76話:姫路と強え奴
「──……ってそんな訳で、ついでにアンタ達には魔物と戦ってもらおうと思ってました! バレちゃったからとりあえず謝る、ごめんねー!」
「「「絶対悪いと思ってねぇだろっ!!」」」
海賊三人からの壮大なツッコミが入った。
タンビュラのおっさんの居場所を隊長にバラされた今、もはや頓挫してしまった計画なのでそこは快く許して欲しい。
「生憎と使えるものは使う主義なんです」
「清々しいほど開き直るんじゃねーよっ!」
「ふーんだ。それに先にそこの浅黒い人が暴力でどうこうしようとしたから悪いんだし」
「そもそもテメエらが街を襲って、船を奪わなきゃこんな事にはなっちゃいねーんだよ!」
「それを言ったら、港街を占拠してたそっちが悪いんじゃん!」
ダイアスが突っかかってくるので、くだらない言い争いが続いた。だが、先程殴りかかってきたコランダムが何も言い返して来ない。ツッコミの後から一言もしゃべらず、静かすぎて逆に不気味だ。
──あれか……頭をおもいっきり蹴ったからかな? 頭は危険だって言うからなぁ~。その時は大丈夫そうでも、後から具合が悪くなって倒れるとか、下手すると死んじゃうって言うし……さすがに死なれると嫌だなぁ……。
「まぁでも、隊長にバラされちゃって結局未遂で終わった訳じゃん? だからもう今回の事は言いっこなしということで……」
「魔物が……」
今まで黙っていたコランダムが口を開いた。
「……魔物が村を襲うって話は本当かよ」
「ん~…………た、多分?」
隊長ことスモモちゃんがいて、セレナイト様がいて、ランショウがいて……ワールドマップもゲームの通り。ここがエレメンタルオブファンタジーの世界なのは、もう疑いようにない事実。だけど、ゲームの通りに進んでいるか不安なところだ。
横にいるランショウにチラッと視線を向けた。
ゲームのメインパーティーのランショウがここにいる。セレナイト様はエルフの国にはいない。
これがこの先、ゲームのストーリーにどんな影響を及ぼすかは私にだってわからない。
──できたら推しが死なない方向に進んでほしいな。
だけど、魔物化の原因がゲームのストーリーの魔力不足じゃ無いなら精霊暴走は高確率で起こるだろう。そんな意味も込めて曖昧に答えた。すると……。
「なんでそんな事がわかる」
「えッ!? なんでって……」
──だって、ゲームやったから!
そんな事は答えられない。
今してる話も信じてもらえないなら、「この世界がゲームで他の世界から来ました!」なーんて言ったら面倒なことになる未来しか見えない。そもそも信じてもらえなさそう。
──だったらアレだ!
「それは、私が占い師だからですッ!!」
あれこれ考えるのが面倒なので、前に隊長が言った占い師を名乗った。占いなんて花占いくらいしかわかんないけど。
「占い師だぁ?」
コランダムは苦々しい表情を向ける。
「そう、私の占いではそう出てるけど、占いだから当たるも八卦当たらぬも八卦です!」
言い切った。
それに対して近くにいたランショウがニコニコ顔で「ヒメルちゃんが占い師のぉ、ところで八卦ってなんじゃったかの?」なんて下らない事を言ったが無視した。そして肝心のコランダムは素っ気なく一言「そうかよ」と返して再び黙った。
他の二人も何も言ってこない。少しだけ、セリサイトが落ち着きなくソワソワとしていたけれど、タンビュラのおっさんの居場所がわかってすぐに追いかけたいんだろう。
「そんな訳で、私は私を信じて先に進むので、三人とはここでお別れという事で、じゃあねー」
軽く手を振り、荷物を担いだ。
──う……お、重い。
ここまで来るのにバックの中身は多少軽くはなったが、それでも重い。ここまでは船に積んでいただけなので気にしなかったが、中身を減らすべきか少し迷った。
「寄越しな」
コランダムの声と共に背負ったリュックごと持ち上げられた。慌てて肩紐から腕をするりと抜いて脱出した。
「ちょっとッ! 荷物盗らないで、返してよ!!」
「重たいんだろ、運んでいってやるよ」
そういうと軽々とリュックを肩に担ぎ、コランダムが森の入り口へと歩いて行く。
「いやいやいや! え、何っ? なんで森に進んでるの!? アンタ達の船長は火の国にいるって言ってるじゃん!! これ以上連れてってもらっても私に払える報酬なんてないよっ! とっととタンビュラ船長を追いかけに行けばいいじゃん!!」
「そ、そうですよコランダムさん! 早くタンビュラ船長と合流しましょうよ!」
動揺する私に続いて、セリサイトが慌てて森へ進もうとするコランダムに駆け寄ると必死に説得をしているようだった。
「うるせえ! セリッ、テメエは黙ってろ!!」
その一言でセリサイトを一蹴させた。
「報酬はいらねー…… と言いたいところだが、もしその魔物を倒せたら海賊船まで送り届けて貰おうじゃねーか」
思わず自分の耳を疑った。
傲慢で、横暴で、すぐ暴力に訴えてくるコランダムの発言とは思えなかった。やはり、頭を蹴った時の辺りどころが良くなかったのかもしれない。
目を白黒させているとランショウがコランダムに尋ねた。
「どういう風の吹き回しじゃ? お前さんなら、暴力に訴えて『船を出せ』といいそうなのにのぉ」
思っていた事をランショウが代わりに言った。
「俺は強え奴と戦うのが好きなんだよ。その魔物ってのに興味がある。それに……」
振り返ったコランダムと目が合った。何故なその顔は僅かに笑っていたのだ。
「それに俺は、強え女も……嫌いじゃねぇ」
それだけ言うとズンズンと木道を進んで行く。それをセリサイト、ダイアスが追いかける。
私はコランダムが言った言葉に寒気がして、両腕を必死にさすった。
「ヒメルちゃんも妙なヤツに好かれたのぉ」
「え、あれって、つまり私とも魔物と同じように戦いたいってこと……? コワッ!!」
さっきはまぐれの一撃が綺麗に決まったから良かったものの、普通に戦ったら勝ち目なんてない。
──あぁ~……なんでこんな事に…………。
「あ~……そっちで考えてしまうのかヒメルちゃんは。あっ、ほれ、早く追いかけないと荷物だけが先に行ってしまうぞ」
今度はニヤニヤと笑うランショウにイラッとするも、先に進む海賊達が遠くに見えていたので大慌てて追いかけた。
コランダムとセリサイトが個性的なので、ダイアスがちょっと空気だと思って喋らせたけど。やっぱり、印象が……薄いっ!
24.5.8修正




