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推しキャラの為に世界を壊そうと思います ~推しと世界を天秤にかけたら、推しが大事に決まってるでしょ?~  作者: 空 朱鳥
第二部

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2話:エレメンタルオブファンタジー②

 “ゾワ…………“


 突然、寒気に似た嫌な感覚が背中を走った。

 ネフライトも同じ様に感じたのか、ピタリと歩みを止めた。次の瞬間。


「キャアアアアアアッ!!!!」


 静寂を切り裂く様な悲鳴が突然上がる。

 恐怖を帯びたその悲鳴を皮切りに、教会の外から大勢の人の恐怖を帯びた声が上がった。


「わぁああああああっ!」

「まっ、魔物が現れたぞ!!」

「だ、誰か!! 誰でもいい!! 助けてくれー!!」


 その叫び声に混じり、獣の様な唸り声があちこちから聞こえてくる。

「な、ん……なん、だよ……。一体何が……」

 頭の中が真っ白になった。

 あまりに突然の事で、現状がうまく理解できない。

「危ないッ!」

 ネフライトが叫んだと同時に俺目掛けて黒い影が飛びかかってきた。

 咄嗟に腰に差さった剣を抜き、飛びかかってきた黒い影を受け止めると“ガンッ!“と鈍い音をたてた。

 剣で受け止めたものに目を向ける。

 そこには、血の様に真っ赤な口に大きな白い牙をした獣が喰らい付いていた。

 犬の形をしているが、それが普通の獣ではないとすぐにわかった。体からゆらゆらと黒い影が出ていたからだ。

「ッ!! どっから出てきやがったんだよ! このわんころ!! 離せッ! この剣は、お前のおやつじゃねーんだよッ!」

 剣を思いっきり振ると、獣は剣を離し後ろに飛んで距離を取った。


「あんなわんころ、どっから出てきたんだよ」

 わんころと言ってはみたもののただの強がりだ。でも、アレをただの獣じゃないと認めることが恐ろしかったのだ。

「大バカ者ッ! あれが犬に見えるのか!? どう見ても魔物だろっ! よく見てみろ、アイツの足元の影が炎の様に揺れている。アレは、闇属性の魔物の特徴だぞ!」

 冗談が通じない男が、懇切丁寧(こんせつていねい)に説明し出した。

 ──現実を直視しないようにしてたのに!!

「あ゛ーわかってるよッ!!  俺はただ何処から現れたかって……」

 そう言いかけて言葉をつぐんだ。

 襲いかかってきた犬型の魔物の後ろに同じ様な犬型の魔物がゾロゾロと現れた。俺たちの様子を伺いながら、ジリジリと距離を詰めてくる。一瞬でも隙を見せたら一斉に襲いかかってくるつもりだろう。

 構えた剣がガクガクと震える。


 ──こんな数の魔物にいっぺんに襲いかかって来られたら……。


 横で同じように剣を構えたネフライト。だけど、魔物の数は十は超えている。二人で挑んでも勝てるかわからない。だったら……。


「ネフライト。俺がいち、にのさんで合図したら教会の中に逃げるぞ」


 その提案に、ネフライトは怪訝に返事を返す。

「逃げる……逃げるだって? 敵を前にしてそれは騎士として恥ずべきことだぞ!!」

「中に行けばカルセドニー隊長や先輩たちがいるはずだろ? それともお前はこの数相手に俺たち二人で戦うつもりかよ。そうだ、これは逃げじゃない。戦略的撤退だ」


 ネフライトは少し唸るも「わかった……」と返事を返した。

 足を後ろに少し下げる。

「──いくぞ。いち、にの……さんッ!!」

 その合図に魔物に背を向けて教会の扉を目指して走った。一斉に魔物たちが俺たちを追いかけてくる。

 魔物の牙が鞘に喰らい付くと、鞘ごと魔物を放り投げた。

 投げた魔物が他の魔物にぶつかり、隊列が崩れる。

「ヒスイ!! 早く来いッ!」

 すでに到着していたネフライトが扉を手をかけて俺を呼ぶ。

「クッソ! とりゃぁああああああ!!!!」

 扉に向かって飛び込んだ。

 ネフライトはすぐさま扉を勢いよく閉め、自分の鞘をカンヌキがわりに突っ込んだ。次の瞬間、“ドンドンッ!”と魔物たちが扉にぶつかった音が聞こえてきた。


「ハァ……ハァ……あー死ぬかと思った。街の中で魔物なんて見たことないぞ。それにあの数……」

「あれはブラックウルフだろう。よく街道なんかで目撃が報告される闇属性の狼型の魔物だ。一匹、一匹はたいして強くないが、群れで襲いかかって来られたら厄介だな」

 ネフライトは息ひとつ乱さず、淡々と分析をしだした。


「で、なんでさっきまで何もいなかったのにブラックウルフがあんなに現れたんだよ」

 気を抜いていたとはいえ、あれだけの数のブラックウルフを見逃す訳がない。それに外にだって警備をしている騎士がいた筈だ。その目を掻い潜って入ってこれるだろうか。


「最近、学会で発表された魔物に関しての論文を読んでないのか。新聞にも一部抜粋して載ってたが?」

「ない! 新聞はオブシディアンの記事が出てないと読まない!」

 はっきりと言いきると、しゃがんでいた俺を呆れた目で見下ろしてきた。

「オブシディアン様の記事ばかりではなく、あらゆるものを読んだ方がいい。自分の好みの情報しかいれないと、知識どころか思考だって偏ってくる。ボクとしては、新聞を読むなら少なくとも主張が違う新聞社のものを三社は読み比べるべきだと考える。それにヒスイは」

「わっ、わかったから! その話はまた今度な。で、その魔物に関しての論文には何が書いてあったんだ?」

 くどくどと説教が始まりそうな空気を察して、話題を戻した。こいつは、こんな状況でも妙なところが真面目で困る。

 ネフライトはため息を一つすると話し出した。

「論文には、近年増えている精霊の魔物化は、大地の魔力過多による精霊の魔力不足が原因ではないか……と書かれていた」

「大地の魔力?」

「魔力の循環については基礎の基礎だぞ!? ……お前は本当に騎士学校を卒業したのか……?」

「へへ……座学はギリギリだったから」

 軽く舌を出しておどけてみせると、ネフライトはさらに呆れた顔をした。

「はぁ……世界にある魔力には流れがある。人から精霊へ、精霊から大地へ、大地から再び人へと循環している。だが、ボクたち人間が使う精霊石はこの中で大地にあたるそうだ。その精霊石の多様化によって、精霊にいくはずだった魔力が流れず、精霊が魔力不足になり魔物になる……という話だった。……って聞いてないな!」

 途中からうつらうつらとしていたのに気づき、鋭い視線が突き刺さる。

「聞いてた、聞いてたって! ただ、理解できなかっただけで」

「……お前には前々から言おうと思ってたんだが、騎士とは剣の腕前だけじゃなく、あらゆる面において」

 ネフライトの説教が再び始まろうとしたその時だった。

 閉じた扉から“ドンッ!”と言う音に驚き、再び緊張感が走った。

 ブラックウルフたちが扉を壊そうと攻撃を仕掛け出したのだ。

「その話はまた今度って事で! 今は応援を呼びにいかなきゃだろ?」

「そうだったな……。行くぞ、ヒスイ!」

 俺たちは誰もいない廊下を走り出した。


 しばらく走ると、少し広い空間に出た。

 先程までの廊下の造りとは違い、磨き抜かれた白い石が床から壁にかけてその空間を覆っていた。

 さらに見上げる程高い天井へと続く同じく石でできた螺旋階段があった。

 初めて来た場所だが、ここが神聖な場所だと一目でわかった。

 そしてすぐ、その白い空間に真っ赤な血だまりとそこに倒れていた人間に気がついた。

 聖職者の服を着た男数人が倒れており、駆け寄るとすでに事切れていた。

「だめだ……、もう死んでいる。この傷口、牙みたいな跡がある。まさか中にも魔物が……?」

「かもしれないな……。だが、中には警備の騎士たちがいたはずだが」

 辺りを見渡すと、螺旋階段のから血が滴っているのが見えて、そこに恐る恐る近づいた。

 そこには、見知った顔の騎士が肩から大量の血を流してぐったりと階段にもたれかかっていた。

 彼の名前を呼びながら駆け寄った。

「カルセドニー隊長ッ!! しっかりして下さいよ!!」

 そこに倒れていたのは、自分たちが騎士学校を卒業してからよく面倒を見てくれる騎士団の、俺たちが所属する隊の隊長だった。

 体を揺さぶると「ぅ……ぅう……」と小さな呻き声が聞こえて、うっすらと目を開けた。

「揺さぶるんじゃ……ねーよ。いてぇーじゃねーか……くッ……こんな魔物に不意をつかれるなんて……年はとりたくないな」

 皮肉をいいつつも、返ってきたその声は息も絶え絶えだった。

「よかった……」

 生きていたことに安心して、思わずそんな言葉が出た。

「はぁ……はぁ……なんだ、……ヒスイに、ネフライト。半人前コンビか。……他の奴らは、どうした?」

「わかりません。ボクたちは、教会の外の警備をしていたのですが突然ブラックウルフの群れが現れて、応援を呼ぼうと教会の中に飛び込んだので……」

 ネフライトの説明を聞き「外もか……」と一人で納得したかのようにカルセドニー隊長はつぶやいた。

「そんな事より、隊長の傷の手当を……」

 しかし、隊長は手当をしようと差し出したネフライトの手を止めた。

「無駄だ……、血を、流しすぎた、もう、助からん。それより、お前ら半人前に……命令だ。この、階段の上の……祈りの間に、神子様が、おられる。……神子様を、無事王宮まで送り届けろ……」

「そんな、俺たちだけじゃあんな数の魔物を倒せる訳……」

 弱気な声をあげると息も絶え絶えだったカルセドニー隊長の口から


「甘ったれるなぁあ!! それでもお前は騎士かぁあああああ!!」


 その大きな声に空気が振動し、鼓膜がビリビリと痺れた。

 オレもネフライトも思わず目を丸くした。

「ゴホッ……ゴホ。ヒスイ。お前は散々英雄になりたいと言ってたじゃないか。もし、神子様を守り切れたら英雄さ。大丈夫だ……お前は一人じゃない。ネフライトもいるだろう……半人前も二人揃えば、一人前さ……お前たちにならできる、さ……ハァ、ハァ……」

 俺たちはただ頷くことしかできなかった。

 頷く様子を見て、副隊長は満足げに笑うと腰から剣を取り出した。

「こいつは……選別だ。コイツは昔、オブシディアン隊長にいただい、た……エレメンタルソード…………ヒスイ、おまえに……くれて、やるよ……」

 差し出された剣を受け取ると、カルセドニー隊長の手はゆっくりと力なく落ちていきそのまま動かなくなった。

「……カルセドニー隊長。俺……俺……」


 情けない。


 こんなに激励をされても俺の体はガタガタと震えていた。

 静かに眠る、彼の姿が見ていられなくて思わず下を向いた。

「何が英雄になりたいだッ! ふざけるなッ!! 俺は……英雄になんてほど遠い半人前のただの人間だ……」

 悔しさのあまり涙が込み上げてくる。

「大丈夫だ」

 肩にぽんと手を置かれて、見上げるとそこには同じ半人前のネフライトがいた。

「カルセドニー隊長がボクたちにならできると言ったんだ。それに……一人じゃないからな」

 置かれたネフライトの手が震えてるのがわかった。


 ──自分だって怖いくせに……。

「そうだな。一人じゃない……。いざとなったらお前を囮にして逃げよう!」

「アハハハ! その言葉、そのままそっくり返す!」

 互いにひとしきり笑うと震えは止まっていた。

 隊長にそっ手をと合わせ、急いで階段をかけ上がった。


更新が随分空いてしまいました。

いつも読んで頂きありがとうございます。

今回も姫琉はお休みです。


ちょっとだけ本編にでないお話を一つ。


初出でお亡くなりになってしまったカルセドニー隊長。

英雄オブシディアンがまだ、騎士団で隊長をしていた時。

副隊長として彼を支えていました。

そして、オブシディアンが退役する際に貰ったのが、ヒスイに渡したエレメンタルソードでした。

もちろん、カルセドニーにとってもオブシディアンは憧れでした。

そんな自分の憧れでもあるオブシディアンに憧れて「オブシディアンの様な英雄になりたい!」と騎士になったヒスイを何処か自分と重ねていたのかもしれません。

次回も姫琉はお休みです。


24.5.9 修正

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