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7話:姫琉と魔物

「痛い……し、目が回ってる……」

 馬車に放り投げられ仰向けで倒れている。

「なんでこんなことに……」

 アルカナに風魔法をかけられ、魔物に襲われた馬車に投げ飛ばされ、馬車に飛び移ろうとしていた狼っぽい魔物に回し蹴りを決めたとこまでは……よかった。


 うん。


 ただ自分がフリルのスカートを履いていたことをすっかり忘れていただけで。最悪だ……絶対に見られた……。もう~やだ……死ねる。

 気分的には穴があったら入りたいって感じなんだが、穴がないので横向きに寝転がり足を抱えて馬車の隅で丸まった。

「おいッアンタ! さっきの風って精霊術か!? 精霊術師なら手を貸してくれ!!」

 さっき私を放り投げた兼、パンツを見た男が何か言ってるがそれどころじゃない! 正直、放っておいて欲しい!!

 さっきの威勢はどこへやら……。完璧にやる気を無くしていた。


「また、なんか飛んできますぜ!!」

「ヒーメールーーーっ!!」

 叫びながら馬車の幌を突き破ってアルカナが馬車にたどり着く。


「幌に穴がっ! ってかあれ、まさか……精霊っすか?」


「大丈夫!? 大丈夫!? 生きてる!? 怪我してない!? ごめんね! 力加減を間違えちゃったの、死なないで〜ヒメル〜っ!!」

 小さな体で一生懸命に私の体を揺する。

 涙をポロポロこぼしながら泣くアルカナを見たらうずくまっている訳にもいかない……。


「大丈夫だよ……生きてるし、怪我もしてないよ」

 ただし、精神的には大怪我で瀕死してるけど……と心の中で付け加えながらふらふらと起き上がった。


「よかった、よかった♪ じゃあヒメルをいじめたあの狼をやっつけようっ!!」

「そうだねー」

 アルカナは私が狼魔物にやられたと思っているらしい。

 訂正するのもアレなんでそのままにする。

 馬車の後方に向かうと狼魔物の数は減っていたが、奥にひと気は大きな狼がいた。

「あれは……ヘルハウンドかな?」

 ヘルハウンドとは、闇属性を持つ狼型魔物である。ちなみに、その前にいる狼たちをブラックウルフという。こいつらはよくフィールドにいた。

 どちらも弱点はもちろん光。ただ、光の精霊術はゲームでは光の国の王族にしか使えないという設定だった。一応アルカナに使えるか聞いてみるがダメみたい。

 後は聖職者が使える聖魔法があるけど……。


 馬車に載っている男の顔を見る。

 ーーーー……どっちも胡散臭い顔してるし、違うかな。(←失礼)


 倒せそうにはないので、とりあえずあいつらが追って来れない様に足止めしないと。


「アルカナあのね……」

「なになに?」

「あのね。こんな感じに……で……合わせて……ってできる?」

 横の二人に聞こえない様にアルカナに指示を出す。

「んん〜〜、多分できるけど」腕を組み深く悩んでる。

すっごく悩んでる。やっぱり難しいのかな。

「たぶん……たぶんできるけど、ヒメルも協力してくれる?」

「私は魔法つかえないんだけど、それでもできる?」

「問題ないない♪ ヒメルならできるよ!!」

 自信満々に言われるとなんだかできる様な気がしてきた。


「アイツら何する気っすかね」

 完璧に蚊帳の外に出された男たちがこちらを窺っている。

「なんでもいいじゃねぇか。とりあえずあの魔物共をどうにかしてくれるらしいぜ」


「じゃあヒメル! 言った通りに集中して!! それでやりたいことを想像して!!」

 アルカナが両手を狼たちに向けて前に出す。

 つられて私も両手を前に出した。そして「水……それと土……」やりたいことをイメージする。


「「いっけぇー!!」」


 二人の掛け声が馬車に響く。それと同時にアルカナの手から放たれた光がブラックウルフを含めヘルハウンドの走る足元に放たれる。


「そのまま沈んで!」祈る気持ちでそう叫んだ。


 すると光が放たれた地面が泥の沼の様になり、足場をなくしたヘルハウンドたちは沈んでいく。粘度の高い泥らしく泳げもしない様だ。


「やったぁ♪ やったぁ♪ ヒメル大成功だよ!!」

「今のうちに一気に距離をとって!!」

 御者に向かって大声で叫んだ。

「りょっ……了解ですぜ!」

 馬車は一気に走り出した。


 追ってくる魔物が見えなくなると、私のパンツを見た男が声をかけてきた。

 ムカつくからとりあえず『パンツ見た男』と心の中で呼ぶことにする。……と言うかこの顔どっかで見た様な……?

 深い紫色の長めの髪に、片方の揉み上げが何故か三つ編み。若干垂れ目。胡散臭い口元。

 ――――ダメだ思い出せない……。ゲームで出てきたキャラだとは思うんだけど、うーん。

「礼を言わせてくれ、アンタのおかげで助かった。それと……そっちのは精霊……でいいんだよな?」

 興味津々な目でアルカナを見ている。

 あまりにジロジロ見られてアルカナがたじたじだ。

 繰り返しになるが、普通の人に精霊を見ることは、まずできない。アルカナだから見えるのだ。

「変な目でうちの子をジロジロ見ないでいただいていいですか」

 敬語を使ってはみたが、口にした言葉の端端から敵意が隠し切れなかった。それにあまりにジロジロ見るもんだからアルカナも私の後ろに隠れてしまった。

「そう邪険にするなって、とりあえず自己紹介としようぜ。俺の名前はカルサイト。で、コッチの銀髪がギン、馬車を操縦してる金髪がキンだ。三人で旅をしながら商いをしている。俗に言う旅商人ってやつだ」

「「よろしく」」

 キンとギンの顔を見ると髪の色以外瓜二つだ。

 ちょっとびっくりした顔をしてるとキンが。

「お察しの通り、オレたち美形の双子なんですぜ。一応オレが兄貴で」

「で、オレが弟っすね!」

 そう言いながらケタケタ笑う二人は、自分で言うように確かにイケメンだった。

 すらっとしたスタイルでちょっと垂れ目。笑った口元から見える八重歯がまた悪戯っぽさを出していて、ゲームに出てたら人気だったかもしれない。

「で、アンタの名前は?」

 『パンツ見た男』が聞いて来たので渋々答える。

「白石……姫琉……」

「アルカナだよー」

 肩からチラッと顔を覗かせたアルカナも答える。

「ヒメル? 変わった名前だな」

「名前の響き的に、もしかして水の国の出身っすか? だったらオレら兄弟と一緒っすね!!」

 水の国は、島国で古き良き日本文化をモデルにした場所がいくつかある。

「別の世界からきました!」とは流石に言えないので「ま……そんな感じですね」と適当に答えといた。

 こっちが警戒をしているのに気づいているのか、それ以上会話はなく、馬車はゆっくりと進む。

「隊長、やっと街の城壁が見えて来ますぜ!」

 馬車から乗り出すと地平線に高い石の城壁でも守られた街が見えて来た。

「やっと着いたっすね! いや〜今回ばかりはオレ死んだって思ったっすね!」

 冗談っぽく言っているが、アルカナと私がいなかったらこの人たち本当に死んでたのでは?

 とか思いつつ口には出さないでおいた。

 街に着いたらとりあえず、エルフの国に行く手段を探さないと、と考えてつつ横目でカルサイトを名乗る男を見た。


「いやホント、今回はこの嬢ちゃんたちがいなかったらヤバかったな」

「隊長が銃の弾切らしてるからいけないんですぜ!」

「お前の言葉を借りるなら“治にいて乱を忘れず”だっけか? どんな時でも準備を怠るなだっけか?」

 その言葉を聞いて一気にある場面がヒメルの脳裏を走る。治にいて乱を……。旅商人。三つ編みの……揉み上げ!!

 男衆は和気藹々と話していたがそんな言葉はもう耳には届いていない。

「思い出した! スモモちゃんだ!!」

 そう言いながら『パンツ見た男』を指差した。

「…………は?」

お気づきかも知れませんがパンツ見た男と書いて「パンツみたお」と読みます。


20.11.02加筆修正

21.7.9 加筆

22.5.22 加筆

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