77話:姫琉とカソッタ村
【カソッタ村】
ノームの大森林内にある唯一の村。
ごく僅かな村人が、自然と共に生きている。
名産・名物は特にない。
巨大な落ち葉で家が埋もれないようにどの家も高床式になっている。
また、屋根に落ち葉が積もらない様に三角錐の上に丸い球が着いた不思議な形だ。
それ以外に変わったものは、何もない。
普通の田舎。
◆◇◆◇◆◇
「ってな訳で勝手にしろと言われたんで来ちゃいました♪」
「…………ハァァァァ。……なんで家がわかったんだ」
村に到着すると、隊長の家を訪ねた。
隊長は眉間に向かい皺を寄せつつ、そりゃもう深い、深いため息をついた。
「村についてすぐに出会ったお爺さんに聞いたら快く教えてくれましたよ?」
「クソ、これだから田舎は……」
「それ、住んでる人が言うセリフじゃないよね」
悪態をつく隊長に思わずツッコミを入れるとギロリと睨まれる。
「怖いの〜、そんな目で睨まんでもいいじゃろ“ペル坊”?」
「なッ!!?」
ランショウの『ペル坊』という呼び方に気づいた隊長は顔を真っ赤にして焦った表情を浮かべた。次にこちらに『お前が言ったのか!』と言わんばかりの鋭い眼光を向けるが大きく首を横に振った。
いくら隊長にムカついたとはいえ、約束を破るような事はしない。
この呼び方をランショウに教えたのは。
「さっき下で仲良くなったジルコン爺さんに教えてもらったんじゃよ。この家の場所も、ペル坊の事も」
そう言ういつもの様にケタケタと笑った。
「あ゛ッー!! ジルコン爺さんは、なんで“ああ”おしゃべりなんだよッ!!」
隊長は、大声を上げて荒ぶっていた。
確かに下であったそのジルコン爺さんは、なかなかのおしゃべり好きだった。
片手に鍬を持ち、麦わら帽子に土まみれのオーバーオールを着たお爺さんは、村に着いたばかりの私たちを見つけると、村の話やノームの眠る洞窟の話、それに今の旬の農作物の話などなどひたすら話していた。
最初は頑張って聞いていた私も、小一時間もそんな話が続けば、ぐったりとしてしまう。
最後まで話に付き合っていたのは、ランショウだけだった。
少しだけ正気を見失ってた隊長が落ち着きを取り戻すと今度は後ろで黙っていた海賊三人組に視線を向けた。
「で、テメエらはなんでココにいるんだ。テメエらの船長の居場所は教えてやったんだ。こんなところにいないで火の国にでも行けばいいだろ」
明らかな敵意を向ける隊長をコランダムは鼻で笑った。
「俺たちがどこで何をしようと勝手だろ。テメーに関係ねぇだろがよ」
二人の間でバチバチと火花が散っている様だ。
「アイツらの事は気にしたら負けじゃ、それよりペル坊に頼みがあってきたんじゃよ」
睨み合いを続ける二人の間に、ぬう……と割り込む形でランショウが話しかけた。
「ハァ? 頼みだと」
「そうじゃ、今夜一晩泊めてくれんかの?」
「断る!」
間髪入れずに却下された。
「なんでじゃ! ジルコン爺さんの話じゃこの村宿屋はないけど、ペル坊に頼めばどうにかなるって言っとったぞ!」
「知らねーよッ!! だったらジルコン爺さんの家に泊めて貰えばいいだろ!」
「年寄りの家に、こんな大勢で押し掛けたら迷惑じゃろが。そんな事もわからんのかのぉ、ペル坊は」
「こっちだって迷惑だ。それについて来るなって言ったのに、ついて来たのはそっちだろ。それくらい自分達でどうにかしろよ」
来た事を責めるように言ってきた。
「あ、私はテントがあるんで野宿でも全然大丈夫です!」
生憎とココに来るまでずーーっと野宿だった私はすでにテントで安眠できるまでにレベルアップしていた。それにこのテント、すごい事に入り口のチャックを締め切ると魔法陣が発動して結界が張られる仕様になっている。……ファスナーに付いてる精霊石に魔力を溜めないと発動しないから、魔力を使えない私には気休めだけだけど。
「ヒメルちゃんは良くても、船で寝泊まりしていた儂には大問題じゃ。ヒメルちゃんが一緒のテントに入れてくれるって言うならいいがのぉ」
「絶対にイヤ」
即、断った。
──そもそも一人用のテントだしね。
「ペル……騒がしいですけど、誰か来てるのですか?」
女性の声が中から聞こえてきた。
──もしや! 隊長の彼女か、奥さん!?
ゲームには、そんな設定は載っていなかった気がするが気になって部屋の中を覗いた。
そこには、少しだけ白髪の混じった女の人が立っていた。
カソッタ村のネーミングは自画自賛するレベルで気に入っています。
文字の並びだけ見ると一瞬オシャレに見えなくもないけど、声に出して見ると『おや?』っとなるところが大変気に入っています。
24.5.8修正




