくれっすね!! なんで二人っきりで同じ牢なんっすねッ!?」
叫んでみるも誰もいない廊下に声が虚しく響くだけだった。
「キャンキャンとうるせぇなぁ、安心しろ別にテメェに何もしねぇよ……。そもそも殺すつもりだったら、この国に着く前に幾らでもチャンスはあったからな」
「今の話の聞いて何を安心しろって言うんっすね! それに殺すつもりがないって言うなら、オレたちが海賊じゃないって警備隊にいって欲しかったっすね!」
このままでは海賊として、あらぬ罪を着せられて処刑されてしまう。
後ろで太々しく座っているタンビュラを睨みつけると鼻で笑い返された。
「ハンッ、お前、馬鹿だなぁ」
「なっ!」
「俺様が『こいつらは仲間じゃねぇ』と言った所で連中は信じねぇし、むしろ仲間じゃねぇかと疑われるに決まってんだろうが……」
「た、確かに」
「だから、今はこうして静観しているのが一番なんだよ。むしろ俺様がお前らのとの関係を否定も肯定もしなかったからここまで生きて連れて来られて、お前の兄貴とエルフの嬢ちゃんが話を聞かれてるって訳だ」
「だったらなんでオレは牢屋に入れられたんっすね?」
「そりゃ、お前が捕まるときに散々暴れたからだろ? 逆に大人しくしてたあの金髪のにぃちゃんはこうなる事を読んでたのかもなぁ?」
兄貴ならそれぐらい考えていそうだ。ついでに「なんでオレに教えてくれなかったか」と聞けばおそらく「言ってもどうせ考えなしに暴れるに決まってる」と返される一連の会話の流れまで容易に想像できた。
「兄貴はそう言うところしっかりしてるっすから兄貴を信じて待つっすね……それよりヒメルたちの方は大丈夫っすかね?」
ここまで色々あって考えられなかったが、気持ちに余裕が出来たからか別々に行動をした仲間のことを思った。ヒメルが言った通りなら明日、世界で魔物が大量に現れる。ここインカローズでは火の大精霊が魔物化して首都を襲うとの事だったが、隊長の故郷も同じ様に魔物に襲われて滅びてしまうかもしれないとの事だった。
自分の村を出てから、隊長のところに世話になったオレたちの今の家もカソッタ村にある。村の人間が少ないから、村人はみんなオレたちにとっては家族も同然だ。出来たらオレも村に行きたかったが、セレナイトがそれを止めた。
「考え出したらめっちゃ不安になってきたっすね……。隊長とヒメルだけで……いやっ! アルカナもいるっすけど!」
余計なことを考えないように首を大きく横に振った。
タンビュラが大きなあくびをひとつし「大丈夫だろ?」となんとも無責任な返事が返ってきた。
「あの嬢ちゃんは負けん気がつえーからな。どうにもならなくなったら俺様を倒した時みたいにとんでもねぇ事でもしてどうにでもするだろ」
「そ、そうっすかね……そうっすよね!」
◇◆◇◆◇◆
「──そう自分に言い聞かせて、一夜を明かしたんっすね……」
「ずるいッ!! タンビュラ船長と二人っきりで夜を明かすなんて……ゆ、ゆゆるせないぃいいぃい……」
「って、誰っすねアンタ!?」
“嫉妬”という名のドス黒いオーラを漂わせたセリサイトが、じっと水面のギン兄を睨んでいた。
──ってかいつの間にここにいました!?
「あー……彼はタンビュラ船長の仲間でセリサイト。なんか色々あって他にもタンビュラの船にいた海賊があと二人。一緒にいるよ」
「そんなことより!! これッ! 火の国に繋がってるんですよね!? 僕のタンビュラ船長は、一体どこにいるんですかッ!?」
「おっさんは」
「おっさんじゃないです! タンビュラ船長ですッ!!」
ギン兄に噛み付く勢いで訂正を入れるセリサイト。本当にタンビュラのおっさんの事が絡むと急に強気になる、と言うか恐いわッ!
その勢いにたじろぐギン兄の横で平然とした様子でセレナイト様が話を続けた。
「あの船長の話も合わせて私が順に説明しよう……」
そういうと今度はセレナイト様が語り始めた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
今回は火の国に向かったギン兄のお話でした。
ちなみにナイフを没収されたときに精霊が見える魔法陣も没収されたので、水まんじゅうの出番はお休みです。
多分、近くにいるとは思います。
次回はセレナイトのお話です。
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24.5.10修正




