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推しキャラの為に世界を壊そうと思います ~推しと世界を天秤にかけたら、推しが大事に決まってるでしょ?~  作者: 空 朱鳥
第一部 

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79話:姫琉と宿

 

 案内された家の中に入ると、しばらく掃除がされていないのだろう、少しだけ埃っぽかった。

「なるほどのおー、少しばかりペル坊の家より小さいが、なかなか良い家じゃの」

 短い廊下を通るとリビングっぽい部屋があり、木でできたテーブルと質素なソファがあった。

「もう僕、これ以上歩けないです」

「セリ。ひとりでソファ占領するんじゃねーよ! 俺が座れないだろーが!」

「うぅ……、ダイアスさん、酷いです。お、押さないでください……」

 一つのソファを大の男が二人が取り合っていた。

 そして、向かいのソファはコランダムがひとりでドンッと使っていた。

「…………」

 海賊どもは放って置いて、隊長とランショウと私は他の部屋を見ていった。

 寝室と思われる部屋が二つ。どちらの部屋にもベットがあったが、少し叩いただけで埃が辺りに舞った。

「コレは、少し干さないとダメじゃの」

 その他に、台所、トイレ、そして……。

「お風呂があるッ!!」

 木でできたお風呂を見て思わず歓喜の声を上げた。

 だって、ここ一週間近くまともにお風呂に入れていないのだ。

 昨日泊まった宿屋にも、何故かお風呂がなかった。

 もちろん水でタオルを濡らして体を拭いたり、桶に水を溜めて髪を洗ったりしたが全然足りない。

 これは乙女としては由々しき事態である。

「隊長! ここのお風呂って使っても良いんですか!」

 目をキラキラと輝かせて隊長を見上げた。

「使ってもいいが、水の精霊石がついてないから水は外の井戸から汲んで来い。ついでに沸かすのは薪だ。家の裏に適当な材木があるから薪にして、外からくべろ」

「ええー……」

 思いのほか、面倒だった。

 水の精霊石から水を生成できる為、この世界には水道という概念がないらしい。もちろん、精霊石が高価なので井戸や共同の水場はあるみたいだけど。蛇口を捻ったら水が出るなんて、誰も考えないんだろう。

「薪割りはランショウがやってくれるよね!」

 なんて名案だろう、と振り返ってランショウを見ると少し不思議そうな顔をした。

「何じゃ、ヒメルちゃんもこっちの家に一緒に泊まるのかの?」

 その言葉に思わずむすっとしてしまう。

「ダメなの? そりゃ、さっきは「テントがあるから大丈夫」と言ったが、私だって出来たら普通の家で過ごしたいよ! せっかくお風呂もベットもあるのに一人だけ野宿で過ごせなんて……最悪だ……ランショウは……なんて意地悪なんだ……」

 さめざめと泣いたふりをすると、ランショウが慌てた様子で弁解を始めた。

「いやっ! 違う! 違うぞ! 意地悪とかじゃなくての、どう言ったらいいんじゃろう……」

 珍しくランショウが唸りながら何かを悩んでいる。

 そんなランショウの姿が実に愉快だったので、一層大袈裟に泣いた真似をした。

 横で私とランショウのコント見せられ隊長は「くだらねぇ……」と言い捨てた。

「なんでもいいが、お望み通り泊まる場所は用意してやったんだ。あとは大人しく、問題を起こさず、争わず、大人しく仲良くしてろよ! わかったか!!」

「仲良くしちゃダメじゃろ!!」

 突然ランショウがお風呂場で大きな声を出すので、声が反響した。

「男と女が1つ同じ屋根の下で一晩すごすなんて

 一晩の過ちでもあったらどうするんじゃ!!!!」

「「……はあ?」」

 思わず隊長と声がハモってしまう。

「ランショウ……サイテー……」

 蔑んだ目をランショウに向ける。

 村に到着するまで、野宿や宿屋に泊まった時も何もなかった。

 なのに今更、何を言い出すんだ。

「部屋はリビングも合わせたら三つあるんだ。問題ないだろ?」

「問題大アリなんじゃ!! こんな男ばかりの家に女の子がひとり同じ屋根の下じゃなんて……お父さん許さんからのお!!」

「誰がお父さんだ」

 思わず突っ込んでしまう。それでもランショウは引き下がらない。頑なに私が一緒にこの家を使う事を拒否する。

「そうじゃ! ヒメルちゃんはペル坊の家に泊めて貰えばいいんじゃないかの?」

「はぁ? なんで俺んちにコイツを……」

「いいからちょっと耳貸せ。……実はの…………」

 あからさまに嫌そうな表情を浮かべる隊長をランショウが風呂場の外に連れて行った。何やらヒソヒソとこちらに聞こえないように耳打ちをしている。

「ってなわけじゃよ」

「……あぁ……だからあの海賊どもが一緒にいたのか。つーか、何であのちんちくりんはそんな面倒なことになってんだよ……」

「じゃろ? だから、一緒の家に泊めるのはやめて置いたほうがいいと思うぞ」

 何やら二人の話は終わったようだが、私はというともう面倒になっていた。

「えー……もう面倒だからいいよ。外にテント張るから」

「ひとりで野宿も危ないじゃろ。それに、ペル坊の家ならお風呂も簡単に入れると思うぞ」

「隊長! どうかお願いします!! 一晩お宅に泊まらせてください!」

 お風呂。その魅力には抗えなかった。

「……風呂。食事込みで一泊で小銀貨十四枚」

「たっか! ぼ、ぼったくりだ!!」

 この間の借金の減額の約二日分が飛んでしまう。すっかり忘れかけていたが、スモモちゃんはぼったくり商人キャラだったと思い出す。

 ぐぬぬぬぬ……。

「いや〜比較的良心的な金額じゃよ。ちなみに昨日の宿は素泊まりで一部屋辺り同じ値段じゃったよ」

「…………そうなの?」

 ゲームではもう少し安かった気がしたけど。

 ちなみに宿屋の代金は、全員分ランショウが払ってくれている。これが、立て替えなのか奢りなのかはわからない。

 ゲームのスタートまで後一週間。

 七日×小銀貨十四枚=小銀貨九十八枚。

 頑張って稼いだ金額の倍の借金が増える計算だ。

「借金が、増える……?」

 自分の借金の総額を考えると眩暈がした。

 でも、流石に今日は土で汚れたし。最悪お風呂にだけはどうしても入りたい。

「隊長……一晩だけ泊めてください」

「…………大人しくしてろよ」

 無言で頷いた。

 そんな訳で今夜の宿は、私だけ隊長の家となった。

「また明日の朝こっちに来るから」

 明日はいよいよ、ノームの洞窟を目指すつもりだ。今晩は小銀貨十四枚分はゆっくり過ごそうと思う。

「じゃあまた明日のおー」

 ランショウに手を振られながら、その家を後にした。




アルカナが前回から出ていませんが、一応姫琉の鞄の中で大人しくしています。

次回は出てくる予定です。


24.5.8誤字修正

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