7話:姫琉と鎮守祭当日
久々の姫琉の登場です!
カソッタ村の住人は三十人にも満たない。
その全員が村からの避難をせず、全員を全力で守ることになってしまった私たち(というか隊長が)。
最初から戦うつもりで準備してきたから、私はどうとも思ってないんだけど。
当初、村人を村から避難させるつもりでいた隊長はそうじゃなかった。
隊長は鎮守祭までの残り少ない時間で村の周辺に魔物避けの柵を作ったり、罠を仕掛けたり、村人が当日一ヵ所に集まれる場所を整えたりと寝る間も惜しんで準備していた。
私も強制的に手伝わされ、おかげさまであちこち筋肉痛だ。だがその甲斐あって準備は無事終えることが出来た。
そして迎えた鎮守祭当日。
“チュンチュン……”
暖かな午後の日差しの中、のどかに小鳥が鳴いていた。
「平和じゃの~」
地面にあぐらをかいたランショウが言った。
すると、それに続くように海賊たちが口々に文句を言い出した。
「何も……起きない、ですね……? いやっ! べ、べつに起きてほしい訳じゃないですけどっ!? というか僕、戦いには不向きなんで本当に……魔物なんて、出なくていいです」
「オイッ、強え魔物が出るって話じゃなかったのかよ!」
「いや、俺も魔物なんて出ねぇなら出ねぇ方がいいんですが。なんでコランダムさんは戦いたがるんだか」
「あれ、おかしいな……? お昼もとっくに過ぎたし、ゲームでは何か起こっててもいいころなんだけど?」
しかし、待てど暮らせど何も起きない。
「実は今日が鎮守祭の日じゃないのではないか」と口にすれば、ランショウが事前に村の人にも確認してくれたらしく今日が鎮守祭の日で間違いないそうだ。
ノームの洞窟に近い場所で待機をしていたランショウも海賊たちもすっかりだらけていた。
ランショウなんて、どこから取り出したのかお茶をすすりながら煎餅を食べ始めている。
ちなみに隊長はここにはいない。
アンナさんを含む村人たちと一緒に隊長の家がある坂の上にいるからだ。アルカナは連絡係として、こちらとあちらを行ったり来たりしている。
今は隊長の方にいるアルカナからの連絡が来ないという事はつまり、向こうでも何も起きていないんだろう。
──なんで何も起きないんだ?
ゲームでは鎮守祭の日に各地の大精霊を祀っている場所で魔物が発生した……って王様が言ってたハズ。それにゲームじゃ大精霊は全員、魔物化して暴走してたから……。
「あっ! 村に魔物が来るのが今日じゃないとか? ノームの洞窟では魔物が発生しているけど、村には来てないだけとか?」
てっきり村が魔物に襲われる日は精霊暴走の起こる今日だと思っていたが、コレは自分が勝手に思い込んでいただけだと気づいた。
精霊が魔物化するのが今日だとしても、村に魔物が攻めてくるのは別の日、この線は充分に考えられる。だってゲームのどこにも『この日、村が魔物によって滅ぼされた』なーんて文章はなかったしね。
「って事はいつ魔物が襲ってくるかわからないから、しばらく警備してなきゃいけないってこと!? えー……一刻も早くセレナイト様たちと合流したいのに……」
がっくりとうなだれた。
向こうも心配だし、セレナイト様と早く会いたいが、ここをほっぽり出してセレナイト様に会いに行くのは気分が悪い。どうせなら完璧に解決して、セレナイト様から褒められたい!!
すると突然コランダムが立ち上がった。
「オイッ、とっとと行くぞ!!」
そういうと私の体をヒョイっと持ち上げ、米俵を担ぐように肩に担がれた。
「行く、行くってどこに!? タンビュラ船長のとこならまだ行けないからね! ここの魔物倒してないし!! ってかおろせーッ!! この持ち方やめろー!! セクハラー!!」
叫びながらジタバタ騒ぐもびくともしない。
まあ、知ってたけど。コランダムの怪力っぷりは既に目の当たりにしてるので……。むしろこのまま力を入れられたら私の背骨は、板チョコのように簡単に真っ二つだ。
「耳元でギャーギャーうるせーよ。魔物は洞窟にいるんだろ? だったらこんなとこで待ってねぇで洞窟までぶっ倒しに行きゃいいじゃねーか」
「……あ〜〜なるほど。その手があったか」
言われればそうだ。
魔物がいる場所ははっきりしているんだから、こんな所で待たずに自分で行けばいいんだ。幸い、地下までのショートカットは、この前コランダムに開けてもらったのですぐに行ける。これで、魔物を倒せば、すぐにセレナイト様に会いに行ける!
「じゃあ、私はアルカナ呼んでくるからちょっと待っててよ」
「いや、いらねーだろ。魔物なんて俺が全部倒すからな」
……この間の蹴りを見ると『できるんじゃね?』とも思わなくもないが、コランダムから我が身を守る術としてもアルカナを呼んでおきたい。
「魔物を一人倒すんだったら私はいらなくない? ってか降ろして欲しいんですけど!!」
「あー……保険だよ、保険。それにテメェの歩くスピードに合わせてたら日が暮れちまうからこのまま行くぞ」
「ぎゃー! 人攫い! 鬼ッ! 人でなし!!」
「なんじゃ、洞窟に行くのかのぉ? だったら儂もついて行くぞ。ここの守りならセリくんとダイくんが居れば足りるじゃろ? なーに念のための保険じゃ! ってな訳で儂も担いで行ってくれんかの」
「テメェで歩け」
そういうとコランダムはスタスタと歩き始めた。私を担いだまま。
「ってか私に拒否権ないの!! 助けてーーアルカナッーーーー!!」
◇◆◇◆◇◆
結果として、ノームの洞窟の最深部に到着するもそこには何もいなかった。
魔物が発生した雰囲気もなく、なんなら他の道も確認するもゲームでは固定でいるはずの魔物もいなかった。
「結局、魔物なんて一匹もいねぇじゃねーか。どうなってんだ、ぁあ?」
「そんな凄まれても困るし。ってか私の方がどうなってるのか知りたいし!」
「そもそも占いなんじゃから、当たらないこともあるんじゃないかの、のぉーヒメルちゃん?」
「(占いじゃないんだけど)そういうこともあるのかな?」
いささか腑に落ちないが、ゲームの世界であっても、もしかしたらゲーム通りではないのかもしれない。そんなことを考えながら、筋肉痛で重たい足を頑張って動かし、とぼとぼと村へ向かって歩いた。
そうして村の入り口が見えてきた時には日はすっかり傾き始めて夕方になっていた。
「なんか何もないって分かったらどっと疲れた。もう今日はすぐに軽く夕飯を頂いたら、お風呂入ってぐっすり寝よう。で、明日になったら村を出てセレナイト様と合流しよう! うん、そうしよう」
「今日のヒメルちゃんはひとりごとが多いの? 何か悩んでるんじゃったら儂が相談に乗るぞ?」
「ううん、大丈夫。たとえ悩んでても、ランショウには“絶対”相談しないから、大丈夫」
「なんじゃ、酷い言われようじゃのー」
「オイ、それより約束は守れよな? タンビュラ船長がいるところまでしっかり連れていけよな」
「分かってるよー。ってかランショウの船、壊れちゃったから帰りは歩きなんだよねー? この村にくる前にあった大きな川から呼んだらオパール迎えにきてくれないかな、流石に無理か。無理だよねー……」
そんなくだらない会話をしていた時だった。
「ヒーメールー!! たいへん、たいへん〜!!」
村の入り口からアルカナが私の名前を呼びながら飛んできた。
村で何かあったのかと身構えると。
「セレナイト様がーヒメルを呼んでるよぉーー!」
アルカナのその言葉を聞いて村まで全力で走った。
いつも読んでいただきありがとうございます。
この間、感想と初めてのレビューをいただきました!!
すっっっっっっっごい嬉しいです。
この場を借りてお礼申し上げます。
本当にありがとうございました。
さて、やっと物語が姫琉に帰ってきました。
また、姫琉たちをよろしくお願いいたします。
24.5.9修正




