8話:姫琉と水伝鏡
『セレナイト様が呼んでいる』と言われて風を斬る勢いで村までダッシュした。
体は筋肉痛や諸々でボロボロだったはずだが、人生において一番早く走ったんじゃないかと思っている。
アルカナに付いて行きたどり着いたのは、何故か村にある共同の洗濯場だった。
この世界、洗濯機なんて便利なものはない。ランショウがそれっぽいもの作ろうとしていたけど、多分ない! 少なくともこの村では洗濯は、四畳ぐらいの大きさの石桶に水を溜めてゴシゴシと手洗いしている。
そんなことはさておいて、アルカナに『セレナイト様が呼んでいる』と言われてきた洗濯場には麗しのセレナイト様の代わりに隊長が石桶の中をじっと見ていた。
「ったくやっと来たか。そもそもなんで勝手に持ち場を離れてんだよ」
「あれ……なんで隊長がここにいるんですか。それにセレナイト様は何処に?」
そう問いかけると。
「やっと来たか、占い師」
突然姿は見えないのにセレナイト様が私が呼ぶ声が聞こえた。
「セレナイト様ッ!? 一体どこに!!」
キョロキョロと辺りを見渡すがセレナイト様の姿はやはり見当たらない。
「ちがうちがうよー。セレナイト様はこっちだよー」
アルカナが石桶の上でくるくると飛んでいる。
石桶に突っ込む勢いで中を覗くと中には水が溜められており中には。
「セ、セセセレナイト様ぁあああ! なんでそんな水の中にいらっしゃるんですか!!? 今、出して……ってあれ?」
溜められた水に両手を突っ込むもその先には何もない。水面に映っていたセレナイト様の美しいお顔が大きく波打っただけだった。
「火の国に行ってる奴が此処にいるわけないだろ? ちったぁ考えろよ……水伝鏡と同じ原理らしい。水の精霊の力を介して映像と音声を繋げてるそうだ」
「あー……水伝鏡。そういえばそんな魔道具があったっけ。これ水伝鏡なんですか?」
ゲームで出てくる水伝鏡は私たちの世界で言うテレビ電話だ。水面に通信している相手が映る。
でも、ゲームに出てきたのはもうちょっと機械っぽかった気がする。少なくともただの石桶の水でできるようなものじゃなかった、と思う。
「私が水の精霊に頼んで繋げている。貴様ら人間のような魔道具などと言う邪道なものを使わなくともこれくらいは造作もない」
水面越しにセレナイト様が説明をしてくださった。
「さすがはセレナイト様!! 素敵です! 素晴らしいです! これならどんなに離れていてもいつでもセレナイト様とお話できますね!!」
「貴様と話すことなどないわッ!」
「怒ったお顔も素敵です」
目を釣り上げて怒るセレナイト様なんてとてもレアだ。冷たくあしらわれるのもいいが、これはこれで大変いいものだ。
「もう、この通信……切っても構わないだろうか?」
「いやいやっ! ヒメルに聞かなきゃいけない事があるんすっよね!?」
水面に映るセレナイト様の横にさらにもうひとり見慣れた青年の慌てた姿が映る。
「あ、ギン兄だ。やっほー」
思わず水面に向かって手を振ると気がついたギン兄が手を振りかえしてくれた。大変ノリが良い。
「ってそれどころじゃないんすよ! ヒメルが言った通り火山から赤いドラゴンが現れて大変だったんっすからね!!」
「赤いドラゴンって事はそっちはファイアドラゴンが出たの!! じゃあ首都が、街が襲われたの!? インカローズさん……アルヴァの王女様は無事!?」
「街もインカローズさんも無事っすね。ドラゴンは」
「あの魔物は私が眠りにつかせた……あのように精霊が魔物になるなど……」
苦しそうに話すセレナイト様。魔物は元は精霊……そう考えると魔物を倒すことはセレナイト様にとってはとても辛いことに違いない。
「他の国でも同じ様に大精霊が眠る土地で精霊が魔物になる現象が一斉に起きたようだ。……ただ一つ、貴様がいる土の国以外は、な。占い師」
「はい! なんでしょうか!?」
「貴様、一体何をした? 何故、土の国だけ何も起きていないのだ」
「えっ? 何故って言われても、う〜ん……?」
セレナイト様からの質問にはできたら答えたい。普段使わない頭をフルに回転させる。
土の国以外ではゲームのストーリー通りに大精霊が魔物化している? 火の国の首都の崩壊は防いだけども基本はゲーム通りっぽい。ゲームのストーリーに関わる事で私がやった事って? 幽霊船? いや、関係ないよな。あれかなレヴィアタンにあった事? なんかちがうかな……セレナイト様を連れ出したこと? いや、だったら土の国だけって事ないか。 う、う〜ん…………。
いくら頭を捻っても正解っぽいものが思いつかない。
しばらく考えていると後ろから声がした。
「なんじゃ、コレは? 水に知らん顔が映ってる。おっ、なかなかな別嬪さんが映ってるのぉー」
途中で置いてきたランショウがやっと追いついたらしく背後から石桶を覗き込んだ。
「そこに映ってるのはセレナイト様と横にいる銀の髪がギン兄です。うっかりセレナイト様に失礼な事言ったら、その舌引っこ抜きますからね!」
「誰だ……その人間は?」セレナイト様が尋ねるとランショウはいつもと同じ様に名乗りをあげた。
「儂は風の国でガラクタを造ってる変わり者の天才発明家・ランショウじゃ!!」
ドヤ顔で名乗ったランショウを水面の向こうで、二人がとても微妙な顔で見ている。
「おおー!! コレがヒメルちゃんが前に話しておったセレナイト様かの。『麗しい』とか『最愛』とかいってからてっきり男じゃと思ったんじゃが、こんな綺麗なお嬢ちゃんとは……まあ胸はヒメルちゃんと一緒で……ッがふ!?」
失礼な事を言いそうだったランショウに尽かさず肘で鳩尾を抉ってやった。
綺麗に決まったのでランショウが後ろでむせている。ざまぁー。
そんなランショウは放っておき話を戻す。
「申し訳ございません。いくら考えてもこっちでだけ魔物化が起こってない原因に見当がつきません。隊長は……」
横でただ黙って立っていた隊長に視線を投げた。
「俺が知る訳ないだろ? だからわざわざお前を呼びに行かせたんだよ」
「そうですよねー」
とは言われても何も思い浮かばない。
「なんじゃ? さっきから何を悩んでおるんじゃ?」
復活したランショウが会話に入ってきた。
仕方がないので、ここ以外では魔物化が起きている事と、何故ここでは起きていないのかについて考えていることを話した。最初は「大地の魔力が不足したからでは?」と言うランショウの意見は一瞬でセレナイト様によって否定される。
「ん〜〜〜〜。精霊の魔物化が魔力不足以外じゃとしたら何が原因なのかの?」
「それは、わかんないけど。少なくとも私たちがやって他のところではやってないことがヒントになるんじゃないかな。ちなみにギン兄たちは火の国では何をしてたの?」
その質問に一瞬ギン兄が言い淀む。
「……実は、火の国に着くなり火の国の警備隊に捕まったんすね……」
「……はい?」
いつも読んで頂きありがとうございます。
久々のセレナイト様とギン兄の登場でした。
セレナイト様本当に久々過ぎてセレナイト様の出てた話を読み返したんですが、セレナイト様出番少ないですね。
エルフの国と船でちょっと出ただけだった。
もっと出番増やしたい……。
次回は火の国であったお話(予定)です!!
最後に評価・感想お待ちしています!!




